2015年5月14日木曜日

通常兵器で核兵器を抑止することができるか?後篇

BMDシステムを考える

【アメリカ本土のBMD

 BMDシステム(弾道ミサイル防衛システム)は「多重防衛システム」。弾道ミサイルの飛翔状態に応じて三段階にわたり迎撃する。

1≫ ブースト段階~加速段階における迎撃手段

目標物体が大きいため防衛側に有利になる。自国への被害が皆無になる。

ABLairbone laser~弾道ミサイル発射の瞬間に、空中待機の航空機より高出力のレ-ザー砲を照射し撃ち落とす。(射程160km
KEIkinetic energy intercepter~発射直後の弾道ミサイルを超高速ミサイルによって撃ち落とす。

2≫ ミッドコース段階~中間段階における迎撃手段

 弾頭部分のみが宇宙空間を飛翔するため、目標が小さく速度も遅い。加速段階より高度な迎撃技術が必要になる。KEIによる攻撃は可能。

※イージスBMDシステム ~イージス艦のフェイズドアレイレーダーにより弾道ミサイルを捕捉し、艦艇発射のSM-3対空ミサイルにより撃ち落とす。(海上自衛隊に配備)

GMDシステム ~地上にあるミサイル基地のXバンドレーダーにより目標を探知、追尾し(推定探知距離5000km)、地下サイロ(アラスカ、カリフォルニア)より、GBIミサイルを発射して弾道ミサイルの弾頭を直撃して撃ち落とす。

MKV KEISM-3GBIに搭載する複数迎撃体。弾道ミサイルの弾頭が複数であったときを想定し対応するための兵器。
 その他開発中の迎撃システムとして、宇宙空間よりKEIを発射するシステム、宇宙空間よりレーザーを発射するシステムがある。

3≫ ターミナル段階(終局段階における迎撃手段)

 大気圏に再突入する直前、或いは再突入直後に目標に向かって超高速で落下する弾頭ミサイルを撃ち落とす。(目標命中まで30秒~1分程度)

THAAD ~移動式ミサイル発射管制装置(トレーラー)、超高度対空ミサイル。大型輸送機により展開が可能。
イージスBMDシステム SM-2対空ミサイルにより撃ち落とす。
PAC-3(海上自衛隊に配備)~射程20kmPAC-3MSEだと射程30km
ARROW(イスラエルと共同開発)

MEADS(ドイツ、イタリアと共同開発)~ミサイル部分にPAC-3MSEを採用。

※2010年のBMD予算仕分けによる現状は以下の通りである。
① THAADSM-3配備に7億円追加。
② イージス艦6隻のBMD能力付与改修に2億円追加。
③ アラスカでのGBI配備数を増加計画を白紙撤回。
④ ABL試作2号機の製作を中止。1号機のテストは研究開発段階として継続。
⑤ MKV計画、KEIは技術上の困難、予算超過を理由に中止。
⑥ MDA(ミサイル防衛局)予算を減額(差し引き14億$)

米国・ミサイル迎撃実験に成功~北の核開発で追加配備計画
2014.6.23 08:51 http://sankei.jp.msn.com/world/news/140623/amr14062308510002-n1.htm

 米国防総省は22日、北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗するためにアラスカ州に追加配備する方針の地上配備型迎撃ミサイル(GBI)に関し、迎撃実験を同日実施し成功したと発表した。迎撃実験は2008年の成功を最後に、失敗が続いていた。
 オバマ政権は昨年3月、北朝鮮の3度目の核実験強行などを受け、アラスカに17会計年度(16年10月~17年9月)までにGBI14基を追加配備する方針を発表。ただ今回も実験に失敗すれば配備計画見直しに追い込まれる可能性が出ていた。
 GBIは西部カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から発射。太平洋のマーシャル諸島クエゼリン環礁から発射された模擬ミサイルを、イージス艦ホッパーなどが捕捉した情報を基に太平洋上で迎撃した。

 アメリカBMDシステム

 【我が国本土のBMDシステム】

 アメリカより購入した弾道ミサイル防衛システム。多重防衛システム。平成16年~19年にかけて1000億~1800億円弱の予算がかけられている。
自動警戒管制組織(BADGEシステム)へのBMD対処機能付加のためのシステム設計を行う。

① 赤道上にあるアメリカの赤外線探知衛星が宇宙空間に現れた弾道ミサイルの赤外線を感知する。
  弾道ミサイル発射後23分以内にイージス艦のフェイズドアレイレーダーが弾道計算をする。ミサイルが落下してくる狭い「窓」を推定する。
  この「窓」に対して、イージス艦よりSM-3ミサイルを発射。宇宙空間で弾頭を破壊する。
  迎撃できなかった弾頭については、地上発射ミサイル(パトリオットPAC-3)で撃ち落とす。

