2017年5月24日水曜日

【産経ニュース記事より】河野克俊統合幕僚長(会見要旨)

「一自衛官として、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるならば、非常にありがたい」


 自衛隊トップの河野克俊統合幕僚長は平成29523日、都内の日本外国特派員協会で記者会見した。安倍晋三首相が憲法9条の改正に意欲を示したことについて見解を問われた河野氏は、「憲法という非常に高度な政治的問題なので、統幕長という立場から申し上げるのは適当ではない」とした上で、「一自衛官として申し上げるならば、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるということであれば、非常にありがたいと思う」と述べた。
会見の概要は以下の通り。

 「わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。領土や主権をめぐるグレーゾーン事態の増加、その長期化の傾向など、周辺国による軍事力の強化や軍事行動の活発化が顕著だ。北朝鮮は平成28年、2度の核実験や20発以上の弾道ミサイル発射を強行した。平成29年3月6日には4発の弾道ミサイルを同時に発射し、5月14日、21日にも弾道ミサイルを発射した」

 「こうした度重なる軍事的挑発は、国際社会に背を向けた度重なる挑発的言動とあいまって、わが国を含む地域、国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威で、その脅威は新たな段階に入っている」


「中国は組織的に高い水準で国防費を増加させ、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域における活動を質・量ともに急速に拡大させている。昨年末には、空母「遼寧」を含む計6隻の海軍艦艇が沖縄本島・宮古島間を通過した。遼寧の太平洋進出が確認されたのはこれが初めてだ。平成28年9月、戦闘機と推定される軍用機が初めて沖縄本島・宮古島間を通過した。このような中、昨年度の緊急発進回数、スクランブルの合計は、過去最多の1168回となった。うち871回が中国軍機への緊急発進で、前年と比較して約1・5倍、280回の増加となっている」

 「宇宙空間やサイバー空間の安定的利用への挑戦や大量破壊兵器の拡散といったグローバルな安全保障環境における課題の一つとして、ISIL(イスラム国)をはじめとする国際テロ組織の問題がある。国家統治の空白地域がテロ組織の活動の温床となり、国境や地域を越えて活動する組織もあることから、引き続き国際社会にとって安全保障上の課題と考えている。わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況だ。今日も英国でテロと思われる事案が発生したが、オリンピックを控えているわが国にとっても安全保障上の重大な案件としてみていく必要がある」


「以上を踏まえ、わが国の安全保障のあり方について申しあげたい。柔軟かつ即応性の高い運用に努めること、米軍との各種協力を推進すること、アジア太平洋地域における協調的な各種取組やグローバルな安全保障環境改善のための各種取り組みを推進することが必要だ」

 「弾道ミサイル防衛に関しては、わが国全体を多層的かつ持続的に防護する体制の強化に向け、イージス・システム搭載護衛艦の増勢、能力向上型迎撃ミサイル・SM3ブロック2Aの日米共同開発の推進、配備の検討などを行うこととしている。日米韓のオペレーション上の連携を強化することが極めて重要だ。平成28年11月23日に、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)が署名されたことは北朝鮮の核・ミサイル問題等への対応にあたり、重要な意義を有するものだ」


「次に、日米同盟。日米同盟はわが国の安全保障の基軸であるとともに、アジア太平洋地域、更には世界全体の安定と繁栄のための公共財だ。米軍との連携の強化および相互運用性の向上を図っていく。例えば昨年11月の日米共同統合演習(キーンソード17)では、グアム・テニアンでの水陸両用作戦訓練等の統合運用に関わる訓練などを実施した。4月23日から29日までの米空母カール・ビンソンの航行にあわせ、海上自衛隊の護衛艦さみだれ、あしがらが日米共同巡航訓練を実施し、4月28日には航空自衛隊が空母カール・ビンソンの艦載機と各種戦術訓練を沖縄東方沖で実施した。空母打撃軍とともに海上自衛隊の艦艇および航空自衛隊の航空機がそれぞれ同時に訓練を実施することは、日米同盟全体の抑止力・対処力を一層強化し、地域の安定に向けたわが国の意思と高い能力を示すものだ」

 「自衛隊は2012年から、南スーダンにおけるUNMISSに施設隊を派遣してきた。昨年12月からの第11次要員に対しては、平和安全法制で新たに決められた駆け付け警護、宿営地の共同防護の任務を与えた。南スーダンでの活動は今年1月で派遣開始から5年という節目を超え、これまでの自衛隊のPKO活動の中で最大規模の実績を重ねてきた。わが国としては一定の区切りをつけたと考え、稲田朋美防衛相からの業務終結命令に基づき、派遣施設隊は本年5月末に順次南スーダンから撤収することになっている。司令部要員は引き続きUNMISS司令部に勤務させ、UNMISSへの活動は継続していく」


「海賊対処行動。ソマリア沖アデン湾、ソマリアの貧困といった根本的な要因がいまだ解決しておらず、今年に入り複数回生起しているように、海賊の脅威は引き続き存在している。自衛隊としては極めて重要な海上交通路における航行の安全確保に万全を期するとともに、国際社会の平和と安定に貢献するため、引き続き諸外国の部隊を含む国際社会と連携し、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動を確実に継続していく」

 「国際防衛協力について。自衛隊は安全保障・防衛分野における国際協力の必要性がかつてなく高まる中、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、2カ国間および多国間の防衛協力・交流を強化している。2国間関係では参謀総長級の相互訪問などのハイレベル交流に加え、幕僚間の協議なども実施し実務レベルでの相互理解の促進を図っている。また、近年、日米韓、日米豪、日米印、日米英、日米仏などの3カ国間訓練や毎年隊において実施されているコブラ・ゴールドをはじめとする多国間訓練へも積極的に参加している」

 「5月には初めて日仏英米共同訓練を実施した。今年はASEAN発足50周年で、日・ASEAN防衛協力の指針である『ビエンチャン・ビジョン』の下、ASEANとの協力を通じ、ASEANの一体性と中心性の強化にかかる努力を全面的に支援していく。


 わが国の防衛の基本方針を踏まえ、統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用に努め、日米同盟を強化しつつ、諸外国との2カ国間・多国間の安全保障協力を積極的に推進することにより、国民の生命・財産と領土・領海・領空を確実に守りぬく所存だ」

 --米国のハリス太平洋軍司令官についてどう見ているか

 「ハリス太平洋軍司令官は日本の勤務経験の長い方で、私も昔から知っている。日本ばかりでなく太平洋地域での勤務も長い方だ。前の配置も太平洋艦隊司令官。非常に日本に対する理解の深い方が今の太平洋軍司令官に就いていることは、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境を考えるときに、ベストの人が太平洋軍司令官に就いてくれたと思っている」

 --北朝鮮の弾道ミサイルについて。核弾頭が十分に小型化され、それを搭載したミサイルは、日本に届くものをすでに北朝鮮が持っていると思うか。米国本土に届くICBMはいつごろ開発されると考えるか

 「詳細の分析が必要だが、現時点では例えば14日、2000kmを越えるロフテッドの発射をした。当然日本は射程内に入っているということは言える。問題は核弾頭を弾道ミサイルに搭載できるほど小型化が進んでいるかどうかだ。現時点では明確には言えない。ただ、われわれとしては楽観してはいけないと考えている」


--米国本土については

 「今回の、いわゆる韓国・アメリカなどで評価されているのは中距離弾道ミサイルということだった。したがって、ICBMといわれるアメリカを射程に入れるミサイルについては、やはりその方向に着実に進んでいるとは思う」

