2017年1月11日水曜日

ドナルド・トランプ新大統領の安全保障政策 ~海軍、陸軍、空軍、経済~

トランプになれば太平洋は安定する?

岡崎研究所
2016128http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8378

 トランプ陣営アドバイザーのグレイ(ランディ・フォーブス上院議員の元上級顧問)とナヴァロ(カリフォルニア州立大学教授)が、Foreign Policy誌ウェブサイトに2016117日付けで掲載された論説で、トランプのアジア政策を説明し、経済利益を安保のために犠牲にしない、米軍の増強を図る、同盟国の負担の増大を求める等と述べています。要旨、次の通り。

 オバマのリバランス政策は正しかったが、大げさに言うだけで鞭は小さなものでしかなかった。中国は軍の近代化や対米貿易黒字などの結果、力を顕示するようになった。オバマのリバランス政策は腰砕けになった。艦船のシンガポール派遣等見せかけのジェスチャーしか取らず、政権は国防予算を大幅に削減、米軍、特にピボットの尖兵となる海軍も削減された。
 リバランスの核心として政権が重視するのは軍事力ではなく、TPPということになった。TPPが中国封じ込めの手段となった。国防長官は、TPPは空母一隻分の重要性を持つと述べた。
 米国が軍事力を削減するなか中国は南シナ海に人工島の建設を進めた。それに対し米国は極めて限定的な対応しかしなかった。中国は一方的に防空識別圏を設定し、国内では人権抑圧を強めた。クリントンはピボット政策の弱いフォローしかせず、北朝鮮に対しては大失敗の「戦略的忍耐政策」を取り続けた。北朝鮮は米西海岸に到達するミサイルを開発している。
 フィリピンの対中接近はオバマ・クリントン外交のもう一つの失敗だ。オバマ政権は12年の中国によるスカボロー礁支配にも介入しようとはしなかった。オバマの悪名高いシリアに関するレッドライン公約の顛末はアジア太平洋での米のコミットメントの信頼に疑念を惹起することになった。
 タイの政府は米国から冷たくされ、中国との関係を強化している。オバマ政権は台湾が必要とする武器の提供を拒んできた。幸いなことに日本、韓国、インド、越などは対米関係を強めている。次期政権はこれらの国との戦略関係を更に強化することができる。
 トランプのアプローチは二本の柱からなる。第一に、外交のために経済を犠牲にしない。NAFTAや中国のWTO加盟許容、TPPの承認のようなことを今後することはない。第二に、トランプは、レーガンの「力を通じる平和戦略」を追求する。オバマ政権の下で海軍は第一次大戦以来最も縮小した。陸軍、空軍も同様に縮小した。トランプは国防費の強制削減の撤回のため議会と協議する。
 日韓などの経済力を考えれば、米軍経費負担の増大は正当なことだ。アジアでの同盟関係へのトランプのコミットメントに疑いはない。トランプは日韓や欧州諸国と負担につき協議をしたいと考えている。
 トランプはアジアその他の地域での外交が成功するためには必要なことを明確に理解している。基本となるのは、力を維持し、 大統領の述べることは実行されると同盟国、敵対国双方に信じさせることだ。トランプ政権になればアジア太平洋は格段に安定するだろう。それは米や同盟国の国益に資することだ。
出典:Alexander Gray & Peter Navarro,Donald Trumps Peace Through Strength Vision for the Asia-Pacific’(Foreign Policy, November 7, 2016