BMDシステムへの批判と疑問〉

① 我が国への弾道ミサイル攻撃が中国、北朝鮮から行われたとなると発射から着弾まで56分しかない。アメリカ本土であれば30分程度であるから一発勝負に近く、迅速かつ精密な命中精度が必要になる
② 航空自衛隊基地にPAC-3を配備すると、自衛隊基地は攻撃の優先度が低いため抑止能力は0に等しい。
③ イージスBMDは実験段階での命中精度が低い。
④ 弾道ミサイルを一度に10発、20発と複数発射されたら撃ち落とせるのか?
⑤ 弾道ミサイル攻撃に対する報復攻撃力、日米で共有できる弾道ミサイル抑止力を構築強化すべきではないか?

BMDシステムについてのまとめ〉

 日米ともに様々な工夫が重ねられているミサイル防衛システムであるが、これらのあり方を考える時にまず前提としなければならないことは、「完全無欠なるディフェンスなど存在しない。」ということである。
 例えばサッカーにおいては、4人のDF2人の守備的MF6人で守備を行うとしても6人でエリア全体を隙なく守ることは不可能であり、必ずどこかにあきスペースができそこを起点に得点を狙われるものである。
 それでは得点をさせないためにいかに守備を行うか、という発想から工夫が生まれ、DF選手間のゾーンを分担してマークする選手の受け渡しで守備を行ったり、マンツーマンで守備したり、という味方同士の守備連携で敵に利益を与えないようにするということがある。
 軍事におけるミサイル防衛についても同じことであり、アメリカ本土にしろ我が国本土にしろ限られた予算、装備で全く隙なく国家の領土を守ることは至難の業なのである。
しかし周辺国の弾道ミサイルは、国家存続における無視できない直接脅威であり、主権と独立を守るために防衛手段を確立しなければならないから、国家の防衛戦略の中で既存の個々の装備を組み合わせてみたり、必要に応じて新しい正確で破壊能力の高い装備を開発しているのである。
 ただサッカーと違い守備しなければならないエリアが国家の場合格段に広いためどうしても全体エリアをカバーして国民生活全般の安全を確保することは難しい。そう考えるとおそらく守備する場所に優先順位をつけることがなされるであろうことは容易に想像できる。

 以前に北朝鮮が人工衛星の発射実験と称して弾道ミサイルを発射した時に出動したBMD統合任務部隊(司令部 空自航空総隊/横田基地 日米共同作戦センター)は航空自衛隊のPAC-3を東京へ速やかに移動配備した。有事に対する最優先重要ポイントとは、論じるまでもなく政治的機能が集中した首都東京が第一、あとは全国に散在する原子力発電所、原油など備蓄基地、沖縄の米軍基地ということになるであろう。

 BMDシステムへの批判と疑問であげたような問題はそのままBMDシステムへの技術的な課題ということがいえる。①でいわれように命中精度の問題は探知から発射までのシステムが機能するように訓練を日米共同で進めてきており、かなり命中精度自体も向上されているといわれる。②については、先にもふれたがPAC-3の配備は必ずしも空自基地とは限らない。まずは首都の防空が最優先であることを考えると優先順位が設定され日米相互に連携しながら配備展開が行われるものと考えられる。
 ④の問題についてはまさに創意工夫の応用の範囲であろう。単純に考えれば地上配備型のPAC-3やイージス艦の配備数を増やせばいいということになるが、アメリカでは検討されているが、イージス艦のMK41垂直発射システムを取り外して地上配備型として、SM-3を発射できるようにすればPAC-3の補完となるという考え方がある。アメリカよりGMDシステムを導入することも可能であろうが予算的なことを考えるとSM-3の地上配備型の方が現実的であろう。

 PAC-3の射程が改良型でも30kmであることから、復数か所を同時攻撃、一つの箇所に複数のミサイル攻撃を受けた時は、より高空で数に迎撃対応するためにPAC-3より射程のある迎撃システムを設定する必要がある。 
 予算的な面からBMDシステムはいくつかの工夫が考えられるものであるが、サッカーがいくらいいディフェンスをしても得点しなければ勝てないように、やはり⑤の問題にあるように報復攻撃力やミサイル策源地攻撃力を備えることも攻撃とはいえやはり自国を防衛する意味においては、周辺国からのミサイル防衛システムの範疇に入ることではないだろうか。
 汎用護衛艦に通常弾頭型の巡航ミサイルを配備すること、あまり知られていないが通常弾頭型の弾道ミサイルを新型潜水艦に装備してピンポイントで敵ミサイル基地や首都及び中核都市を狙うことはできないであろうか。我が国ではすぐに憲法9条との整合問題になるが、「国権の発動たる戦争」を禁止している現行憲法といえど国家防衛のための戦争まで否定しているわけではないというのが持論である。先制攻撃力保持へのの備えは報復的抑止力の担保という意味で専守防衛の範疇に入るものと考えられるがいかがであろうか。