 --尖閣諸島では数週間ごとに中国船が入ってきては出ていくことが定期的に行われている。今後も続くと思うか。これから状況が悪化したり、進展することは

 「尖閣の状況については海警という中国のコーストガードが定期的にわが国の領海を侵犯をしている。このような状況は、当面変わらないと思う。われわれは決して事態をエスカレーションさせないよう、冷静に対応している。尖閣をめぐる領土・領空・領海については断固として守るが、決してエスカレーションをさせないように冷静に対応していきたい」

 --日本防衛に関わる判断の際、北朝鮮は日本を攻撃できる核兵器を持っているという前提で物事を決めているか。それとも、北朝鮮にはまだその能力はないと考えるか


「北朝鮮は在日米軍を狙った訓練をしたと公言した。核弾頭がミサイルに搭載できるだけ小型化されているかどうかについてはより詳細な分析が必要だ。時間を北朝鮮に与えれば、そのような技術を持つ可能性は高い。ミサイル・核を放棄させるという今の国際社会の圧力は重要だ」
 --現状というより、いろいろ判断しているとき、北朝鮮にその能力があるという前提で判断をするかどうかという質問だ
 「これは非常に機微に触れる問題なので、仮定の話については言及を避けたい」

 --安倍晋三首相が最近憲法を変えたいと発言している。今の日本国憲法、法律の中で、自衛隊に関して「今は制限されてできないが、今後していく必要がある、できるようにすべきだ」と考えることはあるか。「自衛隊の存在そのものが憲法違反だ」という考えの専門家もいるが、それについての考えは

 「自衛隊の役割をこれから拡大するかどうかということだが、これはもう、いつに政治の決定によるものであり、私からお答えすることは適当ではないと思う。安倍首相が言われた憲法を変えるということについてだが、憲法という非常に高度な政治問題なので、統幕長という立場から申し上げるのは適当ではないと思う。ただし、一自衛官として申し上げるならば、自衛隊というものの根拠規定が憲法に明記されるということであれば、されることになれば、非常にありがたいなあとは思う」


--北朝鮮の弾頭の小型化などについて。以前、弾頭が入っていくために「ヒートシールド」が必要で、北朝鮮はそれをまだ開発していないという話がある。「ヒートシールド」の開発は、今北朝鮮は実現していくか

 「今回、相当なロフテッドで上げているので、ウォーヘッド(弾頭)の試験をした可能性はあるが、その結果どうだったかということについてはまだ承知していない」

 --南シナ海の情勢について。護衛艦「いずも」が先日、シンガポールで米軍と共同訓練した。自衛隊は今後、南シナ海に関わっていくことを考えているか

 「現在、東シナ海では常時、警戒監視を実施している。現時点において、南シナ海で常時、警戒監視をするという計画はない。ただ、南シナ海は、わが国の海上交通の安全確保においても非常に重要な海域だ。従って、南シナ海などの安全と安定に寄与していきたいとは考えている。今回、いずもともう1隻、護衛艦を南シナ海に派遣しているのも、南シナ海の平和と安定に寄与するためだ。その際、米国、オーストラリアとの協力も考えていきたいと思っている」

 --米国で新政権が誕生し、日米の防衛に関する関係について変化はあったか。中国は水陸両用戦の能力を高めているが、日本もそういった計画はあるか


「トランプ政権が発足する前には駐留経費の問題で、日本に対して非常に強い姿勢でキャンペーン中は臨まれたということがあった。それに対し、一部日本の方も懸念をしていた。しかし、トランプ政権発足後、安倍首相とトランプ大統領との会談、稲田朋美防衛相とマティス国防長官の会談などを通じ、日米の防衛協力は全く変化なく深化したと思っている。水陸両用機能については従来、自衛隊は非常に弱かった部分だ。これの強化は自衛隊のプライオリティの高い課題であり、米海兵隊の協力も得て向上を図っている。来年3月には専門部隊を創設する」

 --マラッカ海峡周辺は日本の貨物船等にとって重要な海域だ。自衛隊は今後、そういった地域での活動はあるか

 「マラッカ海峡はわが国のシーレーンについて非常に重要な海峡だ。マラッカ海峡周辺においても海賊事案が発生しているということも承知している。そのため、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどが協力して対処に当たられていることも承知しているし非常に敬意を払っている。一方でわれわれの兵力も限られており、現時点ではマラッカでの対応は計画はない」


--弾道ミサイル対応で、イージス艦に積めるSM3の数は限られており、同時に多数のミサイルが飛んできたら対処に限界があると一般に言われている。その限界はどうお考えになるか。限界があるにも関わらずなぜ巨額なお金を費やすのか。それとも日米同盟が機能するために必要だとか別のロジックがあるのか。ミサイル防衛の限界についてどう考えるか

 「飽和攻撃、多数同時に撃たれた場合、非常に厳しいものがあるというのはその通りだ。ただし、そのために今現在、新しい新型のSM3ブロックIIAの開発も進めているし、イージス艦の増勢も進めている。日本国民の生命と財産を守るための防衛なので、日本は憲法上の制約があり非常に手段は限られている。その中で、BMD(弾道ミサイル防衛)の防衛というのは憲法上も認められている手段だ。その一方でやはり、費用対効果という観点も必要だ。その観点から、さらに効果的なBMDの防衛態勢はどうかということについて今検討しているところだ」


--米国が朝鮮半島沖にカール・ビンソンを送ったり、原潜を送ったり圧力を強めているがミサイルの発射が止まらない。北朝鮮への抑止は効いていると思うか。日本自身として圧力を強めることは何ができると考えるか

 「カール・ビンソンが抑止として効いているかという質問だが、これについてはなかなか答えるのが難しい。カール・ビンソンだけではなく、中国の圧力等々を含め、米国が圧力をかけていると思う。したがって空母の展開というのは、その圧力の一つだと認識している。日本が独自でできる抑止だが、ご承知のとおり日本は軍事的な手段は非常に限られているので、やはり経済的な制裁などが中心になるのではないかと思う」

 --北朝鮮は経済的に豊かではない国だが、ロケットなどの開発には非常に大きなお金を投資している。そのお金はどこから来ているのか

 「私が教えてほしい。ただ、これは確証があるわけではないが、北朝鮮という国はあらゆる非合法な手段を含めて資金の調達はやっているといわれている。そこら辺の理由なのかなと思う」


河野統合幕僚長 「統合司令部」の新設を検討



《維新嵐》まさに自衛官の多くの「本音」ともいえる内容でしょう。これを読んでくださるみなさん一人一人が、我が国の「国防」についてどういう方法がよりよいのか、考えるきっかけになればと思います。日本国民みんなで考え、前進していきましょう。一部の人たちで決めるのではなく、日本国民みんなで。



2017年5月21日日曜日

【北朝鮮の弾道ミサイル発射!】アメリカの「カモ」にされる日本政府という見方

元自衛艦隊司令官が「トランプVS金正恩」激突とウラ側を分析
米本土に届くICBMの行方と日本への脅しは…

香田洋二
◆香田洋二(こうだ・ようじ)氏 昭和24(1949)年生まれ。防衛大学校卒、海上自衛隊入隊。自衛艦隊司令官などを務め退官。内閣官房国家安全保障局顧問会議メンバーなど歴任
※この記事は、月刊「正論6月号」から転載しました。

