2016年12月20日火曜日

ドナルド・トランプの諸政策のまとめ ~ヤツを知ろう!~

トランプはアジアで中国の台頭を許すのか?

岡崎研究所

トランプ次期大統領のアジア政策について、20161110日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙社説は、「アジアへの軸足移動」をオバマ政権より強い決意と速度を持って実行するのが正しい道である、と言っています。要旨、次の通り。

トランプ大統領は、中国の台頭に直面する米国のアジアにおける同盟国に独自の道を歩ませるのか、それとも、中国の野望を挫くことに加わるのか。大統領候補者としてトランプとそのアドバイザーたちは、一貫しないシグナルを送り続けてきた。次期大統領として、米国の保障と決意を迅速に伝える必要がある。
 20164月にトランプは、日韓は北朝鮮の核から自らを守るには自前の核を持った方がいいと言った。この発言は、北の核攻撃に対する米国の報復へのコミットメントへの日韓の懸念を悪化させ、おそらく北朝鮮を勇気づけたであろう。
 韓国は、米国のミサイル防衛システムへの参加を決定、米国の要求に従い、日本との軍事情報共有を始める決定もした。韓国は近年、防衛費を大幅に増額している。トランプの選挙中の主張とは異なり、米軍の駐留経費を年9億ドルも負担している。日本も防衛費を増額している。同盟国としての日本に対するトランプの批判は、防衛費の拡大と日米同盟の対等化を支持している安倍総理の助けにならない。
 ただし、トランプは選挙後、態度を改めようとしているようにも見える。
 トランプのアドバイザー、グレイとナヴァロは、2016117日のForeign Policy誌にアジア政策についての前向きな見通しを表明している(128日付本欄参照)。両氏は、オバマの「アジアへの軸足移動」を「小さな棍棒を持って大声で話すもの」と批判、トランプ政権は中国の近隣国への圧力を押し戻すと示唆し、中国による台湾の孤立化を助けたビル・クリントンのやり方を退けるとしている。最も重要なことは、南シナ海での航行の自由を守るとしていることである。さらに、アジアの同盟国を支援すべく米国はレーガン時代の「力による平和」に戻るべしとして、それには、国防予算の強制削減措置を廃止し、米海軍の艦船を350隻に増やす必要がある、と言っている。
 しかし、トランプとアドバイザーたちは、地域の繁栄無しにパックス・アメリカーナを維持することの困難さを過小評価している。中国は、東アジアの殆どの国の最大の貿易相手国で、そのことを梃子に用いると言ってはばからない。
 トランプは就任当日にTPPから脱退するとしているが、TPPは、米の同盟国と潜在的同盟国をよりオープンなシステムに結束させ、中国による縁故主義と札束外交に対抗させることになる。
 オバマ政権は、外交政策で多くの失策を犯したが、21世紀の米の安全保障が米のアジアへの強い関与に大きくかかっていることを理解している。すなわち、友邦を防衛し、貿易関係を促進し、地域の覇権国家を目指す中国の野望を阻止することである。トランプ大統領の正しい道は、このコースを逆にすることではなく、同じコースをより強い確信と速さで進むことである。
出典:‘A Trump Vision for Asia’(Wall Street Journal, November 10, 2016
http://www.wsj.com/articles/a-trump-vision-for-asia-1478819679


 トランプは選挙戦中外交政策についてあまり語っていません。政治経験が無いことを考えれば当然ともいえます。その中でアジアについては比較的語っています。一つは日韓の米軍経費負担増で、これはNATOも含めた米国の同盟国一般に対する要求の一環です。もう一つは中国の不公正貿易慣行を是正させるとの発言です。いずれも米国にとっての経済的不公平さの是正を求めるとの発想から来ていて、これだけから見れば、トランプが米国にとっての同盟関係の重要性を理解していないこと、中国に対する戦略的考慮が欠けていることが見て取れます。
 トランプが大統領として、どのようなアジア政策を含む外交政策を取るのかは世界の関心事です。外交政策はトランプにとって全体として未知の分野ですから、トランプは自らが指名し、政権の中枢を占めることになる閣僚やアドバイザーの意見に耳を傾けることとなるでしょう。すでにトランプ陣営のアドバイザーを務めるグレイとナヴァロは、上記社説も紹介している通り、アジアでレーガン流の「力による平和」の追求、米国防予算の強制削減廃止、米海軍艦船の増加などに言及しています。これらの点に関する限りは、トランプにはまともなアドバイザーがいるとの印象です。
トランプの「アメリカ第一主義」

 しかし、一番の懸念は個々の政策というよりは、トランプの「アメリカ第一主義」という基本的考え方です。これは容易に孤立主義に通じるものであり、もしそうであるとすれば、米国の戦後の基本政策を変えるものです。トランプはまた、米国はもはや「世界の警察官」ではありえないとも言っています。「世界の警察官」論争は、かつて米国の対外コミットメントが米国の国力に比べて多すぎるとの観点(いわゆるオーバーストレッチ論)から行われたことがありますが、もしトランプの発言の趣旨が、米国はもはや世界秩序の維持者の責任は負わないということであれば、米国の外交は大きな岐路に立つことになり、その国際的影響は計り知れません。すでにそのような指摘は見られ、例えば、ミッテラン元大統領のシェルパを務め、欧州復興開発銀行の初代総裁であったジャック・アタリは、トランプの登場で戦後世界の体制は変質すると警鐘を鳴らしています。

