2016年1月4日月曜日

「離島奪還」を目的とする我が国の水陸両用作戦・装備

海兵隊」として変貌する日本の陸上軍事力

【防衛最前線・総集編】
陸自の最新装備を一挙公開!
10式戦車、オスプレイ、水陸両用車、多用途ヘリUH60

2015.12.30 07:00更新 http://www.sankei.com/premium/news/151230/prm1512300023-n1.html

平成26年10月にスタートした「防衛最前線」のコーナーは、この年末で52回を数える。安全保障関連法の成立もあり、改めて自衛隊の任務や装備が注目されている。そこで、これまで紹介した防衛装備を3回で振り返る。初回は陸上自衛隊に焦点をあてる。

10式戦車

 10式戦車は陸自戦車としては4代目。日本企業約1000社が製造に参加する純国産の最新鋭戦車だ。平成24(2010)年に正式採用されたことから「10式」と命名され、「10」は「ひとまる」と読む。
 最大の特徴は「頭脳」と「身軽さ」だ。陸自戦車としては初めて、C4Iシステムを搭載した。これにより、他の戦車や普通科(歩兵)部隊と情報を共有し、瞬時に味方と敵の位置を識別して連携の取れた作戦行動が可能になる。
 C4Iとは「指揮(Command)」「統制(Control)」「通信(Communication)」「Computer(コンピューター)」「情報(Intelligence)」の頭文字をとったもので、現代戦には欠かせない機能だ。
 旧ソ連による北海道侵攻を想定した冷戦時代と異なり、現在は中国による海洋進出や北朝鮮による核ミサイル攻撃が主要脅威となり、戦車の重要性は低下したと指摘する声もある。しかし、万が一に備えるのが自衛隊の役割だ。ロシア陸軍による極東地域での演習頻度は再び高まっており、高性能戦車を配備することにより抑止力を高める役割を担っている。



垂直離着陸輸送機V22オスプレイ

 固定翼機であればスピードが出るが、垂直離着陸はできず、滑走路や海上に降りなければならない。ヘリコプターであれば空中に静止するホバリングが可能だが、素早く目的地点にたどり着くことはできない。
 固定翼機とヘリの長所を生かし、短所を解消したのが、陸上自衛隊が導入を計画する垂直離着陸輸送機V22オスプレイだ。陸自は平成30年度までに17機購入し、南西諸島防衛のため新設する「水陸機動団」を輸送するため、佐賀空港(佐賀市)に配備する方針だ。尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む南西諸島は中国の領土的野心にさらされており、これに対処するためオスプレイが必要になる。
 通常は固定翼モードで飛ぶため、陸自が保有する大型輸送ヘリCH47と比べ、速度は2倍の約520キロ。航続距離は約4倍で、素早く現場に要員や資材を運び込むことができる。離島が他国軍に占拠された場合は、航空自衛隊の戦闘機による衛星誘導爆弾JDAMや、海上自衛隊の対地射撃などで敵を制圧。陸自の水陸両用車AAV7とともに着上陸を目指す。



水陸両用車AAV7

 陸自は、平成30年3月末までに「水陸機動団」を新編するのに合わせ、米国から水陸両用車AAV7を52両調達する方針だ。
 AAV7の全高は約3・3メートル。敵から身を隠すため、水上運航時は約1・8メートルが水中に沈む。日本の離島が武装漁民や他国軍に占拠された場合、海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦に搭載されたAAV7が洋上から離島を目指し、上陸後は後部扉から飛び出した隊員が速やかに橋頭堡(きょうとうほ)を築く。水陸機動団とAAV7は、これまで自衛隊になかった海兵隊機能を担う。