http://foreignpolicy.com/2016/11/07/donald-trumps-peace-through-strength-vision-for-the-asia-pacific/
 この論説の前半は、オバマ・クリントン批判です。後半で政策の主張を展開していますが、それは三点に要約されます。第一は、外交のために経済を犠牲にすることはしないこと(オバマはTPPを安全保障目的のために利用したと批判)。第二は、海軍など米軍の増強を図ること。第三は、同盟国の経費負担を増やすべく日韓や欧州諸国と協議すること。顧みれば、レーガン時代にも負担分担が大きな問題でした。
 やや安心な点もあります。中国や北朝鮮の問題は基本的に正しく理解されているように見えます。また、日本などアジアでの同盟関係へのトランプのコミットメントに疑いはないと明言しています。トランプ政権の考えもオバマのリバランス政策と基本認識において大きく違わないとも言えます。
米国の国益重視
 しかし、気になる点もあります。「米国の国益」重視が強調されています。偏狭な米国第一主義は問題を引き起こします。国際秩序維持のためには依然として米国の役割が不可欠です。トランプの「世界観」と「米国の世界での役割」の理解が今ひとつ分かりません。政権移行期においてもトランプ側から安心できる「世界観」と基本的な安保外交政策について発信されることが重要であり、政権発足後早期に国家安保方針を発表することが望まれます。
 今後、トランプ側との協議に当たっては次の点を強調することが重要です。
1)世界の安定のために米国の役割が不可欠であり、それなしでは世界の戦後秩序は崩壊する。米国の孤立主義は見たくないし見る余裕もない。
2)我々は米国と共に働いていくし役割も果たしていく。日米で意思疎通に齟齬がないように早め早めに協議をしていく。同時に、アジアではASEAN、豪州と一緒にやっていくことが重要。そうしないと中国に分断される。安保、経済双方で皆が協力するマルチラテラリズムが重要(注:トランプにはマルチ思考より二国間思考が強いと言われる。貿易協定についても然り)。
3)日米同盟関係はアジアの要である。経費分担に関するトランプの主張については、単純比較はできないが米国の同盟国の中で日本は最大の負担をしてきていることを理解してもらい、どうしても見直しが必要というのであれば、双方で先入観を持たないで現状をレビューすることは考えられる。但し今非常に強固である日米安保が不要な議論でガタガタすることは日米双方にとって不利益となる。
4)アジアの最大の安保問題は中国と北朝鮮である。中国は尖閣に執拗に攻勢を続けている。日本は米国の安保条約上の役割表明を多としている。中国の台頭自体が問題なのではなく、中国とも協力していくが、中国による力の示威を含む振る舞いが問題である。きちっと対応しないとシステム上の問題になる。北朝鮮はクリティカルな段階に至っている。これらのアジアの問題について一方的な行動ではなく日米間の緊密な連携で対処していきたい。
5)自由貿易なくして日米のダイナミックな経済発展はなかった。保護主義になれば皆が損をする。問題はできる限り国内措置で対処していく方が利益に適う。TPPについては農業など強い国内の反対もあるが国会の審議を進めており、早期成立を目指している。米国でも国内措置により雇用を守りながらTPPなど自由貿易を守っていくことを考えて貰いたい。
 新政権の政策は、主要閣僚等に誰が任命されるかにより大きく影響されます。選挙戦でトランプに反対してきた共和党外交安保エスタブリッシュメントの多くが抜けており、そのためトランプチームは経験不足が指摘されてきましたが、チームが旨く作動し、政策がより現実的になることが期待されます。
アメリカ海軍戦士の歌

