2015年11月5日木曜日

南シナ海での「自由航行の権利」を求めて ~アメリカのFON作戦の効果と展望~

遅すぎた米国「FON作戦」がもたらした副作用

中国軍艦が「航行自由原則」を振りかざして日本領海を通航する?

2015.11.5(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45163
FON作戦を実施した米海軍P8哨戒機

アメリカ海軍駆逐艦が南沙諸島のスービ礁沿岸12カイリ内水域を航行した。スービ礁は中国が人工島を建設中の岩礁である。
駆逐艦には哨戒機も同行し、上空からの偵察監視活動も実施した。本コラムで数回に渡り紹介した「FON作戦」(「航行自由原則維持のための作戦」、以下「FONOP」)がようやく実施されたのである。
(参照)
「人工島に軍用滑走路出現、南シナ海が中国の手中に」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44833
「ホワイトハウスが米海軍に圧力『中国を刺激するな』」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44877
「日本がじれったい米国~南シナ海の中国人工島がどれだけ日本を脅かすか分かっているのか?」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45040

FON作戦を実施した米海軍「ラッセン」


実態は“穏やか”、誤解されがちなFONOP
あくまでFONOPの目的は、海洋での航行自由原則の侵害に警告を発するデモンストレーションである。中国による南沙諸島人工島の領有権そのものを否定するための軍事的威嚇が目的ではない。
 遅ればせながらとはいえ、アメリカ政府がFONOPの実施にゴーサインを出したのは、「航海自由の原則はいかなる海域においても維持する」というアメリカの国是がいまだ健在であることを改めて目に見える形で示したという点で評価できる。
 しかしながら、このようなFONOPの国際海洋法的意味合いは、「領有権紛争への圧力」といった方向へと誤解されたり、曲解されたりしてしまっているのが実情である。
 実際に、中国当局は「アメリカ海軍の今回の活動は中国領海内での“軍事的威嚇”であり、国際海洋法に違反する行為である」と非難している。これは、明らかにアメリカ海軍によるFONOPを「中国の領有権紛争に対する介入」へとねじ曲げるための反応である。
米海軍の防御能力を凌駕してしまった中国の対艦ミサイル
もっとも、少なくとも第一列島線内海域において極めて強力な海洋戦力を手にしている人民解放軍にとって、アメリカ軍が今回実施したFONOP程度では、現実的な軍事的脅威にはならない。それどころか、軍艦や航空機を繰り出してFONOPを実施するアメリカ海軍側が今回以上の“挑発的”なFONOPを実施するには、人民解放軍からの対艦対空攻撃に怯えざるを得ない状況になってしまっている。
 すなわち、オバマ政権下での国防予算の大幅削減に伴って、アメリカ軍の戦力は過去数年間にわたって低下し続けてきている。もちろん量的縮小を質的向上で挽回しようという努力は行われているものの、東アジア海域における海軍戦力の停滞は否定しようがない事実である。


それに反比例して人民解放軍の海洋戦力(艦艇、航空機、そして何よりも長射程ミサイル)が強化され続けているのは、これもまた否定しようがない。
 このため、アメリカ海軍関係戦略家たちは「我々が停滞している間に、人民解放軍の持続可能なOPTEMPO(作戦進行速度)は米軍を上回ってしまっている。いくつかの兵器システム、とりわけ対艦ミサイルに関しては我々の防御能力を凌駕してしまった」と嘆いている。
 当事者であるアメリカ海軍関係者たちは、このような事態に立ち至ってしまったことに改めて“軍事状況の変化”を痛感しているというのが実情である。
FONOPのタイミングがあまりにも遅すぎた
 アメリカ太平洋艦隊参謀を務めていた退役将校は、かねてよりFONOPを主張していた。しかし、永らくホワイトハウスがそれを許さなかったことに対して、次のように怒りを隠さない。
「この程度の単純なFONOPを今頃実施するくらいならば、我々がすでに数年前から主張していたように、南沙諸島での定期的なFONOPを継続していれば良かったのだ。そうすれば、中国側も大騒ぎをせずに我々の警鐘を受け止めることになったであろう。
 しかし、人工島がほぼ完成してしまい、米連邦議会でFONOPを実施すべきであることが取り上げられ、さらにそれから数カ月経ってようやくゴーサインが出るという事態は、まさに戦略的大失敗の一言に尽きる。
 ホワイトハウスの優柔不断な態度によって、FONOPが実施されるのか否かに関して内外のメディアなどが注目してしまったために、中国側も“大仰に”反応せざるを得なくなったのだ」


