2015年8月30日日曜日

安全保障関連法案の本質とその評価 ~不思議な安倍内閣の支持率低下~

安保法制を支持するウォールストリート・ジャーナル
岡崎研究所

20150827日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5274


 2015年717日付ウォールストリート・ジャーナル紙社説は、日本の安保関連法案につき、集団的自衛権の行使は戦後日本が築き挙げてきたことを汚すものではなく、むしろ今まで以上に民主主義とルールに基づく国際秩序の維持に責任を持つことになる、と述べています。
すなわち、安倍総理は716日、集団的自衛への参加を認める法案の国会通過に一歩近づいた。総理は、自国または同盟国が脅かされた際に、日本が同盟国とともに戦う能力を持つようにしようとしている。
 昨年7月、憲法の新解釈を閣議決定し、4月には日米ガイドラインが発表された。716日、法案は衆議院を通過し、論戦の場は参議院に移るが、物事は簡単には進んでいない。国民の多くが法案に反対しており、朝日新聞の世論調査では、総理の支持率は39%にまで落ち込み、不支持が42%となっている。
 なぜ日本の世論はこれほど動じやすいのだろうか。ジェラルド・カーティスは、憲法をめぐる議論が人々の不安をかき立てたからだという。法案が自衛隊に何を認め何を認めないのか、総理が説明するのを拒んだために状況は悪化している。反対派は法案を「戦争法案」と呼んでいる。
 だが、安倍総理が多くを語らないのは外交上ある程度仕方のないことである。米国が軍事予算の制約を受ける中で、軍事的に台頭する中国の行動はより攻撃的になっている。だからこそ、日本はフィリピンや韓国といった米国の同盟国とこれまで以上に緊密に協力する必要があるが、これらを事細かに説明するのは「野暮」である。総理が唯一集団的自衛権行使の例として説明しているのは、ペルシャ湾が封鎖された場合における米軍との共同作戦というシナリオである。
 第二次大戦時の侵略につき、安倍総理はごまかそうとしたことがあり、反対派に、総理を民族主義者と描写させやすくしている。中国はこれを利用している。
 しかし、安全保障における日本の役割を拡大することには、超党派的コンセンサスができてきている。2012年以前の民主党政権も、菅・野田元総理の下、同様の政策を推進してきた。

これを踏まえれば、法案を通した後の安倍総理の支持率は上がってしかるべきである。集団的自衛権の行使によって、戦後日本が地域の平和や安定の推進に果たしてきた模範的歴史が汚されることはない。むしろ、日本が民主主義とルールに基づく国際秩序を守るための責任を今まで以上に背負うことを可能にする、と述べています。
出典:‘Japans Peaceful Self-Defense’(Wall Street Journal, July 17, 2015
http://www.wsj.com/articles/japans-peaceful-self-defense-1437090466
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 この社説は安保法制法案に対する日本の世論の反対に若干驚きを表明するとともに、集団的自衛権を認めるなどの今回の安保法制法案を強く支持し、民主党も同じ方向の政策を野田政権などの時代にとっていたから、法案成立後には安倍総理の支持は回復するだろうと予測しています。大筋で的を射ています。
 今回の安保法制への反対論は、まったく反対論の体をなしていません。「青年を戦場に送るな」などと言っていますが、徴兵制ではなく志願制の自衛隊なのですから行きたくなければ志願しなければよいだけの話です。それに、今は戦場がこちらに来る時代で、尖閣に侵攻されれば日本領土が戦場になります。今回の法制を認めれば徴兵制になるなど、とんでもないことで人々を脅す人もいますが、牽強付会も甚だしいと言わざるを得ません。そして、「戦争法案」などと扇情的なレッテル張りをしています。
 60年安保の時もPKO法案の時も大騒ぎをしましたが、今は多くの人に受け入れられています。今回の法案が通った後、戦争にもならず、徴兵制にもならず、いまの反対論が机上の空論であったことが明らかになることはほぼ確実です。
 一時的な支持率低迷で方針を変える必要はまったくありません。長い目で見て日本国民の賢明さを信頼するのが一番でしょう。それに今は自民党に代わり政権を担える政党はありません。
 なお、今度の法制は集団的自衛権の行使も限定的すぎて不十分であり、旧来の内閣法制局集団的自衛権についての誤った憲法解釈をベースにしており、安保政策の大転換というのには程遠いと思います。
※いわゆる我が国の安全保障政策を縛ってきた「我が国は、集団的自衛権を独立国として保持するが、行使はできない。」という官僚の事なかれ主義の象徴のような憲法解釈ですね。これは今回の安保関連法案で打破されているはずではないんでしょうか?