トランプ新大統領はオバマ政権の太平洋リバランス戦略を継承していくのか、それとも新たな太平洋戦略を打ち出していくのか?
ただ共産中国に対してはかなり強硬な主張を繰り返すトランプ氏ですから、共産中国の海洋覇権についてもかなり手厳しい政策になることは容易に予想できます。


米国の内向き志向が招く次の世界戦争
岡崎研究所

 ネオコン代表的論客で米ブルッキングス研究所上席研究員のロバート・ケーガンが、20161120日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説にて、トランプ次期大統領が米国優先路線を打ち出すことで、米国主導の世界秩序への別れを告げようとしているが、内向きの時代が長く続けば、世界に取返しのつかないダメージを与えかねないと、警告しています。要旨、次の通りです。
 トランプは「米国が先」路線を打ち出すことで、戦後70年続いた米国主導の世界秩序への別れを告げようとしている。オバマはこの点では過渡期の指導者だったのであり、トランプの選出で米国優先に決定的に転換した。
 これは米国が孤立主義に陥ることではない。米国は経済的にも世界から離れることはあり得ない。トランプがやろうとしているのは、他の国と同様自分の利益を第一に考える国になるということである。
 グローバルな同盟体制、そして自由貿易体制は米国自身の利益だが、トランプは米国を「普通の国」、すなわち、利己主義的な超大国に回帰させる。そこでは、イスラム過激主義のテロのみが喫緊の脅威と見なされる。米国にとっての他国の価値は、共にイスラムと戦うかどうかのみを基準として判断されることになる。同盟国か敵国か、民主主義か専制主義かなどは二義的な問題となるので、ほとんどの諸国は米国にとってどうでもよくなる。貿易は、グローバルな秩序の強化、中小の同盟諸国の安全強化といった目的を失い、単に米国がいくら儲けるかだけの問題となる。
 米国はロシアや中国に「勢力圏」を認めなかったが、米国が利己主義に戻れば、どうでもよくなる。トランプ政権は、米国が東アジア、中東欧で覇権を唱えるのは無意味と考えていよう。他方、米国が既存の同盟を破棄すれば問題が起きるから、同盟相手が新たな現実に対応することを期待しているのであろう。
 トランプ政権は、米本土を脅かしている外国はないのだから米国の兵力を海外に投入する必要はない、と考えていよう。従って、イランを爆撃することもないだろう。核大国は、米国本土から核ミサイルで脅すことができる。今や、イスラム・テロとの戦いですら、ドローンや特殊部隊、そしてパートナー諸国の地上軍によって行い得る。トランプ政権はこのように考えているのだろう。
 このような内向きの時代は、どのくらいの期間続くだろう? 第一次大戦後米国は、20年間にわたってグローバルな責任を取るのを回避し、自分の周りの世界がメルト・ダウンしていくのを傍観していたのである。米国人は今回も、同じことを繰り返すだろう。そうやって世界が不安定化しても、米国にその禍が及ぶのは最後になるというわけである。米国もいつかは、内向きだけではやっていられないということを悟るだろうが、その時には取り返しのつかないことになっているかもしれない。
出典:Robert Kagan,Trump marks the end of America as worlds indispensable nation’’(Financial Times, November 20, 2016
https://www.ft.com/content/782381b6-ad91-11e6-ba7d-76378e4fef24
 自由・民主主義という理念を振りかざし、権威主義・専制主義体制の国でレジーム・チェンジをはかってきたネオコンにとっては、これからは冬の時代になります。セッションズ上院議員等、トランプ政権の主柱となる者達は、軍備拡張こそ説くものの、ネオコン的アプローチは無用の紛争を生むのみとして、これを採らない姿勢を明確にしているからです。世界は理念と同盟よりも、利益と合従連衡が前面に出た時期に入るのでしょう。
 米国が自己優先になるのは、トランプ政権が初めてではありません。当たり前の話ですが、歴代いずれの政権にも自己優先的なところはあり、欧州、アジアの米軍を大幅に削減するとともにドルを一方的に金価格から切り離したニクソン政権、国内経済問題の解決を最大の課題に掲げて当選、極端な日本叩きに出たクリントン政権などはその最たるものです。
日本はどうすべきか?
 日本のメディアでは、「米国は自己優先になるので、日本は米国から「独立」するべきである」といった論調が盛んになっています。しかし、そのような黒か白かのアプローチは取るべきではありません。今の自衛隊では、とても日本を防衛しきれません。そして、同盟の相手としては米国が最良です。
 トランプは米国のビジネスマンによく見られるように、価値観がどうこう、同盟がどうこうより、取引、駆け引きを他国に仕掛けているのです。米国のビジネスマンは、何かを得るためには代償を払う必要があることをよく理解しています。最初の一発でこちらがキレて、同盟は止めたというのは下策です。張り返すのも一手ですが、トランプを公開の場で侮辱すると取り返しがつきません。トランプの最初の一発はうまくいなして、別の収拾案を提示するとともに、こちらとしてトランプから得たいものも提示するのが上策でしょう。
 日米安保の場合、既に多額に上っている思いやり予算を少しばかり増額して見せても、それは姑息で卑屈な印象を与えるだけで、むしろ、米国兵器購入の大幅増額(巡航ミサイル、戦闘機F-22AWACS等、日本の防衛能力を向上させるために必要なものは多い)を提示する等した方が、相手側にも前向きに受け取られることになるでしょう。そして、日本が占領されていた時代を引きずっている数々の不公平(たとえば航空空域管制を米軍に大きく取られている)を是正するべく、日本の「ギブ」の増大に見合った「テイク」も考えていくべきでしょう。

