2016年1月11日月曜日

ISの戦略と戦術~長期化する「テロリストとの戦い」 

【リビアへ新天地求めるIS 】さらなる複雑化の懸念も
岡崎研究所
20160105日(Tue) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5783

20151128日付のニューヨーク・タイムズ紙は、ISはリビアに基地を作っているが、これは万一現在のシリア、イラクの領土が維持できなくなった場合に備えているのかもしれない、との解説記事を掲載しています。

リビアの首都トリポリの街並み(iStock

中枢から外へと目を向け始めたIS
 すなわち、ISに対するシリア、イラクでの軍事的、経済的圧力が高まるにつれ、ISの指導者は外に目を向け始めた。この変化の一つの表れは、最近のパリでのテロやロシアの旅客機の撃墜である。同時にISの指導者は、エジプト、アフガニスタン、ナイジェリアといった、はるか離れた地域でISに忠誠を誓うグループを支部として強化しつつあり、現在少なくとも8つの支部がある。
 その中で最も重要なのが、リビアの地中海沿岸都市Surtである。SurtIS中央指導者の直接の管理下で活動している唯一の支部である。ISの指導層はSurtの支配を強化しており、万一ISが当初の領域から駆逐された場合、リビアをイスラム聖戦士が戦いをつづける基地とすることを考えている、と言われる。いわば緊急時対策である。
 リビアはカダフィ失脚後機能する政府がなく、いくつかの戦闘集団はお互いに争っている。ISはトリポリの政府から武器や資金を得ている。
 ISはすでにSurt近辺の地中海沿岸の150マイル以上を支配している。リビア全体では約2000人のIS戦闘員がおり、Surtには数百人いる。ISの次の目標はSurtの東のAjdabiyaで、ここを占領すれば、ISは交通の要所、重要な石油の貯蔵所と油田を支配することになる。
 当初ISは世界の若者にISへの参加を呼びかけていたが、シリアでの国家建設計画に圧力が加わるにつれてメッセージが変わり始め、海外での戦いに焦点を当て始めた。西側在住のイスラム教徒に、米国など居住国での殺害を呼びかけるようになった。
 ISの勢力拡大には常に戦場での勝利が必要であった。それが、IS5月にイラクでラマダ、シリアでパルミラを奪って以来、主要な領土の占領はなく、逆に6月にはシリアの国境の町Tal Abyadから、11月にはイラクのSinjarとシリアの Al Holから撤退した。
 ISは無敵のイメージを維持しようとして、外国の支部の支援を増大し、その作戦を宣伝するようになった、と解説しています。
出 典:David.D.Kirkpatrick , Ben Hubbard & Eric Schmitt ISIS Grip on Libyan City Gives It a Fallback Option‘ (New York Times, November 28, 2015,)
http://www.nytimes.com/2015/11/29/world/middleeast/isis-grip-on-libyan-city-gives-it-a-fallback-option.html?_r=0
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IS作戦が功を奏しているにも関わらず活発化
 ニューヨーク・タイムズ紙のカイロ支局長を含め3人の記者による広範な現地取材、関係者の取材に基づいて書かれた注目すべき解説記事です。
 ISの指導層は、万一シリア、イラクから駆逐された場合に備えて、リビアの基地を強化しているといいます。
 これは、シリア、イラクでの対IS作戦が奏功していることを意味します。特に、空爆はかなりの被害を与えているのではないでしょうか。空爆だけで地上軍無しでは効果は限定的ではないかといわれてきましたが、もし記事がいうように、ISがシリア、イラクから駆逐される場合のことを考えているとしたら、空爆がISに大きな打撃を与えていることを意味します。今後も空爆が継続されれば、ISに、さらに大きな打撃を与えることになるでしょう。
 ISの指導者は、シリア、イラクでの勝利が難しくなってきたので、目を外に向け始め、パリでのテロ事件はその証拠であるといいます。パリでの事件はISの強さを世界にアピールする格好のテロでした。今後、欧米などでのテロの可能性がさらに高まったと考えなければなりません。
 リビアはISが基地を作るのに最適な場所です。破綻国家である上に、石油資源があります。ISは今後ともリビアの基地の強化に努めるでしょう。
 シリア、イラクでは今後ともISは受け身に立たされ、じり貧状態になるかもしれません。しかし、ISはそれに代わって、欧米などでのテロ活動を活発化させるとともに、リビアなど遠隔地での基地づくりを強化するでしょう。たとえシリア、イラクでISの掃討に成功したとしても、ISはしぶとく生き残り、活動範囲を広げるでしょう。ISとの戦いは一層複雑になり、長期化せざるを得なくなります。

《維新嵐こう思う》
アメリカにフランス、トルコ、ロシアによるISの拠点の空爆は、ISの資金源を破壊するという効果を考えても有効な手段であろうと思います。ですが拠点をリビアに移すことが事実だとしたら、まだ相当の戦闘力を有しているとみるべきでしょう。
我が国にとってISは、ジャーナリスト後藤健二さん、湯川陽菜さんを無慈悲に殺害した憎むべき「敵」です。イスラムの本義から外れているといわれるISの動向には今後も注視していくべきでしょう。
【ISIS、支配の秘密は地下のトンネル網】空爆避け隠密行動 CNN EXCLUSIVE
201615 1155http://news.livedoor.com/article/detail/11029035/