ただ、AAV7が米軍に配備されたのは1970年代で、古い装備であることは否めない。潮位によってはサンゴ礁が多い沖縄の離島に上陸できず、水上速度(時速13キロ)も十分ではないため、国会審議では野党議員から「相手は火器を持っている。ぷかぷか浮かんでいたら、的になってしまう」と批判されたこともあった。
 それでも、陸自が調達を検討した水陸両用車の中で水上速度が一番速かったのはAAV7だったという。中国の強引な海洋進出が懸念されるなかで「今そこにある危機」に対処するため、AAV7に乗る水陸機動団は、文字通り背水の陣で修羅場に臨むことになる。



13式空挺傘

 空挺団は航空機から落下傘で降り立ち、領土侵攻を食い止めることを目的とした陸自最精鋭部隊だ。過酷な任務を課されているだけあって、陸自内でもえりすぐりの自衛官がその門をたたくことを許される。
 そんな“つわものども”の命運を握っているのが、最新型パラシュート「13式空挺傘」だ。平成26(2013)年に陸自に導入されたことから、通称は「13傘(ひとさんさん)」という。
 13傘は純国産で、救命胴衣などを製造する藤倉航装(東京都品川区)が開発した。22年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のパラシュートを開発したのも藤倉航装だった。


 13傘の最大の特徴は、傘の部分の相互反発性だ。パラシュート同士が接触すると、傘内部の空気が漏れ、どちらか一方のパラシュートがしぼんでしまい隊員は命の危険にさらされる。これを防ぐため、緻密な空力計算と最先端素材を用いた。パラシュートが上下に重なっても上部に空気が流れる耐後流性も実現した。このため、13傘はパラシュート同士の接触を気にせず隊員を降下させることが可能になった。
 前世代の12傘の研究開発が行われたのは冷戦時代の名残が残る時期だ。広大な北海道に着上陸する旧ソ連軍を念頭に置けば、狭い地域に隊員を集中投下しなくても構わなかった。これに対し、中国による離島侵攻が想定される現在の戦略環境下では、面積の狭い島嶼部に空挺団を送り込まなければならない。その意味で、13傘は中国対応型パラシュートとも言える。



多用途ヘリUH60

 9月に東日本を襲った記録的な豪雨では、自衛隊による懸命の救助活動で一命を取り留めた人も少なくない。とりわけ、自宅や道ばたに取り残された被災者を上空から救う姿には、インターネット上で「自衛隊ヘリの神業」と絶賛する声が相次いだ。洪水による激流をものともせず任務を達成したのが、多用途ヘリコプターUH60JAだ。
 「多用途」というだけあって、UH60JAの役割は空中機動作戦や災害派遣など多岐にわたる。26年9月に発生した御嶽山噴火や16年の新潟県中越地震、23年の東日本大震災にも投入され、幾度もの修羅場をかいくぐってきた。


UH60JAは、衛星利用測位システム(GPS)や航路を維持させる慣性航法装置を装備しており、自機の位置を正確に把握できるか。航法気象レーダーにより雷雲などを避けることも可能だ。エンジンに異物が混入しないための空気吸入口(エア・インレット)には特殊フィルターも備え付けられている。
 とはいえ、最後に求められるのはパイロットの技量になる。あるUH60パイロットは「局地的な突風を予測してエンジン出力を調整するためには風を読むことが必要だ。木の揺れや機体の揺れなどを瞬時に判断して突風に備えなければならない」と、操縦の難しさを説明する。
 最新ハイテク機器を搭載したヘリコプターと熟練パイロットの勘。この2つのいずれかが欠けても、円滑な救助活動は成り立たない。



軽装甲機動車

 安全保障関連法が成立したことにより、自衛隊は国連平和維持活動(PKO)や人道復興支援で、新たに治安維持や停戦監視も行えるようになる。これまでの施設整備や選挙監視を中心とした活動とは異なり、散発的な襲撃に遭わないとはかぎらない。陸自の軽装甲機動車は、こうした任務には欠かせない装備といえる。
 軽くて小型の装甲車として開発され、平成14年度に部隊配備を開始。すでに約1700両が配備されており、隊員からは「ラブ」(LAV:Light Armored Vehicle)の愛称で親しまれる。時速100キロ以上で素早く移動でき、装甲で覆われているため小銃による攻撃にも一定程度耐えられるほか、5・56ミリ機銃弾や対戦車誘導弾も装備できる。