アメリカ海軍第七艦隊音楽隊 「ウルトラセブンの歌」
アメリカにとっての南シナ海、東シナ海は、第二次大戦において日本軍と戦って多くの同胞の血を流して勝ち取った「権利」であるという思いはないでしょうか?
だとしたら、トランプ政権はこのあたりの自国民の気持ちを汲み取って、より既得権を奪おうとしている共産中国に「強硬な」外交政策、安保政策をとることは十分予想できます。「アメリカンファースト」を標榜するトランプ新大統領のアジア政策は、ダイレクトに我が国の安全保障政策に反映されてくるでしょう。

トランプは中国とどう戦うのか?

岡崎研究所
 米Center for the National Interestのカジアニス国防研究部長が、20161120日付 Washington Times紙掲載の論説にて、トランプ次期政権は、中国を米国や同盟国にとっての最大の脅威と認識し、明確な競争相手と位置付けるべきである、と述べています。論旨、次の通りです。
iStock
 トランプ次期大統領は、就任当日から、冷戦終結以来見られなかった多くの危険や落とし穴に直面するであろうが、米国の国益や同盟国のみならず、我々の経済に対しても明確かつ重大な脅威となるものは、中国の台頭である。
 たった数年のうちに、中国は日本を東シナ海における危機寸前まで追いやり、今は台湾の民主主義に圧力をかけ、南シナ海に島を建設することで年間5兆ドル以上を生む海上貿易と海洋への開かれたアクセスを脅かしている。
 こうした中国へのオバマの対応はアジアへの「ピボット」あるいは「リバランス」であった。米国の軍事力が歳出強制削減の影響を受けたことも相まって、ピボットは、偉大な外交政策の標語として、単にアジアにおける中国の支配速度を緩めただけのものとして、歴史に記されることになるであろう。
 トランプ大統領とそのチームは、嫌がらせを続ける中国を確実に監視し、アジア太平洋地域で中国の影響圏を変更しようとするいかなる思惑をも抑止するための大戦略を構築しなければならない。
 例えば、トーンを変えることは、出発点としては、最も簡単かつ効果が高い。まず米国は、中国が「責任ある利害関係者」になるとか、「平和的台頭」をして欲しいといった願望を込めた概念を取り払わなければならない。中国には、米国によって築かれたいかなる国際システムにも加わろうとする意思はない上、彼らはすでに台頭している。トランプ政権は、中国は競争相手であると宣言し、利害が重なるときにだけ協力すべきである。必要なときに相手を呼び出すことは恐ろしいことではない。
 よりタフな対話からより強い行動が生まれうる。トランプの安全保障チームは、中国が単に我々の同盟国を追いつめたり、米国の重要な国益を脅かしたりできなくするための軍事戦略の構築を始める必要がある。それは、アジア太平洋は中国の覇権の及ぶ場所でないと確信させる明確なメッセージとなるだろう。
 貿易もトランプの対中政策の一部でなくてはならない。もしTPPが本当に死んだのだとすれば、二国間協定を通じて、米国のアジアへの関与と我々の経済的繁栄を確かなものにする必要がある。多くの国が、米国の経済的関与の強化を歓迎するであろうし、それこそが各国の経済が中国に縛られているわけではないと知らせる最良の方法となる。
 このような簡単なステップから始めて、トランプ大統領は、従来の対中政策の間違いを正し、何十年にも渡って米国が直面することになる外交政策上の最大の課題に向き合う広範な戦略を打ち出すことができる。
出典:Harry J. Kazianis,The greatest challenge to Trump’(Washington Times, November 20, 2016
http://www.washingtontimes.com/news/2016/nov/20/donald-trumps-greatest-challenge-will-be-china/