2017年3月6日、朝鮮人民軍が「スカッドER」とみられる4発の弾道ミサイルを発射した。
 北朝鮮の核ミサイル開発をめぐる米国と北朝鮮の対立は、北朝鮮の狂気の挑発に対し、米国が強い姿勢を打ち出し、エスカレートしたように見えたかもしれない。朝鮮労働党委員長の金正恩が1月1日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験準備が「最終段階」と表明し、その後も、ミサイル発射を繰り返したのに対して、米国大統領のトランプは原子力空母カールビンソンを朝鮮半島近海に移動させることを決定した結果、両国間の緊張が高まって--日本の新聞やテレビを追うだけでは、そう見えたのもやむを得ない。  
 しかし、実際には、そんな単純な構図ではない。この事態が起きる可能性は、昨年から徐々に高まっていたといえる。私は昨秋には米朝の軍事衝突の可能性が二〇~三〇%になっていたと分析しており、機会をとらえ警告を発していたが、可能性は1月1日のICBM最終段階宣言でさらに高まり、トランプ政権誕生で現実味を強めていったのである。無論、北朝鮮も米国も自らのメンツだけにこだわって対立をエスカレートさせたのではない。まして金正恩が自暴自棄になっただとか、トランプが感情的になっただとか、そういう話では断じてない。  
 単純に言えば、北朝鮮は自国の存続のために、米本土に届く核ミサイル開発で米国を交渉の場に引きずり出そうとし、米国は、多数の自国民が核ミサイルによって死ぬ事態だけは断じて避けなければならないと考え、両者がギリギリの政治戦と神経戦を繰り広げた結果なのである。 
 
北朝鮮の狙いは金体制の保障

 なぜ北朝鮮が、ここまでのリスクを冒して核ミサイル開発にこだわってきたかといえば、それは、北の現国内体制の存続に関する米国の保障を取り付けるためである。
 今の北朝鮮の国家目標は、金正恩を中心とする国家体制の確立、維持である。どんなに自国民が窮乏しても、金正恩体制を守ることが第一だというのは、明らかであろう。では、その北朝鮮の体制を保障してくれるのは、誰なのか。さまざまなルートを通じて資金や経済的な利益をもたらしてくれる中国か。いや、違う。もちろん、ロシアでも韓国でもない。歴史的に、米国によって国家体制を潰されるかもしれないという恐怖心を抱いてきた北朝鮮は、その裏返しとして、米国による現体制の保障を求めているのだ。

 北朝鮮は、朝鮮戦争(一九五〇年~五三年休戦)において緒戦の優勢のあと攻守所を変えるきっかけとなったインチョン上陸作戦以降、米軍により一度は敗北ギリギリまで追い詰められた。当時の指導者、金日成は実際には為す術もなく、中国とソ連(現在のロシア)の参戦と支援によって辛うじて戦勢を回復して同戦争を休戦(引き分け)に持ち込み、金体制は生き永らえることができた。自らは決して認めることのないこの悲惨な経験により、北は自国が国家生存に無策であれば米国により国家を潰されるという恐怖に苛まれることになったのである。  
 冷戦期、米ソの核均衡時代になっても、北朝鮮は軍事的に存在を保障されたとはいえなかった。韓国に米軍が駐留したのに対し、ソ連も中国も北朝鮮に大規模な駐留軍を置くことがなかったからだ。 
 今日でも北は、各種の軍事装備を保有する量的には世界有数の大規模な軍事力を有している。同時にその現状は約二十五年にわたり核と弾道弾に偏って国家資源を過重投資し続けた結果、真に有効な通常戦力は、三八度線からさほど離れていないソウルを「火の海にすることができる」と豪語する長距離砲兵と、韓国軍や米軍でも完全な封殺が困難な特殊部隊による奇襲やゲリラ戦能力のみが頼みとなる存在となっている。 朝鮮戦争休戦以降の北は、もともと豊かではない国力の大部分を軍事力構築に振り向けることによりかろうじて南北の軍事的均衡を維持してきた。一九九〇年代以降、北は通常戦力を維持するよりもはるかに大規模な国家資源投入が必要となる核兵器と弾道弾開発に着手したため、その代償として北の通常戦力近代化は大きく遅れた。その結果、北自身が大規模かつ本格的な通常戦力による正面衝突を有利に戦い勝利するために必要な軍事力そのものに加え、その基盤となる人的資源及び経済力の双方も、もはや保持し得ない状況となっていることは、北自身が最もよく認識していたのである。  
 そういう現実の中で、米国から国家体制の存続について保障を取り付けるための唯一の手段が、核兵器と米国に直接到達するICBMであったのだ。  
 もし核弾頭と米本土に届くICBMがあれば、たとえその数は少なくとも、米国一般市民を大量に殺傷し得る能力を米国に示すことができる。この能力は米国に対する巨大な脅威になることから、それと引き換えに、現在の金一族を中心とする超中央集権・独裁全体主義国家体制の保障を引き出せる。それが北朝鮮の論理であった。
 北朝鮮は先に述べた朝鮮戦争の教訓から初代指導者の金日成の時代に、核ミサイル開発を発想したとみられており、原子炉建設なども試みられた。しかし、文字通り「零」から出発した当時の北朝鮮にその余裕はなく、技術水準も加味した場合、弾道弾、核兵器の両者とも、当時その実現は全くの夢物語であった。友邦であったソ連、中国から技術面の協力が得られなかったことがその大きな原因となった。それどころか米国がソ連に働き掛けた結果、北朝鮮は核不拡散条約(NPT)に加盟させられ、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置かれることになった。それでも北朝鮮は核開発を諦めることはなく、一九八〇年代後半に冷戦が終わったことで、図らずも事態が好転することとなった。

 ソ連の崩壊によって、同国の核及びミサイル技術のノウハウと技術者が共に国外に流出を始めるという、いわゆる大量破壊兵器(Weapons of Mass Destruction: WMD)の拡散が起きたのである。これによって、それまではとても核兵器など持てるはずもなかったパキスタンやイランと同様、北朝鮮もまた核開発を本格的に行うことが可能になった。この環境下、自国による核兵器開発を可能と判断した北朝鮮は一九九四年六月にNPT脱退を宣言した。
  
アメリカ本土への核攻撃

 これに対して米国は核開発の中止(核放棄)を求めてきたが、北の核問題顕在化以来三人の歴代大統領(クリントン、ブッシュ、オバマ:計二十四年間)は核放棄実現のための手段の一つである軍事力の使用をためらった。逆に、国連の経済制裁と中国主導による六か国協議における北との対話による核放棄を期待したものの、現実は、その開発ペースをやや遅らせること以外に何もできなかったといえる。北朝鮮は各種の制裁(sanction)を受けても、核開発を止めることはなかった。一時的な開発停止でいったん合意しても、制裁解除と各種援助再開という利益をとると、約束を実質的に反故にしてきた。よく言われる北の「瀬戸際外交」ならぬ「食い逃げ外交」であり、関係国は繰り返し、その術中にはまったのである。  クリントン政権は、北朝鮮国内での核開発の凍結、国交の正常化への道筋の枠組みで合意したが、北は開発を止めなかったし、クリントン大統領も北朝鮮の爆撃も計画しながら、北の反撃による大被害が見積もられた韓国の強い反対もあり結局は実行しなかった。勿論そのような背景もあるが、現実はクリントン大統領自身に、この問題の本質の深刻さを見極める感性が欠けていたこと及びその結果として断固として軍事力をもって北に立ち向かうという気概と意志がなかったことが、その大きな原因であったと考えられる。当時の米国はまだ、冷戦の勝利という美酒に酔い、クリントン大統領は北朝鮮の核開発について真剣に向き合おうとしていなかったと映る。  
 ブッシュ・ジュニア大統領は当初、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難し、テロ支援国家としたが、結局、自らの任期の最後の段階でそれを取り下げた。次のオバマ大統領は、北朝鮮問題に関する軍事力行使オプションを完全に放棄し、米軍(太平洋軍)の北朝鮮への攻撃計画を金庫にしまい、鍵をかけて封印までしたといえる。クリントン大統領の就任と北の核疑惑が顕在化した一九九三年からオバマ大統領が退任する二〇一七年までの二十四年間、米国が実質的に何もしなかった間に、北朝鮮は核実験を重ね、ミサイルも日本までを射程に入れるノドン、テポドン、そしてグァムに到達するムスダンまで開発を進めてきた。核ミサイルにより一部とはいえ米国市民を脅すところまで来たのである。