ラマディ(CNN) イラク政府軍が最近、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」からの奪還を宣言した要衝ラマディ。その地下には、ISISが掘ったトンネル網が張り巡らされていた。
政府軍と米軍主導の有志連合は数カ月に及ぶ戦闘の末、ラマディ中心部からISISを撃退した。だが地元の部族指導者によれば、ISISはほかの拠点と同様、ラマディでも依然として市内の約4分の1を支配している。ISISの残党は、有志連合による激しい空爆からどのようにして逃れてきたのか。その答えは地下にあった。
イラク軍で対テロ特殊部隊を指揮するサミ・カシム少将がCNNに語ったところによると、同部隊はISIS戦闘員の行方を追うなかで、かれらが逃げ込む地下トンネルを発見した。ISISはひとつの領土を支配するたび、まずそこにトンネルを掘るという。トンネルの深さは約10メートル、幅はわずか1~2メートル。民家の間をつなぎ、道路を横断しなくてもこっそり行き来できるようにしてある。
カシム少将は一本の通路を指し、「ここに見えるトンネルは約1キロ先まで続いている。700~800メートルのトンネルもある」と説明した。ラマディ市街の地下を通るトンネルに、ISISの幹部1人が潜伏しているところも発見された。
兵士の1人はCNNに「ISISは地下にこもる準備として、全てのトンネル同士をつなぎ合わせる。中には電気まで通っているトンネルもある」と話した。
地上との出入り口には人の動きを隠すため、仮設の建物が置かれている。

トンネル内での掃討作戦には時間がかかるうえ、命の危険がともなう。ISISが爆発物を仕掛けている恐れもあるからだ。「先頭に立って中へ入る者には、後に続く全員の命がかかっている」と、カシム少将は強調した。

《維新嵐こう思う》
地下壕の戦術は、日米戦争時の旧日本軍、ベトナム戦争時の北ベトナム軍が既に実践している戦い方ですね。有志連合の激しい空爆をさけるための苦肉の手段です。

【ISIS戦闘員、母親を公開処刑】背教理由に 
201619 1334http://news.livedoor.com/article/detail/11045741/

(CNN) 過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の戦闘員がシリア北部ラッカで、自分の母親を公開処刑していたことが9日までに分かった。英国に拠点を置く非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が明らかにした。
シリア人権監視団によると、戦闘員の男は20歳で、母親が勤務するラッカの郵便局の近くで、数百人が見物するなか母親を殺害した。ラッカはISISが首都と称する都市。
母親は息子にISISを去るように働きかけ、一緒に逃げようとしていたという。その後、息子が母親をISISに突き出し、背教の罪に問われた。母親は息子に「有志連合は組織のメンバー全員を殺す」とも語っていたという。
シリア人権監視団によると母親は40代。別の活動家の組織は35歳としている。CNNではこれらの報告について確認できていない。
《維新嵐こう思う》
ITを駆使して戦闘員を世界中から集め、戦術においてもあらゆる戦史から学んでいるようにも感じられるのは私だけでしょうか?
そこに既存の社会では実存を感じられない若者が、生き方を確立するために、自身の存在を確かめるために身を投じていく実態。
油田をことごとく空爆で破壊されて、活動資金はどう工面しているのか気になるところですが、ISについては、その主張する思想的、政治的スタンスについても全く変化はないようです。この先どう戦いを継続していくのでしょう。すぐにでも停戦する様相でないことだけは確かなことです。

IS対アルカイダ 両者の合流はあり得るのか

岡崎研究所
20160112日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5822
フィナンシャルタイムズ紙のカラフ中東担当編集員が、2015122日付同紙にて、ISISとアルカイダがともにテロを通じて影響力を熾烈に争っている様子を描写し、その危険性を示しています。
iStock


