2015年10月31日土曜日

「大国」の狭間にある国家の防衛のあり方

カナダ国民の選択は「米国の軍事的属国にはならない!」~米国主導のIS爆撃からカナダ軍が離脱
空中給油中のカナダ軍CC-150Tポラリス。カナダ軍はなぜIS爆撃ミッションから離脱することになったのか

20151019日、カナダ総選挙が実施され、野党第二党の地位に甘んじていたカナダ自由党(中道左派政党)が勝利した。これにより、10年間政権の座にあったカナダ保守党(中道右派政党)ハーパー政権に終止符が打たれた。
 若き党首ジャスティン・トルドーが率いるカナダ自由党はなぜ空前の大勝利を収められたのか。その最大の理由の1つが、「アメリカ主導によるISに対する爆撃からカナダ軍を離脱させる」というカナダ自由党の主張であった。
祝電をかけたオバマ大統領にトルドー次期首相は・・・
歴史的大勝を収め、次期首相となるトルドー党首にオバマ大統領が電話で祝福を述べた際、トルドー氏は「カナダ自由党の選挙公約通り、カナダ軍はISに対する爆撃ミッションから離脱する」とオバマ大統領に伝えた。
 オバマ大統領は、カナダ国民の意思決定に対して理解の意を表明した。ただしカナダでの選挙期間中、アメリカ側は、TPP合意とIS爆撃に対するカナダ政府の立場が選挙によって大幅に変更されてしまうことに対して、強い懸念を表明していた。
もっともアメリカ国防当局によると、カナダ空軍による爆撃がストップしたとしても戦局に大きな影響は出ないとしている。しかしながら、ISと戦闘を交えているクルド武装勢力などからは、カナダ軍が戦線から離脱することに対して失望の声が上がっている。
 まして、ロシア軍による爆撃やミサイル攻撃を含む本格的軍事介入が開始された現在、主導権を維持したいアメリカにとって手痛い打撃になることは必至である。
なぜIS爆撃を中止する選択をしたのか
カナダでは国民の過半数が、カナダ軍によるISに対する爆撃からの離脱に賛成した。その表向きの理由は、アメリカ主導の対IS戦闘ミッションに参加するために莫大な費用がかかってしまっているということである。
 それと関連して、アメリカ主導のIS爆撃ミッションの効果に大きな疑問も呈された。すでに1年近くも“IS主要軍事拠点”に対する爆撃を継続してきているにもかかわらず、ISの勢力は依然として健在であると。爆撃により本当にIS中枢に深刻な打撃を与えているのか? ということである。
(カナダ軍は201494日、アメリカ主導のIS軍事作戦に参加して以来、20151021日までに、CF-18ホーネット戦闘機による爆撃のための出撃が1055回、CC-150Tポラリス空中給油機による出動が287回。連合軍機に対して1700万ポンド以上の燃料を供給し、CP-140オーロラ哨戒機による偵察出動は305回に上っている。カナダ軍の軍事作戦は「IMPACT作戦」と呼ばれている。)

 アメリカにとっては幸いなことに、トルドー政権になってもTPPに関しては大幅な変更は生じないようである。しかし、アメリカ主導のIS爆撃からカナダが離脱することは大きな問題である。1カ国でも“仲間”の数が多いことを望んでいるアメリカにとっては好ましからぬ選挙結果となってしまったようだ。
(ちなみに、イラクならびにシリア領内のIS爆撃を実施しているのは、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、ヨルダン、モロッコ、イギリスの7カ国。イラク領内だけのミッションに参加しているのはベルギー、デンマーク、オランダ。シリア領内だけ参加がバーレーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコである。)
カナダ軍CF-18ホーネット