 もちろん北朝鮮の本音は、これを本当に使用しようというのではない。通常戦力はもとより米国の核戦力は圧倒的であり、北が日韓という同盟国あるいは米国そのものに対し一度でも核を使えば、その結果、米国により激しく報復されることは明白である。厳しい表現ではあるが、北朝鮮が国家ごと蒸発してしまうことから、北の国家目的である現体制保障そのものが吹っ飛んでしまうことは、北の指導者も明確に認識しているものと考えられる。  
 そうではなく、米本土を攻撃し、米国民を大量に殺す能力を持つという能力自体が北にとって重要なのである。これが米国に対する抑止力と脅威となり、米国による体制存続の保障を引き出す手段になると、彼らは考えるのである。  
 テポドン1型で沖縄の米軍基地を射程に収めたことは、当面米国本土を攻撃する能力を保持していない彼らにとって、次善の措置として日本に駐留する米軍人を人質にとるという大きな意味があった。日本を脅したり、攻撃したりするのが主目的ではなく、米国へのメッセージなのだ。実際に北朝鮮は3月に日本近海に向け発射した、4発のミサイルについて、在日米軍を対象にしたものだということを初めて明言した。しかしながら我が国自体が北の弾道弾の射程内にあることは今さらあえて強調する必要もなく、我が国の防衛当局にとっては「当たり前」のことであり、北の今回の言及は「それがどうした」という程度のものである。そのようなことは承知のはずの北が今回あえてこれを明言した背景には、昨年秋以来強硬姿勢に転じた米国に対し、米本土はともかくとして、米国の一部である当地域展開中の米軍部隊を攻撃できる能力を示すことにより、米国・米軍を抑止し、自らの体制保障の取り付け、最低でもそのための会議の無条件開催を合意したいという政治的メッセージを発信したものである。  
 昨年6月には新型の中距離弾道ミサイルのムスダンが限定的な成功を収め、グァムを射程に収めたといえるが、これは米軍人だけではなく、民間人をも人質にとったことを意味する。しかし、米国の反応は相変らずゼロ解答(戦略的忍耐力=北の核完全放棄までは一切北に対応しない政策:Strategic patience)であり、北の目論みは失敗に終わった。  
 未確認ではあるが、アラスカまで届くテポドン2の発射試験が行われたとの情報もある。総合的に判断すると、米本土に届くICBMは完成レベルに達していないが、近い将来それを実用化する段階になったのである。実際、作戦兵器ではないが昨年2月に人工衛星打ち上げ用に使用したロケット(テポドン2の派生型?)は、軍事用に転用すれば一万二〇〇〇~一万四〇〇〇キロ、すなわち米本土全域を射程内におさめるICBMへ転用が可能と見積もられている。

これはまさに、北朝鮮が米国本土と三億人に上る米国民を人質にとる能力を得ようとしていることを意味するのである。 

トランプは金庫の鍵を開けた

 これに対し、米国は、「ならず者国家」よりもはるかにひどい超中央集権・独裁全体主義国家である北朝鮮に体制保障を与える交渉など決してしたくないのである。実際、トランプ政権は、北朝鮮との交渉をしようとせず、強硬姿勢をとり続けている。  
 米国にとって、金日成、金正日、金正恩という独裁者が支配する国家など、まともな国家として認められないことは当然である。米国と体制を異にする核ミサイル国家であるソ連や中国は外交によりコントロールできる国といえるが、北朝鮮は、両国とはまったく異なる。米国からみれば、北朝鮮は人類史上、例を見ない危険国家であり、その核ミサイル開発は人類への挑戦とも映っている。 
 こうした認識はトランプ政権発足直前から顕在化した。例えば、アメリカはオバマ政権末期の昨年十月には核爆弾B61タイプ11の投下訓練を行ったことを公表した。これは地下への貫通型の核爆弾で、北朝鮮かイランの地下に隠されているミサイル基地攻撃を目的としているといわれるものだ。実際に投下されたのは、機構も構造も本物そっくりでも核の入ってない「INERT」弾だが、明らかに北朝鮮に対するメッセージだった。同時にこれは次期大統領を争っていたクリントン、トランプ両候補に対し米軍の準備状況を行動で報告するという米軍の思惑であった。 今年1月のトランプ政権の発足は、米国の考えを、はっきり示し、二十四年間の実質的な放置の時代から、軍事力の行使も辞さないという姿勢へ舵を切る転換点になったといえる。トランプ大統領は、オバマ政権が北朝鮮攻撃計画を納め続けた金庫の鍵を開けたのである。  
 本号発刊時に読者が本記事を読むときに生起しているであろう現実の米北関係の予測は困難である。しかし、本項執筆時(平成二十九年四月中旬)においても、現在までの情勢判断の蓄積から米国の北朝鮮攻撃の戦略は、ある程度、分析することが可能だ。

両軍激突を徹底分析

 まず米国が攻撃対象として考えるのは、韓国・ソウルを火の海にしようとする北朝鮮の長距離砲兵であるはずだ。攻撃すれば無論、北からの反撃を受け、韓国内を中心に被害が出るだろうが、その被害が許容できる水準までに砲兵部隊の攻撃力を減殺可能と見積もれば、米国は躊躇なく攻撃する。それが戦争である。  
 ただ、ミリタリーバランス2017や平成二十八年版防衛白書によると、北朝鮮は戦車三五〇〇両、大砲は八五〇〇門に上り、韓国、在韓米軍にとってその長距離砲兵の脅威は決して小さくないことは指摘しておく。米国にとって同盟国韓国の首都の被害を最小限に留めることは、攻撃実施の最大の条件となる。  
 次に考えられる攻撃対象は、やはり北朝鮮の核兵器、ミサイル部隊、核とミサイルの開発施設であろう。問題は、こうした部隊等の所在場所について、諜報などでどれだけ情報が集められているかである。これが作戦成功の鍵を握る。それから防空能力の無力化のための攻撃も明白である。 
 全ての条件が満たされ攻撃を実施する場合、第一次攻撃は、最初の五~六時間で、北朝鮮両岸の艦艇・潜水艦からのトマホークとグァムから出撃するB1やB52爆撃機から発射される航空機発射型の巡航ミサイルなどを使って行い、そこで破壊できなかった残存兵力や施設に対し、第二次攻撃として空軍のF16と海軍のFA18等の有人戦闘爆撃機を投入して、「撃ち漏らし」を局限する。これが、ノーマルな攻撃手法というべきだろう。しかし、情勢にあわせて変更されるのが、戦略である。