 今日の世界は不安定要素に満ちているが、中でも米国の利益と米同盟国の利益にとって、明確かつ実際的な脅威は中国の台頭から来ている、としてトランプ政権にとっての中国への対処の重要性を指摘した論評です。アジア太平洋において主導権を握ろうとする中国への対応策を早急に打ち出すべし、とする筆者の指摘は時宜を得た的確なものです。
リバランス
 オバマ政権の「リバランス」政策は方向としては妥当なものでしたが、実体としては、さしたる具体性のないものでした。トランプ自身は中国については、為替操作国には45%の関税を課すべしとの発言をしてきましたが、中国に対し如何なる政策を展開するかについて総括的に述べたことがなく、不透明なままです。ただし、トランプがTPPについて、就任直後にも離脱する考えである、と述べた点については、中国は内心これを歓迎しているに違いありません。
 もともと米国の「リバランス」政策のひとつの柱になるのがTPPの締結であると一般的に受け止められていたことを考えれば、トランプがTPP締結について翻意する可能性を含め、早急に対中政策全般を策定することが期待されていることは言うまでもありません。

 本論評が、対中政策策定にあたり、トランプが考慮すべき点として挙げている諸点は、いずれももっともだと言えます。ただし、上記の諸点のうち、TPPにかわる二国間協定なるものの実現性については詳らかにしません。「米国を再び偉大にする」というスローガンとTPPの関連性についてトランプ自身が「学習する」のに当分時間を要しそうです。

アメリカ海兵隊讃歌

アジア太平洋における米陸軍の重要性

岡崎研究所
アメリカ陸軍戦士の歌


 米国のランディ・フォーブス下院議員が、National Interest誌ウェブサイトに2016429日付で掲載された論説で、中国の台頭は米国の軍事戦略概念の変化を強いる出来事であると指摘し、米陸軍がアジアにおいて果たすべき役割について述べています。
 すなわち、私(フォーブス)は、アジア太平洋地域の安定とグローバル・コモンズへの継続的なアクセスを維持するためには、強固な海軍力と戦力投射能力が極めて重要であると、何度も説いてきた。しかし、米軍における力点の置き方が変わるからと言って、それは、海軍・海兵隊と陸軍の間のゼロサム・ゲームを意味するわけではない。
 忘れがちだが、陸軍は、何千人もの兵士を日付変更線の西側に駐留させ、抑止、兵站、訓練を提供している。ハワイ、アラスカに加え、韓国に18500人、日本に2400人、フィリピンに480人が駐留している。陸軍は、何十年にもわたりアジア太平洋地域で活動しているので、アジア太平洋へのリバランスを必要としていない。
 アジア太平洋を強調することは、海兵隊を、イラクとアフガンでの第二の陸軍としての役割から、本来の水陸両用の役割に回帰させる。陸軍は陸軍で、米国の同地域での国益を支持するための様々な能力を提供する、数多くの機会を持っている。
 第一に、陸軍に関する計画と能力を、陸を拠点とした攻撃的システムにシフトさせることである。陸軍は、過去十年、対ゲリラ戦に焦点を置いてきたが、陸を拠点とする新しい弾道ミサイルや巡航ミサイル戦力を構築するのに、より多くのリソースを振り向けるべきである。携帯型および地上配備型ミサイルの部隊は、敵国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力に大きなリスクを与え、敵国がパートナー国の近くで作戦を遂行することを妨げることにより、陸軍が地域の安定に貢献できるようにする。同盟国間で統合されたA2/AD システムは、地域における敵対的行動のコストを大きく引き上げるであろう。中国の攻撃を抑止するために、パートナー国との統合を強化し、陸上ベースのA2/AD ネットワークを目指すことは、自然な選択肢である。
 第二に、防空およびミサイル防衛(AMD)への貢献である。西太平洋における米国の能力を強化し分散させることは、常に課題の一つであるが、陸軍は、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)やパトリオットのような、AMDシステムの能力を向上させることにより、統合軍の生存性を高めることに、より貢献できる。AMDプラットフォームをより移動可能にし、隠匿可能にすることは、将来の戦闘環境では、重要な投資となろう。
 第三に、パートナー国との紐帯を強化し、能力を高めることである。地上軍は、パートナー国の安全保障戦略の重要な要素であり、米国とこれらの他国の地上軍の協力強化により、米国とアジア太平洋の同盟国の関係を、より強力的なものにしなければならない。COBRA GOLDBALIKATANのような合同演習は、各国間の合同作戦能力を高め、パートナー国が安全であると感じるために必要な能力を構築するのに役立つ。