トランプ新大統領の政策を徹底分析

トランプが直面する核政策の課題

岡崎研究所

トランプ次期米大統領が直面する核政策の課題につき、ワシントン・ポスト紙は20161113日付で社説を掲げ、現実的な対応を求めています。要旨次の通り。

 トランプが次期大統領となることが決まった今日、選挙期間中に注目を集めた課題――核抑止力や米国の核に支えられている貴重な同盟関係をどのように管理するべきかという課題――につき冷静な再検討が必要である。選挙期間中、トランプは向こう見ずな発言を行ったが、その後、表現を和らげている。
 選挙後、彼は、最も破滅的なアイディアの一つからは距離を置くようになっているようだ。選挙期間中、彼は、日韓両国が米国の核の傘を脱し独自の道を歩む方が米国にとって良いと述べ、両国がもっと財政負担をしないのであれば、米軍を同地域から引き揚げるべきであると主張した。そうなれば、日韓両国の核保有を招き兼ねない。北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、新たな拡散の懸念が生じることとなる。しかし、トランプは1110日に、韓国の朴大統領と対話し、韓国大統領府によれば、同盟関係を維持・強化する意思を「100%」再確認した。
 トランプはNATOへのコミットメントについても警告を発していたので、同様の対応を早急に執るべきである。選挙期間中のトランプの発言は孤立主義的であったが、大統領に就任すれば、個人的な取引能力以上のものが必要であることを知ることになろう。抑止力が米国の国力と影響力のバックボーンである。トランプが厄介な現実の諸問題に取り組まねばならない時に、同盟国の間に不信の種を播くことは意味がない。北朝鮮の加速する企てを如何にして阻止するかもそうした問題の一つである。オバマ大統領が放置してきたこの問題については新たな戦略が必要であり、中国に「その問題を解消させる」とか、「自分が金正恩と会うことで解決できる」とするトランプの咄嗟の思いつき以上のものが必要である。
 トランプは選挙期間中にイランとの核合意を破棄すると約束したが、これにも制約がある。トランプが新たな合意を目指すことになるとしても、その間、欧州のパートナー諸国がイランに対する制裁を復活することは期待できない。
 国内では、トランプは高額な核戦力更新計画を引き継ぐことになる。彼が方針転換することはありそうにない。但し、予算の制約により、一部の運搬システムにつき難しい決断を迫られることはあり得る。
 トランプと核兵器との関連では、ロシアが最大のクエスチョン・マークである。トランプとプーチンは互いに気さくにお世辞を述べ合っているが、軍備管理を巡る最近の緊張関係――ロシアが中距離核戦力協定に違反しているとの米国の主張、米国の弾道ミサイル防衛についてのロシアの不満を含む――に与える影響は不明である。選挙期間中に核問題に関連し矛盾する発言をしたトランプは、韓国については自らの直感に従うべきである。すなわち、役に立っているものは残すということである。破壊的な危機は他に幾らでも発生し得るので、わざわざ新たな危機を作り出す必要はない。
出典:‘Avoiding nuclear headaches’(Washington Post, November 13, 2016
https://www.washingtonpost.com/opinions/avoiding-nuclear-headaches/2016/11/13/7897150e-a841-11e6-ba59-a7d93165c6d4_story.html


トランプ次期大統領は、主要国の首脳と電話会談を行い、主要人事に着手した段階で、1117日に行われた安倍総理との会談が本格的な外交デビューとなりました。新政権の外交政策のニュアンスは、新国務長官のポストに誰が就くかに大きくかかっていますが、1213日、エクソンモービル社CEOのティラーソン氏を正式に指名する旨、発表されました。全く未知数と言う他ありません。
 トランプ政権の核政策がどのようなものとなるかも未だ明らかではありません。しかし、トランプは1013日の自身のツイッターで「ニューヨーク・タイムスがトランプはもっと多くの国が核兵器を入手すべきだと考えている、と書いた。なんと不誠実なのだろう。一度も言っていない」と述べるなど、選挙期間中の極端な発言が修正されつつあることが解ります。
 世界の安定のために米国とNATO諸国の協力関係が一定の役割を果たしていることに変わりはありませんので、トランプがNATO諸国の信頼を早めに獲得できることが重要です。
 北朝鮮の核・ミサイル開発問題がトランプの咄嗟の思いつきのような発想で解決出来る訳ではないので、日米韓の結束を維持しつつ中ロ両国の協力も取り付けて対応する他ありません。
イランとの核合意については?
 イランとの核合意については、この社説が指摘するとおり、トランプ政権がこれを破棄し、新たな合意を目指すことになっても、欧州諸国の協力は得られないでしょう。また、米国の核戦力更新計画は長期的視野の下で推進されている計画であり、新政権もこれを基本的に引き継ぐものと見るのが自然です。
 トランプとプーチンは気が合うように見えますが、プーチンは機を見るに敏ですから、油断をすれば隙を突かれる可能性があります。両首脳の波長が合うというだけで米ロ関係がうまくいく保証はありません。

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