 今日まで米国は日本の協力や中露の理解までも得るために盛んに外交努力を行ってきたが、事ここに至っては国連決議や中国の同意が必要とは本質的に考えないはずだ。米国にとって、自国の領土と多数の国民が脅かされていること自体が自国への直接脅威であり、国益を防護する個別的自衛権の発動の対象なのだ。  
 ただ、ミリタリーバランスによると、北朝鮮の総兵力は一一九万人(自衛隊の五倍以上)にのぼるし、米国の一方的な攻撃にはならないことは当然である。北の反撃は受けるが、だからといって米国は必要とあれば厭わないだろう。なぜならば、いま核ミサイルを容認すれば、米国は子孫の時代までも脅迫され続けると認識しているからである。ここで気を付けなければならないことは、この問題は米国のみならず全ての人類に対する直接的な大量破壊兵器の脅威と挑戦であり、世界全体が北の核ミサイル問題への対応を求められるという事だ。  
 北朝鮮の朝鮮人民軍は三八度線へと押し寄せるが、これを押しとどめるのは、第一義的に韓国軍の任務だろう。艦艇の数や作戦機の数を見ても、北の軍事力はかなり大きいが、その装備はほとんどが旧式である。北と南の通常戦力の相対能力は、クリントン大統領が北の攻撃を決心できなかった一九九四年当時に比べ、今日では大きく韓国軍有利となっている。韓国は軍事力を大きく伸ばし、北は核ミサイルへの過大投資により通常兵力の近代化に失敗したのである。ただ、特殊部隊による奇襲・ゲリラ攻撃を全て防ぐことはできないし、韓国側にもかなりの被害が出る。当然、化学兵器、生物兵器が使用されることも考えておくべきだろう。  
 米韓連合軍と戦わなければならない北として我が国への攻撃は実施するものの、それに割り当て得る兵力には限界がある。しかし、日本に対して一定規模のミサイルやゲリラ攻撃が行われることは確実で、備える必要がある。  
 ちなみに、一部で、米国が金正恩や北朝鮮指導部をピンポイントで攻撃し、排除する「斬首作戦」が報じられているが、これはオプションの一つではあるが実行は難しく、優先度は低い。  
 今次事態において、米国が北朝鮮を攻撃する場合の最大の目的は北の核とミサイルの排除であり、北の体制変更ではないという事である。対立しているとはいえ独立した主権国家である北朝鮮の政治体制を軍事力により一方的に転覆することは、仮に核とミサイル排除の副次的目的であるとしても国際社会において許されるものではない。同時に、これが中国に絶好の介入口実と機会を与えることとなることも米国は確実に考慮に入れていると考えられる。このことから米軍地上兵力の北領内での作戦はないと考える。  
 金正恩を殺害すること自体が目的なのではなく、北朝鮮を核なき普通の国家とすることが目的なのである。理想は、金正恩もなく核もない普通の国家かもしれないが、金正恩体制下の核なき国家ならまだ許容範囲だ。逆に金正恩を殺害することによって、北朝鮮国内が大混乱に陥り、残余の北の指導者が自暴自棄になる状況こそ、米国にとって最悪のシナリオである。 
 
日本への攻撃は…

 軍事力を使わないと簡単に見積もることができた過去の米国三政権の下で北朝鮮は二十四年間、核兵器、ミサイル開発を着々と進めた。いわば二十四年間、枕を高くして寝ていたその彼らに衝撃を与えたのが、米軍によるシリア攻撃であった。そして、中露との関係を考えたとしても、米国が今、北朝鮮問題に本腰を据える環境は、十分、整ってきたといえる。

 先に述べたように、北朝鮮が日本を攻撃する可能性はあるし、読者が本記事を読む時には、実際に米軍による北朝鮮核ミサイル関連部隊・施設への攻撃が行われているかもしれない。北は自らのミサイルが沖縄を射程に収めるのは在日米軍が標的であると述べたが、同時に、日本への脅しにもなっていることも、また事実である。

 その際でも、北にとっては米韓連合軍と韓国への攻撃が主となるため、我が国への攻撃はその残余の兵力によらざるを得ない。仮にそうだとしても日本では、今次事態に対する防空演習も行われないなど、危機感が欠如していると言うべきだろう。BMD体制の整備も引き続き行うべきだし、今後のためにも直接の防衛措置はもとより政府をはじめとする官民一体となった対処体制構築の加速が必要である。 最後に、以後の推移として、今次事案が次に打つ手の手詰まり感から米国と北朝鮮とも強硬な挑発を控える結果、米軍の攻撃が行われない公算も大きい。この事態は、戦争を望まない各国や各種勢力にとって短期的には最良の結果と映るであろう。しかし、これは過去二十四年間と同じく、北の核ミサイル開発が一時的に中断したことでしかない。皮肉にも、米北の直接戦闘回避という見かけ上の最良の結果が、真の最悪の結果、すなわち制御不能の超中央集権・独裁全体主義国家である北朝鮮が核兵器と世界のどの地点も攻撃可能なICBMを保有するという事態を招くことを我々は忘れてはならない。短期的な最良の結果が仮に達成された場合でも、近い将来に米国が北朝鮮を攻撃することは必然の流れであろう。これが現実であり、その場合、米国は国連や同盟国にさえ相談せず、自らに最適のタイミングを選び一方的かつ強烈な一撃を北に加えるであろう。これが、米軍が伝統的に最も得意としてきた米軍の戦い方である「Shock and Awe」である。