 また、イスラム過激派に対する戦闘への参加にともなって、ハーパー政権が「反テロ法」(Bill C-51)という様々な法令を修正し、カナダ安全情報局(CSIS)の権限を強化したことに対する反感も大きかった。
 要するに、カナダ保守党ハーパー政権による「アメリカに追随した強権的反テロ政策」に対してカナダ国民がNOを突きつけた結果が、カナダ自由党の大勝であった。
 加えて、トルドー次期首相が公約している対IS姿勢が、カナダの伝統的な対外政策への回帰につながるとの期待も、カナダ国民の大きな支持を勝ち取った要因の1つと考えられる。
軍事的属国に陥りたくないカナダ
カナダは、経済的にも軍事的にもカナダを圧倒するアメリカと陸上国境線で接している。だからこそカナダには、「日本のようにアメリカ“ベッタリ”の外交政策をとっていると、アメリカの軍事的属国に陥ってしまう」という危機意識が伝統的に存在している。
 そのようなカナダの伝統的な外交政策の1つに、国連主導のPKO活動など戦闘自体を目的としない軍事作戦に積極的にカナダ軍を派遣する、というものがある。
 もちろんカナダはNATO加盟国であるので、NATO条約上の義務を果たすための戦闘活動にはカナダ軍を参加させてきた。ただし、あくまでカナダ軍の海外展開は、非戦闘的活動が主体であるというのが伝統的な立場であった(ただしカナダ軍の非戦闘的活動は、日本で用いられているおかしな“非戦闘”とは似て非なる国際標準の意味での活動である)。


しかし、アメリカ主導の世界的対テロ戦争が勃発すると、NATO条約上の集団的自衛権(義務)によって、アフガニスタンでの激戦地区への地上部隊の投入をはじめとして、戦闘ミッションへの参加の比重が増大してきた。
 そしてハーパー政権下において、NATOや国連の要請ではないアメリカ主導の対IS戦争への参加(IMPACT作戦)に踏み切ったのである。
 このような、アメリカに引きずられた形での“アメリカ的”な国際紛争への軍事的参加の継続によって、“カナダ的”な軍事的国際貢献であるPKO活動などに対する参加の割合は劇的に低下してしまった。
 現在、カナダ軍が派遣しているPKO部隊の規模は、世界で66番目という小規模な人数レベルまで落ち込んでいる。予算規模も軍隊の規模も小さなカナダ軍にとって、“アメリカ的”戦闘任務と“カナダ的”PKO任務を共にこなすのは不可能である以上、これは当然の帰結と言える。
 保守党政権に「NO」を突き付け、「アメリカ主導のIS爆撃ミッションからの離脱」を選択した多くのカナダ国民は、カナダの外交姿勢がアメリカ追随的なものから脱却して、かつての“カナダ的”なものへと回帰することを期待している。
 ジャスティン・トルドー氏の父である名宰相ピエール・トルドーは、アメリカとは一線を画した外交路線を推進した。若い指導者ジャスティン・トルドーも国民の期待に答えて“カナダ的”外交安全保障路線を実現できるかどうか、政策と指導力が問われることになる。
アメリカ追随だけが日米同盟の強化と考えるのは危険
 カナダとアメリカは日本以上に緊密な同盟国である。しかし、カナダ国民は決してアメリカ“ベッタリ”の安全保障政策を良しとはしなかった。


一方、昨今の日本の安全保障政策は、アメリカ軍戦略家たちからも「これでも立派な軍事組織を擁している独立国か?」と驚きの声が漏れ聞こえてくるほどアメリカ“ベッタリ”の度合いが強まっている。
 カナダとは安全保障環境が全く違う日本では、アメリカ“ベッタリ”の安全保障政策から脱去するのは甚だ困難な状況に陥っている。それは、憲法9条の存在を隠れ蓑として、経済的にも戦略的にも血の滲むような努力が必要となる自主防衛努力を欠いてきた日本政府と日本国民の多数意見であったのだから致し方ないのかもしれない。
 しかし、自国自身の軍事力が相対的に弱体化しているアメリカは「使えるものは何でも使う」方針に転換している。そのため、アメリカ“ベッタリ”の日本が積極的に自衛隊を海外に展開させる方針に転換したこの好機を見逃す道理がない。
 あの手この手で自衛隊を国際舞台に引きずり込んでしまえば、カナダ軍が爆撃ミッションから離脱するような事態が世界各地で発生しようがさしたる戦力低下につながらないと期待して日本に外圧をかけてくることは必至である。
 アメリカ追随だけが日米同盟の強化であると考えるのは、あまりに安易、稚拙であり、危険ですらある。
 今こそ日本は、カナダが隣国アメリカの軍事的従属国にならないようにと心している姿を少しでも見習って、アメリカの軍事的従属国の地位から離脱するために、自主防衛戦略の構築へと舵を切るべきである。