ISIS戦術変化でアルカイダと足並み揃う?
 すなわち、ISISの機関紙Dabiqは、読んでいて戦慄を覚えるが、ISISの歪んだ思考を理解する類例のない手がかりを与えてくれる。最新号(12号)には、アルカイダに焦点を当てた記事が載っている。同記事は、サーワ運動が、アルカイダの構成員に広まっていると言っている。サーワ運動は、10年前、アルカイダのイラク支部を打倒するために米国と協力したイラクの部族のグループで構成されていた。アルカイダのイラク支部は、最終的にはISISとなった。
 ISISは、「今のアルカイダは道に迷い、未来はISISのものである」として、世界一のテロ組織、オサマ・ビンラディンの真の後継者であると主張している。
 2013年にシリアでのジハードの目標をめぐり袂を分かって以来、ISISはアルカイダに執着しているように見える。ISISは、その残虐さと、イラク・シリアにカリフ国を作る動きにより、自らを母体アルカイダと区別してきた。アルカイダは海外で活動する殺人マシーンだが、ISISは当初は世界中のジハーディストにカリフ国建設への参加を呼びかけた。ISISは他の地域より中東に脅威を与えると見えたので、西側の反応は初めは弱かった。
 過去数カ月、ISISは戦術を変えた。軍事的圧力の強化に直面し、勢いを維持するため、海外での攻撃を加速させている。数週間のうちに、シナイ半島上空でのロシア機の撃墜、パリでの残虐行為、ベイルートでの爆弾攻撃、チュニスでのバス爆破への犯行声明を出した。ISISとアルカイダの目標は今や揃っている。その影響は恐ろしい。
 ISISによるパリ攻撃の数日後、アルカイダは、マリの首都バマコで高級ホテルを襲撃した。アルカイダは、ISISとは異なり同ホテル襲撃でムスリムの人質に害を加えなかったことを示し、ジハーディストたちにアピールした。
アルカイダは、その中核グループが大幅に縮小した一方で、分派はグローバルな対テロ戦争を生き延びている。
両グループ合流の可能性
 Hassan HassanIsis: Inside the Army of Terrorの共著者)は、ISISとアルカイダは競争し成長している、と言っている。
 あるテロの専門家によれば、アルカイダの分派は、アフガン、パキスタン、東南アジアだけでなく、マグレブ、サヘル、ホーン岬、イエメンにおいていまだに強力である。他方、ISISはレバント、リビア、西アフリカ、コーカサスでより優勢である。
 ISISとアルカイダはイデオロギーをめぐっては争っていない。相違点は、戦略と戦術、そして大部分がリーダーシップについてである。専門家はバグダディかザワヒリのいずれかが消えれば両グループは再び合体し得る、と予測する。
 今日のテロ情勢は第一に、あらゆる異なったプレイヤーが関与しており、第二に、アラブの春により生じた地域的真空がグループに活動領域を与えている、と元FBI特殊エージェントのAli Soufanは指摘する。
 テロ情勢はますます複雑化し得る。自称国家を防衛するため、ISISはますます危険なものになろう。他方、アルカイダは、地域的な同盟者を作り、破壊するのがより困難になろう。双方とも、テロを通じて力を拡大することを狙うであろう、と分析しています。
出典:Roula Khalaf,The deadly contest between Isis and al-Qaeda’(Financial Times, December 2, 2015
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/297def12-9819-11e5-95c7-d47aa298f769.html#axzz3tMQosZoj
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両組織念頭に置いた対策を
 ISISはイラクのアルカイダを母体として成長した組織です。したがってアルカイダと似た思想を持っています。しかし、目的が今は異なっています。
ISIS
はカリフ制国家を樹立し、それを強靭なものにしようとしています。他方、アルカイダはカリフ制国家建設の問題はさておいて、イスラム世界への西側の「侵略」を排撃することが最重要課題であり、それができれば、中東の腐敗した現政権は崩壊するという、いわば国際主義的な考え方をしています。この違いをイデオロギーの違いとみるか、戦術の違いとみるかは、どちらも可能です。一国社会主義のスターリンと世界革命推進を主張したトロツキーの違いをどう考えるのか、というのとよく似た問題と言えます。
 論説は、ISISのアルバグダディかアルカイダのザワヒリがいなくなれば、両者は合同しうるという見方を紹介していますが、「バクダディは残虐過ぎる」とのザワヒリによる批判、それに対する「私はザワヒリに従うより神に従う」とのバグダディの反論はそれぞれの組織に浸透しており、両組織の考え方の相違に鑑み、そう簡単に合併しないと思います。

 テロ対策の立案という点では、ISISもアルカイダも念頭に置いておく必要があり、二つの組織への対応は対策立案を複雑にすることは否めません。その上、ISISは海外活動にはそれほど力を入れていませんでしたが、軍事的圧力への反応として米欧諸国およびロシアを攻撃することに今後力を入れてくるでしょう。ISISにもアルカイダとその分派にも気を付ける必要があります。
なお、サミットやオリンピックを控え、日本国内のモスクでの過激な説教を探知する方策を考える必要があります

《維新嵐こう思う》 ISはもうシリア、イラクなどにふみとどまることはしないでしょう。アメリカをはじめとした有志連合の空爆により、油田などの資金源が破壊され拠点を移そうという声がある組織が、本来の拠点のまともな防衛ができるとは思えないからです。
そうした中で戦術を変更したISが、アルカイダと合流することはおかしな話ではありません。苦しくなれば多少主義は異なっても連携するほうが運営上は便利だからです。1
どちらも罪のない民間人を巻き込んで殺戮をしたというなら、どんな高邁な思想を持っていても意味がありません。教義上の対立を乗り越えて、どの民族でも公平に富を分配できる政府が現れることが理想ですが、人類はいつまで地球人という「同胞」同士での争いを続けてしまうのでしょうか?

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