北ミサイルは米本土を捕らえた 刃を突きつけられ「レッドライン」迫る
産経新聞

「レッドライン(最後の一線)」にまた一歩近づいた。
 北朝鮮は2017514日早朝、北西部の亀城付近から弾道ミサイル1発を発射した。高度は2千キロを超え、800キロ近く飛行した後、日本海の公海上の目標水域に正確に着弾させた。
 発射されたのは新型中長距離弾道ミサイル「火星12」。通常の角度で打ち上げれば射程が4千〜6千キロ超に達し、性能は米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「一歩手前まできた(自衛隊幹部)と見られている。
 米国はオバマ前政権による「戦略的忍耐」で北を野放しにし、のど元に刃を突きつけられる結果を招いた。トランプ政権は「レッドライン」をあえてつまびらかにしていないが、間近に迫っていると見て間違いない。
 発射には金正恩朝鮮労働党委員長が立ち会い、米韓などが「正気を取り戻し、正しい選択をするまで」核兵器やミサイルの増産と実験準備を進めるよう命じた。
 朝鮮中央通信によると、今回のミサイルは「周辺国の安全を考慮して最大高角で発射した」とし、日本政府も高角度で飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げたと分析している。落下速度が速く迎撃が難しいとされる。
 韓国の専門家の間では、米アラスカ州も射程に入る5千〜6千キロ超に達するとの見方もある。射程5500キロを超す弾道ミサイルはICBMに分類される。
 金委員長は、トランプ政権に対し、「軍事的挑発を選ぶなら喜んで相手をする準備が整っている」と豪語した。
 稲田朋美防衛相は5月16日、北ミサイルの落下地点が北海道の奥尻島から約450キロの日本海上で、日本の防空識別圏(ADIZ)内だったと明らかにした。
 国連安全保障理事会は、北朝鮮による4月29日と5月14日の弾道ミサイル発射について、安保理決議の重大な違反として「強く非難する」との報道声明を発表した。報道声明発表には安保理の全15カ国の賛同が必要だが法的拘束力はない。
 今回の報道声明では、北朝鮮によるミサイル発射に、「最大限の懸念」を表明。また、北朝鮮に影響力を持つ中国やロシアを含む安保理の理事国が、「北朝鮮に対する制裁の履行徹底を誓った」と明記したそうだが、北は痛くもかゆくもなかろう。
 米国のヘイリー国連大使は金正恩氏を「パラノイア(偏執狂)の状態だ」と非難した。「彼は周りの全てのことを信じられないほど懸念している」と論評した。
 しかしながら北朝鮮がミサイルを発射した14日は、習近平国家主席が提唱した現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する初の国際会議の開幕日で、中国が今年最大の外交イベントとして準備してきた会議だった。中国最高指導者は顔に泥を塗られた。
 中国はトランプ米政権からさらなる対北圧力強化を求められると同時に、国内でも対北批判の世論が広がりかねないようだ。
 韓国に対しては、北朝鮮に融和的な文在寅氏が大統領になるのを待って発射に踏み切ったとみられ、周到に準備、計画されたものだ。文大統領はNSCで「北との対話の可能性を開いているが判断を誤らないよう挑発には断固たる対応をすべきだ」と述べ、苦渋をにじませた。
 我が国の民進党は岡田克也・党安全保障調査会長名で「強く非難する」との談話を発表、「今後特に重要なのは、日米はもとより、日中、日韓の首脳レベルでの迅速かつ緊密なコミュニケーションである。政府にはさらなる外交努力を求めたい」とも訴えたそうだ。
 蛇足ながら、この国難に鳩山由紀夫元首相は相変わらずの宇宙人ぶりを発揮している。鳩山氏はツイッターで、一帯一路の国際協力サミットフォーラムについて、「習近平主席の演説は高い評価です。一帯一路の目的は1に平和、2に繁栄です。何か日本が取り残されている感があります」と指摘した上で、ミサイルの発射について、「北朝鮮がミサイルを発射したようですが、誰一人言及しませんでした。日本では騒いでいるようですね」とまったくの他人事で、かつて首相を務めた人物の発言だけに、背筋が寒くなる。
 岸田文雄外相は20175月16日、ティラーソン米国務長官と電話会談を行い、「対話のための対話では意味がなく、今は圧力をかけるべきときだ」との方針で一致した。
 民進党がいう「外交努力」や国連の声明、経済制裁は空虚だ。時間が経つほど状況は悪化しており、悲しいかな「軍事力」以外に方法が見当たらないのが現実だ。(WEB編集チーム 黒沢通)


【朝鮮中央通信が論評】北朝鮮「米本土と在日米軍に核兵器照準」と威嚇
2017.5.21 00:35更新http://www.sankei.com/world/news/170521/wor1705210006-n1.html


【ソウル=名村隆寛】北朝鮮の朝鮮中央通信は20175月20日、「日本もわが方の打撃圏内にある」と題した論評を報じた。論評は「実戦配備された核兵器を含むわれわれの全ての軍事的攻撃手段は、米本土と在日米軍基地に精密に照準を合わせ、殲滅(せんめつ)的な発射の瞬間だけを待っている」と日米を威嚇した。
 論評は、安倍晋三首相が20175月16日にハリス米太平洋軍司令官との会談で、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に緊密に連携、対処していくことを確約したことや、麻生太郎財務相がムニューシン米財務長官と対北経済制裁強化で合意したことに対するもの。
 論評は、日本が米国に追従し北朝鮮への「制裁策動に狂奔」したことで、「自らがわが方の打撃圏内にさらに深く入り込む結果を招いた」と主張。「今からでも災いを招く愚かな振る舞いをやめ、自粛した方がいい」と警告した。
 また、北朝鮮による14日の中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験の「成功」後、「日本が慌てふためいている」とした。日米などによる圧力や経済制裁強化に、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権が、過敏に反応している様子がうかがえる。

【維新嵐】強力な軍事力を背景に圧力をかけるのは何のためか?誰も実弾を伴う戦争などしたくはありません。本音は少しでも自国にとって有利な外交的譲歩をひきだすためです。明らかなこの北朝鮮による「瀬戸際戦略」の行き着く先はどこにいくのでしょう?
 実弾を伴う戦争をすれば、一番最悪なのは北朝鮮です。北の攻撃は、サイバー攻撃か特殊工作員によるテロ攻撃でしょう。
 アメリカの対北朝鮮攻撃の姿勢は、以下の北村氏の論文のような意味もあわせて考えるべきです。どの国も戦争で利権を拡大しますが、アメリカのトランプ政権は、就任早々から「アメリカ・ファースト」を掲げる国です。アメリカのアジアでの利権拡大は常に頭にあるでしょうね。

米国の対北朝鮮政策に全面協力で日本はカモに?

“日本第一”ではなく“アメリカ第一”の日本政府

北村淳
北朝鮮による地対地中距離弾道ミサイル「北極星2」の発射実験を撮影した写真。朝鮮中央通信(KCNA)配信(資料写真、撮影地不明、2017212日撮影、同月13日配信)。(c)AFP/KCNA VIA KNSAFPBB News

北朝鮮による核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成がいよいよ現実的になってきたため、トランプ政権は軍事攻撃というオプションをちらつかせながら本腰を入れて北朝鮮に強力な圧力をかけ始めた。
 日本政府も、北朝鮮のICBM開発の進捗状況は日本にとって「新たな脅威レベル」であると認識し、アメリカの北朝鮮への軍事的威嚇に協力する動きを見せている。
アメリカに貢献する日本
具体的には、北朝鮮威嚇のために出動してきたアメリカ海軍カール・ビンソン空母打撃群が日本近海に近づくと、日本政府は海自駆逐艦を派遣して護衛に当たらせた(下の写真)。アメリカ海軍にとって、空母打撃群の護衛を海自駆逐艦によって増強してもらうことは、大いなる戦力の節約になる。


米空母カール・ビンソンを護衛する海自駆逐艦あしがら、同さみだれ(写真米海軍)