安保法制は海外軍事行動の白紙手形ではない
岡崎研究所
20150828日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5275

 2015年721日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、米シンクタンクAEIのオースリン日本部長が、安保法制を巡る情勢について観察し、安倍総理の安保法制の整備の努力を評価しています。
 すなわち、日本の海外における軍事的役割を拡大する法案成立に至る転換点を越えたところで、安倍総理の支持率は低下している。他方で、総理の東アジアの首脳との関係は突然改善するに至った。これは総理がより行動的な日本が日本そして世界のためになるという確信を微動もさせなかったことによる。
 先週、集団的自衛権の行使を認めるという憲法解釈の変更に肉付けをする法案が衆議院を通過した。法案が最終的に成立すれば自衛隊は一定の条件の下で武力攻撃を受ける第三国を支援することを許されることとなる。北朝鮮のミサイル攻撃を受ける米国艦船は海上自衛隊の迎撃ミサイルによって守られ得ることになる。しかし、日本の海外での武力行使に対する多くの制限はそのまま残ることになり、安保法制は海外での軍事行動に対する白紙手形からは程遠い。
 安保法制は限定的な性格のものであるにかかわらず、安倍総理の支持率は39%に低下し過半数は不支持となった。2万人以上の安保法制反対のデモが東京で発生したが、これは1960年代以降見られなかった規模である。
 国内で苦労を強いられている一方で、安倍総理は中国と韓国にとって好ましい人物に突如変貌した。習近平と朴槿惠は過去2年、安倍総理を締め出そうと努めてきたが、日中首脳会談は9月にも実現しそうであるし、日韓両国は国交回復50周年を機にこの秋の首脳会談を模索しつつある。この変化は総理が進めて来たインド、東南アジア諸国をはじめアジアとの関係強化および訪米の成功によるものである。
 以上の二つの事態の不思議な逆転をつなぐ共通の糸は日本の安保政策を近代化するという安倍総理の固い決意である。安保法制に対する国内の反対にかかわらず、国民の大多数が日本の安全保障に対する脅威に不安を抱いている。北朝鮮、中国がそれである。或る世論調査では国民の僅か7%が中国は信頼出来ると答えている。別の世論調査では85%が日中戦争の可能性を怖れている。

安倍総理は安保法制を成立させるであろう。その時に至れば、国民の殆どは自衛隊がアジアを席捲すべく出動することはないことを知るであろう。そうではなく、日本は米国およびその他の国々により信頼され、従って影響力のあるパートナーとなるであろう。安倍総理は彼の運勢は国内でも海外でも引き続き上向きであると信じている、と述べています。
出 典:Michael AuslinOvercoming Japans Security Skeptics at Home’(Wall Street Journal, July 21, 2015
http://www.wsj.com/articles/overcoming-japans-security-skeptics-at-home-1437497084
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 安倍総理の安保法制の整備の努力を評価する論評です。敢えて難をいえば、安保法制の整備の努力と中韓両国との関係改善への動きとを結び付けて論じていますが、些か牽強付会の趣があるように思えます。
 安保法制について書かれていることは妥当だと思います。特に、末尾の指摘、即ちいずれ安保法制が成立すれば、国民は法案が「戦争法案」でないことを悟るであろうという観測はそうであろうと思いますし、そのように期待したいと思います。
 野党は、国民の理解が進んでいないとしきりにいいますが、理解しようとしない国民は理解しません。理解するためには、平和主義は日本の専売特許という思い込みを脱却すること、平和と平和憲法を奉じて呪文のように唱えれば平和は守られるという幻想から目覚めること、そして安保法制は抑止と国際協力のための道具立てを整備することだとの認識を持つこと、が欠かせません。野党は、国民の理解が進んでいないことを理由に成立阻止に動いていますが、国民のことをいう前に、国民の代表たる政治家が必要なことは決めるのが政治家の責任というものでしょう。
 なお、集団的自衛権の行使については余りに厳格な発動のための要件が課せられているために、画餅に帰さないか心配です。

※そもそも「自衛権の行使」に集団的、個別的の区別はないようにみえます。日本国憲法9条は、よく書けてるかと思いますよ。国家の戦争をする権利を「交戦権」として認めた上で、交戦権が認めない戦争がありますよ、ということが9条でいわんとしていること。パリ不戦条約の精神を受け継ぐ憲法なら「自衛権の行使」「自衛戦争」を認めているはずですし、この条文が戦力を否定してまで認めない戦争とは、「侵略戦争」で間違いないでしょうね。ただ世界的に侵略戦争の定義そのものがはっきりしないということはありますが・・・。

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