《維新嵐》
 北村氏の論文のご主旨はよく理解できるが、正直感じることは、我が国とカナダでは、地政学的な条件が違うのではないか、ということである。
 基本的に大国と大国に挟まれた、すなわち大国同士の国防圏の狭間にある国家というものは、歴史的にみて一方の大国と同盟関係か従属関係になることが多い。
 我が国の例からいえば、戦国時代の大内家と尼子家の狭間にあった毛利家や今川家と織田家の間にあった徳川家があげられるだろう。
 毛利家は、伝統的に大内家と従属関係にあったし、徳川家(松平家)は、二転三転したが最終的には今川家と従属関係になっている。
 経済力、軍事力など総合的な国力が違いすぎる点や反目する大国勢力の狭間で生き抜くための非常措置もいえなくもないが、言い換えれば一方の大国に独立を維持するために、もう一方の大国を政治的に利用しているともいえる。
 我が国は第二次大戦では、国策を誤って軍事経済大国からその国力をおとしめてしまった。そのため戦争当事国であるアメリカ軍を政治的に受け入れることで、天皇を象徴とする君主制国家の形を維持する方向で独立を担保したのである。
 北には、ソビエト連邦という強大な政治的思想の異なる勢力が存在したが、民主主義自由主義的価値観が近しいアメリカの支配を受け入れ、独立後も軍事同盟関係になることで独自の国防圏、独立を維持してきた。
 これはまさに先の毛利家や徳川家と同じことであろう。
歴史的に思想的に近しい隣国と同盟し、国家を守ることは、独立国家としての地位を守るための「知恵」と「工夫」であって犯罪ではない。ただ国力が違いすぎるために「従属関係」になっているだけである。
 そしてそのような戦略的な従属関係が、国防に資することになるのである。
 現在の我が国は、国際的に誰もが認める、国力の高い先進国となった。だから日米関係も見直して、対等な同盟国として関係を再構築し、在日米軍には撤退していただけるのが理想的なのであるが、国際的な手枷足枷をかけられており、国防のために核兵器の保有ができない、独自に戦闘機や爆撃機の開発生産ができないために、占領統治時代の支配者であるアメリカから装備品を購入し、在日米軍の駐留により、自国の防衛抑止力のたらないところを補っているのである。
 だから在日米軍については、北東アジアでのアメリカの既得権を守るという任務が、我が国の守る国益と重複することをうまく利用して、またアメリカが国策を変更してアジアから逃げないように「思いやり予算」という駐留経費を負担してまで、「人質」として担保されているという見方もできるであろう。
 対してカナダは、隣国をアメリカという超大国に挟まれているものの国防上、ロシアの脅威の緩衝地帯になってもらっている形になっている。アメリカにとってもカナダは北の国防上、不可欠な存在である。
 総合国力はアメリカの方が大きいから、アメリカに従属した形になっているが、安全保障上アメリカに対して極端に卑屈になることもない。NOはアメリカに対していえる国だと考えられる。
 アメリカ、ロシア、共産中国という超大国のはざまにあって軍事、政治の微妙バランスをとらなければ国際的な秩序を保てず、北朝鮮からも工作員をおくりまれて邦人を拉致されてしまう我が国とは、まるで状況が違う。
 何でも自前の防衛力で守れるわけでもなければ、今や同盟国、関係国との協力関係を構築できなければ主権は守れないのである。
 保守思想の方に申し上げたいことは、戦後アメリカに言論弾圧されたり、思想統制されたり、憲法までアメリカにおしつけられた、といいますが、占領支配されながらも非力な軍事力になってしまった日本国の政治家が、いかにアメリカの軍事力を活用することで国防に利用してきたか、今一度お考えいただければ、と思います。
 


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