≪参考文献≫
『米軍がみた自衛隊の実力』北村淳著 宝島社2009
『軍事研究』2010.1月号 68項「オバマ政権のMD事業仕分け」
『平和を守るための戦争概論』田中昭成著 ゴマブックス2008
『無防備列島』志方俊之著 海竜社2006


参考文献Ⅱ》
戦略ミサイル・迎撃ミサイルの意味

2003.12.20
元陸上自衛隊幕僚幹部 元米国デュピュイ戦略研究所東アジア代表 
松村劭

 政府は戦略ミサイル迎撃ミサイル(MD)の導入を決定した。敵のミサイルが飛んでいる中間軌道で射ち落とそうとしてイージス艦にSM3を搭載し、最終軌道で射ち落とそうと陸上自衛隊にPAC-3ミサイルを装備することになる。総額で八千億円もするというので、自衛隊の戦力が大幅に向上するように見えるかも知れない。ところがMDの軍事的意味は戦闘機や軍艦、戦車、大砲とまったく違ったものであることをよく認識しなければならない。

 戦争のための国家の国力は、「軍事力」と「非軍事力」に区分される。戦争では、軍事力をもって究極的に敵の軍事力(能力と意志)を破砕しないかぎり勝利することはできないのは軍事理論の常識である。
 ときには、軍事力で敵国の非軍事力を破砕すれば、敵国は戦意を失って降伏するだろうという戦史を学ばない机上の空論が横行することがある(敵国がほとんど軍事力を持たないで戦争を決意する例を戦史に見つけることは難しい。軍事力がない国は初めから戦う意志を失っている)
 航空機が開発されて「戦略爆撃理論」が横行した。戦略爆撃とは、軍事力をもって敵国の非軍事力を破壊して敵国の戦争継続力を減退させるか、政府・国民の継戦意志を奪うことを主張したのだ。しかし、第二次世界大戦とその後の戦争において戦略爆撃がその目的を達成したという戦例はない。すなわち、戦略爆撃で敵国が降伏を決意した例はない。しかし、猛烈なインフラの破壊と非戦闘員の殺傷を伴うので敵国国民に対する心理的恐怖を与えることは間違いない。その意味で、きわめて政治的な軍事力の行使(攻撃)である。


 また、戦略爆撃と称して敵軍を攻撃したとき、敵軍の機動力を抑制することができたが戦闘力を激減させた戦例はない。敵国は軍事力を失わないかぎり降伏を決意しないのだ。
 戦略ミサイルは、この戦略爆撃論の後継者である。こうして一国の軍事力は「戦争に勝利するための軍事力(通常戦力)」と「政治的脅迫のための軍事力(戦略打撃力)」の二つから構成されることになった。
 MDとは、この後者の攻撃または脅迫からわが国の非軍事力を防衛することを目的とするもので、戦争に勝つための兵器ではない。はっきり言えば、陸海空自衛隊とは別の軍事的防衛力である。


 敵戦略ミサイルによる非軍事力の防衛には、二つの方法がある。第一は、「攻撃は最大の防禦」の原則にもとづいて敵戦略ミサイルを発射前に破壊する方法である。この方法がもっとも経済的で確実性が高い。すなわち、軍事情報力を強化し、爆撃や砲撃、着上陸攻撃で根こそぎに破壊することである。
 第二の方法がMDによる「防禦」である。この方法は戦闘時間が北朝鮮から攻撃される場合には約15分しかない。だから迅速に対応するためと、戦闘も目的の単一性のために「戦略ミサイル防衛軍(仮称)」を陸海空三軍から独立させることが必要である。
 戦略ミサイル防衛軍はミサイルの発射と飛翔を把握する特別の情報部隊を持つことが必要になる。それでも迎撃ミサイルが飛翔中の敵の戦略ミサイルに命中する公算は必ずしも高くない。国民は被害を覚悟しなければならない。
 だから敵ミサイルの発射準備を発見すれば、MDの保有の如何にかかわらず、発射前に航空攻撃で破壊しなければならない。


 このようにMDは戦争の勝利に寄与する兵器ではないことを肝に銘じて認識しておくことが大切である。しかし、それでもMDを保有すれば潜在敵国の戦略ミサイルによる政治的脅迫を無にする効果は大きい。それは当面の北朝鮮の戦略ミサイルのみならず、中国の戦略ミサイルによる心理的な威圧を無にする大きい利益がある。



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