 また日本国防当局には、「新たな脅威レベル」である北朝鮮弾道ミサイルを迎撃するという名目で、弾道ミサイル防衛システム(BMD)の増強を加速させようという動きが表立ってきている。THAADあるいはイージス・アショアといった超高額兵器システムである。それらのBMDはアメリカ製であるため、日本がBMDを調達すればアメリカ防衛産業は大いに潤うことになる。
 日本がアメリカ海軍の戦力の節約に寄与し、アメリカ防衛産業の懐を肥えさせれば、たしかに日米同盟の強化にプラスになると言えなくはない。「アメリカの国益からは大変ありがたいのだが、日本の防衛という視点から見ると、昨今の日本政府の姿勢に疑問を呈せざるをえない」とする米軍関係戦略家は少なくない。つまり「日本政府は日本国民よりもアメリカを向いているとしか思えない」というのだ。
アメリカの軍事攻撃が日本への反撃を引き起こす
日本政府は地方自治体などに対して、北朝鮮の弾道ミサイルが着弾した際の対処方針を広報するよう指示を発した。北朝鮮のミサイルの脅威が現実のものとして迫っていると受け止めた人は多いだろう。
 だが、これこそが、日本政府が日本国民の生命財産の保護を最優先させるのではなく「アメリカの都合第一」という姿勢を取っていることを如実に物語っている。
 そもそも北朝鮮には、日本に弾道ミサイルを撃ち込んで先制攻撃する理由など存在しない。
 日本と北朝鮮の間には拉致問題という深刻な問題が横たわっているが、拉致問題を巡って日本と北朝鮮の間に武力衝突が発生するのは、日本側が日本国民奪還のために軍事行動を起こした場合に限られる。ただし、拉致問題解決のために日本政府が軍事行動を発動することは、当面のところ絶対にあり得ない。
 ところが、日本が北朝鮮を軍事攻撃しなくても、日本に対して北朝鮮の弾道ミサイルが撃ち込まれる可能性がある。それは、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃した場合である。
本コラムでも述べたように(本コラム2017年330日「」、413日「」など)、アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けた場合、間髪を入れずに韓国・ソウル周辺は北朝鮮軍の猛烈な砲撃により火の海と化すことはほぼ確実である。そして極めて高い確率で日本に対しても50100発程度の弾道ミサイルが撃ち込まれるものと考えられている。
 要するに、日本に北朝鮮弾道ミサイルが撃ち込まれるのは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃が実施された場合だけと言っても過言ではない。
自国民が犠牲になってもアメリカを支える日本政府
トランプ政権が北朝鮮に対して軍事攻撃を実施するそぶりを見ると、日本政府はただちにアメリカ政府を支持する方針を公言した。だが、それは日本の国土が反撃を受けることを日本政府が受け入れたということにも等しい。
「日本国民を守るつもりならば、『日本や韓国を犠牲にしてまでも軍事攻撃を実施するのか?』とトランプ政権に対して不信を表明すべきであった。不信を表明しなかったのは、独立国の政府としてははなはだ不思議な態度である」と上記の戦略家たちは首をかしげる。
 それどころか、日本国民に対して「弾道ミサイルが着弾した場合の行動指針」という訳のわからない内容の注意喚起まで行っている。このような政府広報を発するということは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃を日本政府は容認していた何よりもの証拠である。
 つまり「日本政府は、日本国民の生命財産を危険にさらしても、アメリカ政府の方針に全面的に追従するという、独立国としては理解に苦しむ態度を取った」ということになる。
北朝鮮の脅威を言い立ててBMDを売り込め
また、北朝鮮の弾道ミサイルが飛来しかねないということで、弾道ミサイル防衛システムの強化をさらに推進しようという動きも活発になってきているが、これも「アメリカの都合第一」に依って立つ姿勢と言わざるを得ない。
 なぜならば、北朝鮮の弾道ミサイルが日本に飛来する原因をつくり出すのは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃だけだからだ。その結果として日本に飛来してくるであろう北朝鮮軍の弾道ミサイルを迎撃するためのBMDを、アメリカが日本に売り込もうとしているというわけである。
アメリカが主導して開発を進めているBMDプログラムは、アメリカ(厳密にはアメリカ本土48州)をICBM攻撃から守るために開発されており、57段階の防御ラインから構築されている。その中からイージスBMD艦とPAC-3だけを取り出して日本に配備しているのが日本のBMDプログラムである。
 要するに、アメリカを守るために開発されているBMDプログラムの最初と最後のBMDだけを配備しているのが日本の弾道ミサイル防衛プログラムなのだ。アメリカのようには迎撃効果が期待できないのは当然といえる。
 それにもかかわらず、アメリカ政府が北朝鮮のICBMそもそもICBMは日本攻撃には用いられることはない)開発を「新たなレベルの脅威」と呼んだことをそのまま日本に適用し、超高額兵器であるBMDを増強しようとしている日本政府は、まさにアメリカにとっては“かけがえのない協力者”(すなわち“単なるお人好し”)ということになる。

我が国のBMD迎撃システム
アメリカ本国の多段階迎撃システムのうち、ミッドコース段階でのイージス艦からの迎撃とターミナル段階でのPAC-3による迎撃の2種をかなり高額なお値段にてアメリカから購入しました。






2017年5月20日土曜日

【世界ランサムウェアショック!】サイバー攻撃の総括と進化するマルウェア解析

身代金要求型マルウェア・ランサムウェアの世界規模でのサイバー攻撃についての総括

【世界100カ国で7万5000件超のサイバー攻撃】英国病院で大規模被害・日本も

ランサムウェアとは?

【ロンドン=岡部伸】英国各地の国営病院で2017512日、国営医療制度、国民保健サービス(NHS)関連施設のITシステムに大規模なサイバー攻撃があり、多数の病院で障害が発生、手術などの医療サービスが中断するなどの被害が続出。ロイター通信は、同様のサイバー攻撃がロシアを中心に欧州やアジアなど約100カ国で起き、攻撃件数は5万7千件に上ると伝えた。悪性のソフトウエアを用いた攻撃とみられ、被害はさらに拡大する見通し。
 英国ではイングランドとスコットランドなどで医療機関のIT(情報技術)システムが停止。一部の病院では手術を中止したり、診察予約をキャンセルしたりするなど医療サービス提供が困難となり、救急患者は別の病院に搬送された。イングランドでは「重大事故」が宣言され、英政府のサイバー犯罪対策を担う「サイバーセキュリティーセンター」が調査を進めている。
 メイ首相は、「NHSを標的としたものではない。世界規模のサイバー攻撃だ」と述べた。一方、患者のデータが不正アクセスされた証拠はないと強調した。
 またスペインでも、通信最大手テレフォニカの社内システムが攻撃を受けた。顧客への通信サービスの提供には影響は出ていないという。


 ロイター通信によると、攻撃は、コンピューターをロックし、解除する代わりに仮想通貨「ビットコイン」で300ドル(約3万4千円)から600ドル(約6万8千円)を支払うよう求める表示が出ており、「ランサムウエア」(身代金要求型ウイルス)とみられる。英BBC放送は、2017年4月に米国家安全保障局(NSA)が開発したとみられる悪性ソフトを公開したハッカー集団「シャドー・ブローカーズ」が関与しているとの見方を報じた。
 同通信によると、サイバー攻撃は、ロシアのサイバー・セキュリティーのソフトウエア会社の「カスペルスキ ラブ」が74カ国、で4万5千件と指摘。また別のソフトウエア会社「アバスト」は被害は99カ国に広がり、主要な攻撃目標はロシア、ウクライナ、台湾だとしている。
 また米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は欧州や日本のほかロシアやトルコ、ベトナム、フィリピン、中国、米国、イタリア74カ国で起き、被害は4万5千件に上ると報じた。

 米CNNテレビなど欧米メディアは20175月12日、情報セキュリティー会社の話として、大規模なサイバー攻撃が同日、欧州や日本を含むアジアなど99カ国で確認され、計7万5千件に上ったと報じた。

【世界約100カ国でサイバー攻撃7万5千件】英日産、病院など影響・近年最大被害の可能性

最終工程でチェックを受ける乗用車=2014年6月、英北部サンダーランドの日産自動車工(ロイター)