 第四に、任務支援能力を向上させることである。太平洋における陸軍は、戦闘訓練、民事部隊、技術者、兵站、軍事諜報、特殊部隊、海外地域担当士官、といった、多様な任務支援グループを持っている。これらは、米太平洋軍とそのパートナーの能力を支援し、強化している。陸軍のこうした活動は、他に比べて、あまり注意を引かないかもしれないが、これらは、地域における米国の統合および合同展開あるいは訓練を下支えしている。米軍の軍種間、また、アジア太平洋のパートナー国との間での兵站のインターオペラビリティを高めることは、平時、戦時双方における危機対処能力を高めることになろう。
 中国の接近阻止ネットワークの台頭は、米国にとり、国策と軍事戦略概念をシフトさせることを強いる形で、主要な脅威となりつつある。私は、陸域の広範囲を保持する陸軍の能力は、将来の政策立案者に選択肢として残しておくべき、基本的能力であると信じる。しかし、陸軍は、伝統的な任務に加えて、アジア太平洋のような重要地域における平和と安定の維持に貢献する、概念や能力についてよく考えなければならない、と論じています。
アメリカ陸軍空挺部隊軍歌
***
 アジア・リバランスと予算の制約とにより、既に2015会計年度の予算要求とQDR2014では陸軍予算の大幅削減が予想されていますが、その中でも更なる予算削減で、軍種間の予算獲得争いが激しく、陸軍にしわ寄せが来そうな状況の中で、米下院シーパワー及び投射戦力小委員会のフォーブス委員長が、陸軍の重要性を強調している論説です。
 まずは、地上発射ミサイル部隊の重要性であり、おそらくこの点は誰も異存はないところでしょう。そして、従来、合同作戦や、訓練、兵站、諜報、技術面などで陸が果たしてきた役割の強調です。戦車、火砲、装甲車などの伝統的な陸軍の装備、役割には全く言及していません。フォーブスは、政治家ではありますが、軍事には詳しく、バランスの取れた考え方をする人物なのでしょう。陸軍を庇いながら、論旨には違和感を感じさせていません。
 米陸軍は、アイゼンハワー、マッカーサーなどの俊秀を生み出した伝統ある組織です。また、どの国でも、陸軍は、もともと人員が多く、海・空と異なり技術習得の負担が少ないために、優れた行政官、戦略家を生み出す余地があり、伝統的には軍の中枢的地位を占めて来ました。それが主たる削減の対象となるのですから、当然、抵抗はあるでしょうが、この論説は、大局は見失わないで、かつ、良く陸軍の立場を弁護しています。
アメリカ陸軍テーマ曲




0 件のコメント:

コメントを投稿