導入のきっかけとなったのは冷戦の終結だった。旧ソ連軍による着上陸侵攻を想定した戦車中心の対機甲戦重視の編成を見直し、ゲリラや特殊部隊に備えるため、装備をコンパクトにする流れの中で配備されたのがLAVだ。
 市街地を中心としたテロ掃討作戦では、隊員の安全確保を図りつつ迅速に現場へ駆け付けることが必要となる。装輪装甲車や装甲戦闘車とは異なり輸送機や大型ヘリCH47で空輸することもできるため、政府は島嶼防衛にも活用できるとしている。
(政治部 石鍋圭)


《維新嵐こう思う》
 いわゆる「水陸両用作戦」については、そのドクトリンそのものを完成させることは簡単ではありません。
 アメリカ海兵隊でさえアメリカ独立戦争当時の艦上からの「狙撃」から第一次大戦を経て、第二次大戦当時に「前進基地防御」という形で、海兵隊の存在価値が認められ、日米戦により「敵基地奪取」のための「水陸両用戦」ドクトリンが開発されました。その最終的な完成形は、沖縄戦であるといわれます。

 我が国での「水陸両用戦」ドクトリンは、幕末の第一次幕長戦争において、当時イギリス海兵隊のノウハウを取り入れて編成された幕府陸軍(歩兵隊)が、長州の周防鷹島に艦砲射撃の後、強襲上陸した記録が最初ではないでしょうか。
 以後、同じく幕府最後の将軍徳川慶喜の幕府軍政改革により、ナポレオン3世麾下のフランス流の陸軍ドクトリンを採用することになりましたが、明治維新の後に江華島上陸事件の時に、新生日本陸軍が上陸作戦を行っています。
 つまり我が国の「水陸両用戦」のはじめは、第二次大戦の時のアメリカ海軍・海兵隊による「敵陣地奪取」からスタートしたということがいえるのではないでしょうか?

 現代、第二次大戦後の自衛隊では「専守防衛」戦略が基本戦略ですから、「侵攻」を目的とした水陸両用戦ドクトリンは開発できない側面もあろうかと思いますが、我が国に「侵攻」を企てる国家、テロ組織などが根城にする拠点に対して、「先制奇襲」の意味で着上陸作戦を実行できるドクトリンの開発が、「専守防衛」から外れているとは考えられません。
 また着上陸作戦を実行するためには、その前提として「制空権」「制海権」を掌握されているという条件は必須となりますから、侵攻軍に離島なり拠点を占領されてしまった状態では、奪還はかなり困難な作戦になることが考えられます。

 「攻者三倍の原則」という点をふまえた時に、あくまで「離島奪還」を戦術の基本とするなら、侵攻拠点の制海権、制空権を掌握した侵攻軍をファーストストライクで撃破できるだけの攻撃、しかもアウトレンジからの攻撃が可能な状態にしておかなくてはならないでしょう。
 現有装備でいえば、海自汎用護衛艦、イージス艦、ヘリ専用空母ひゅうが、いせからの対艦ミサイルによる攻撃、速射砲による艦砲射撃が上陸前に不可欠な要素といえるでしょう。
 理想をいえばトマホーク巡航ミサイルや通常弾頭による弾道ミサイルであれば、申し分ないでしょう。
 陸上自衛隊の「海兵隊化」と「離島奪還」のための水陸両用作戦案は、緒についたばかりなので、水陸機動団が本格的に実戦編成されるころには、さらに研究を重ねて完成度が増したドクトリンが開発されていることを一国民として大きな期待をもってみています。

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