【ロンドン=岡部伸】大規模なサイバー攻撃が20175月12日、世界各地で一斉に発生したことが確認された。攻撃により、英国の日産自動車の現地工場で生産に影響が発生。フランスでは自動車大手ルノーも製造を一部停止した。攻撃はロシアや中国を含む約100カ国で起きており、件数は7万5千件に達するとみられ、近年では最大規模の被害が出る可能性がある。
 情報セキュリティー企業トレンドマイクロとカスペルスキーによると、日本への攻撃も確認されたといい、警察庁は被害について各都道府県警を通じて確認を進めている。
 米IT大手マイクロソフトの基本ソフト「ウィンドウズ」のセキュリティー上の欠陥が悪用された。攻撃について、米国家安全保障局(NSA)が情報収集のため開発した技術をハッカー集団「シャドー・ブローカーズ」が悪用しているとの見方が出ている。マイクロソフトはウィンドウズを保護するため防御措置を講じたとの声明を出した。
 英国では国民保健サービス(NHS)の情報システムに障害が発生。一部病院で医療サービスの提供が困難となり、手術が中止となったり、救急患者が別の病院に搬送されたりした。英政府のサイバー犯罪対策を担う「サイバーセキュリティーセンター」が調査を進めている。
 AP通信によると、ロシアでは内務省のコンピューター約千台が攻撃を受け、政府の捜査機関や大手携帯電話会社にも被害が出た。米運送大手フェデックスにも同様の攻撃があったほか、スペインでも通信最大手テレフォニカの社内システムが被害を受けた。
 攻撃はコンピューターをロックし、解除のために仮想通貨「ビットコイン」を300ドル(約3万4千円)から600ドル(約6万8千円)支払うよう求める表示が出ており、「ランサムウエア」(身代金要求型ウイルス)とみられる。

 英BBC放送(電子版)によると、情報セキュリティー会社「アバスト」は被害は99カ国、7万5千件に広がったと指摘している。

過去に行われた攻撃で使われたマルウェアのコードの類似性から攻撃元の特定が進んでいる。特に攻撃元の団体の違いに注目しましょう。

「ランサムウェア」攻撃に北朝鮮関与の疑いも
BBC News
デイブ・リー北米テクノロジー担当記者
2017512日から世界中に広がったサイバー攻撃は、誰が関与しているのか。現時点での推理は北朝鮮の可能性を示唆しているが、決定的な情報を得ているとはまったく言い難い。
「ラザラス・グループ」の名前は聞いたことがないかもしれない。けれども、その仕事ぶりは耳にしているかもしれない。2014年にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、2016年にはバングラデシュの銀行に、それぞれ深刻なハッキング被害を与えたのが、高度な技術をもつこの「ラザルス・グループ」だと言われている。
そしてラザラス・グループは、中国国内で活動するものの、指示しているのは北朝鮮だと広く考えられているのだ。
コンピューター・セキュリティーの専門家たちは現在、512日からの世界的サイバー攻撃にもしかするとラザルス・グループが関わっているかもしれないと、慎重ながら可能性を検討し始めている。グーグル社のセキュリティー研究者、ニール・メータ氏が、今回の攻撃に使われたWannaCry」というマルウェア(悪意あるソフトウェア)のコンピューター・コードと、ラザラス・グループが過去に作りだしたとされる他のツールのコードとの間に、類似性を見つけたのがきっかけだった。
証拠としてはわずかな断片にすぎない。しかしほかにも検討すべき手がかりはある。
英サリー大学のセキュリティー専門家、アラン・ウッドワード教授は私にメールで、最初のWannaCryのコードはタイムスタンプが「UTC +9、つまり協定世界時より9時間早い中国の時間帯に設定されていたと指摘した。また、ウィルスに感染したコンピューターのロックを解除してもらいたければ「身代金」を払えと要求する文言が、英語は機械翻訳した英語のようだが、中国語の部分は明らかに中国語を母語とする人間が書いたものに見えるという。
「つまり、かなり覚束ないし、いずれも状況証拠だが、引き続き調べる価値はある」と教授は書いた。
コードを分析
調査はすでに始まっている。
WannaCryの出所について、ニール・メータの発見は今のところ最も重要な手がかりだ」と、ロシアのセキュリティー企業カスペルスキーは評価する。ただし、結論を出すまでには、WannaCryの初期バージョンについてさらに情報が必要だという。
「世界中の研究者が、コードの類似性を調べて、WannaCryの出所に関する情報をもっと探り当てるのが大事だ」と同社は付け足した。
「バングラデシュの攻撃を振り返ると、最初の間はラザルス・グループとのつながりを示す情報はほとんどなかった。次第に証拠が増えて、関係していると自信を持って言えるようになった。点と点をつなぐには、調査継続が何より大事だということもある」
サイバー攻撃の発信元を特定するのは、非常に困難なことで有名だ。確認が取れるというより、大勢がそうに違いないと合意したから、おそらくそうなのだろう――という結論で落ち着く場合が多い。
たとえば、ソニー・ピクチャーズのハッキングについて、北朝鮮は一切関与を認めていない。米政府やセキュリティー研究者は、北朝鮮犯人説に自信を持っているが、間違いだった可能性は排除できない。
有能なハッカーが似たようなテクニックを使って、北朝鮮を発信元のようにみせかけただけということもあり得るのだ。
「現状では証拠として不十分」
WannaCryの場合、ラザラス・グループが攻撃に使ったコードをハッカーたちがコピーしただけという可能性もある。
しかしカスペルスキー社は、WannaCryの中にわざと偽装情報を埋め込んでいたという説は「可能」だが、「あり得ない」とみている。共通する問題のコードは、WannaCryの修正版からは削除されていたからだ。
「もしも、という仮説要素が非常に多い」とウッドワード教授は言う。「現状では証拠として不十分だ。しかしさらに深掘りしていく価値はある。北朝鮮の可能性が指摘されるなか、北朝鮮だと思いたい確証バイアスが働く危険を意識しつつだが」
現時点ではWannaCryの出所に関する最強の仮説だが、その一方で、北朝鮮ではないと示唆する詳細データもある。
第一に、中国も大打撃を受けた国のひとつだったことが挙げられる。しかも偶然にではない。ハッカーたちは身代金要求の中国語版を着実に用意していたのだ。北朝鮮が最大支援国の中国をわざわざ怒らせようとするとは考えにくい。ロシアも、ひどい被害を受けた。
第二に、北朝鮮のサイバー攻撃は従来、政治的意図をもって特定の標的を攻撃してきた。
ソニー・ピクチャーズの場合、金正恩氏を笑い者にした米映画「ザ・インタビュー」の公開阻止が攻撃のねらいだった。対照的にWannaCryの攻撃はとてつもなく無差別で、感染できるものはなんでも感染させた。
最後に、もしサイバー攻撃が単に身代金目当てのものだったなら、その点でも実に不首尾に終わっている。支払方法として指定された仮想通貨ビットコインのアカウントを分析すると、身代金として支払われた金額は約6万ドル(約680万円)にとどまっている。
20万台以上のコンピューターが感染したことを思うと、かなりひどい利益率だ。とはいえもちろん、身代金要求というのは目くらましで、まだ明らかになっていない別の政治的な目的があるのかもしれない。
ラザラス・グループは北朝鮮から別に指示を受けていない、単独犯だという可能性もある。ラザラス・グループは北朝鮮と何の関係もないという可能性さえ、あり得る。
答えよりも疑問の方が多い。そしてサイバー戦争において、事実は非常に手に入りにくいものなのだ。

ランサムウェアに注意!


《維新嵐》サイバー攻撃の攻撃元を特定する分析が着々と進行しています。マルウェアのコードを過去に使われたものと比較して「類似性」から特定していく、ということは、かなりの注意力と解析能力が必要でしょう。まさに暗号を解読するようなものです。このあたりは、SIGINT的な情報解析手段といえるでしょう。サイバー攻撃の攻撃元の特定は、確かに十分特定できているといえません。まさに「疑わしきは罰せよ。」の方針で見込みで「反撃」していますから、「冤罪」を生み出していることもあるかもしれません。コードの比較、解析による攻撃元の特定作業は、個人的にも注目しています。