もちろん米海軍関係者たちは、「FONOPの実施そのものはアメリカが公海自由原則の守護者であることを表明するためには必要である」という点に関しては異論はない。しかし、上記のようにタイミングがあまりにも遅すぎた点を批判しているのである。
FONOPを口実に地対艦ミサイルを設置か
今回のFONOPに対して、中国当局は「領域紛争への介入であるアメリカ軍艦による中国領海12カイリ水域内航行には断固抗議する」との態度を表明した。それだけでなく人民解放軍は、南シナ海に対する前進拠点である永興島にJ-11戦闘機を展開させ“アメリカの軍事的威嚇”に備える姿勢を示している。

人民解放軍が永興島に展開させたJ-11戦闘機

ここまでは、今回のFONOPが予期していた通りである。しかし中国側の反応は、おそらくそれだけでは済まない。
「中国共産党は“FONOPによって中国の主権が著しく脅迫されている”と言い立てて、“中国の領土”である南沙諸島をアメリカ軍の侵攻から防御することを口実として、7カ所の人工島に地対艦ミサイルと地対空ミサイルを設置するであろう」と予測する海軍関係者も少なくない。
 つまり、タイミングが遅かったFONOPのおかげで、人民解放軍に対して“正々堂々”と各種ミサイルシステムを人工島に配備させる“立派な口実”をアメリカ自身が与えてしまったのである。そして、人民解放軍が持ち込むであろう地対艦ミサイルと地対空ミサイルの中には、アメリカ海軍にとって防御困難な極めてやっかいな代物が少なくない。
 このように「純軍事的には、中途半端なFONOPと引き換えに、人工島の要塞化を後押ししてしまったかもしれない」のである。
FONOPにはFONOP
今回のアメリカ海軍のFONOPは、中国が建設している人工島、スービ礁、の沿岸12カイリ以内の水域を駆逐艦ラッセンが単に航行して通過しただけである。追尾していた2隻の中国軍艦に対して(中国海軍が時折行うように)レーダーを照射したり砲口を向けたりしたわけでもなければ、12カイリ内水域で各種調査活動を行ったわけではない。


 軍艦を派遣した側の真意がいかなるものであれ、軍艦が沿岸12カイリ内水域を「ただ通過」しただけならば、それがある国の領海内であろうがなかろうが、何ら国際海洋法に抵触する行為とは見なされない(もっとも、どこの国の領海とも見なされない沿岸12カイリというのは南極沿岸だけである)。
 したがって、「中国が今回のFONOPを逆手にとって、アメリカや同盟国に対する“中国版FONOP”を実施するかもしれない」という警戒の声も上がっている。
 すなわち、次のような可能性があるというのだ。
「数週間前に中国海軍小艦隊がアリューシャン沖12カイリ内水域を航行した(本コラム「アラスカ沖のアメリカ領海を中国艦隊がパレード」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44738)ように、中国艦艇がグアム沖やハワイ沖で『無害通航』を実施し、公海自由原則の尊重を逆アピールするに違いない」
「それだけではない。調子に乗って、人民解放軍軍艦が尖閣諸島(中国側によれば中国領域だが)や沖縄、それに東京湾口沖12カイリ内水域を『無害通航』しないとも限らない」

 アメリカのFONOPに支持を表明した日本としても、中国海軍艦艇による日本領海内での“中国版FONOP”に備えなければなるまい。

《維新嵐》アメリカのFON作戦の効果については、以下の記事にても確認できます。ASEAN自体が共産中国との経済的つながりが強いですから、事は簡単にアメリカ主導では進まないということか?

【FON作戦によるアメリカの外交的要求】
米国防長官、南シナ海埋め立て永続的中止を要求
2015114 1346http://news.livedoor.com/article/detail/10789277/
【クアラルンプール=今井隆、瀋陽=蒔田一彦】米国防総省は4日、カーター米国防長官と中国の常万全チャンワンチュエン国防相がクアラルンプール近郊で3日に行った会談の内容を発表した。
 カーター氏は南シナ海を巡る全ての紛争当事者に対し「埋め立てと軍事化への行動の永続的中止」を厳しく要求した。
 米軍のイージス駆逐艦が10月27日に南シナ海・スプラトリー(南沙)諸島に中国が建設した人工島の12カイリ内で巡視活動を行って以降、米中の国防相会談は初めてで、約40分間行われた。
 発表によると、カーター氏は領有権争いではどちらか一方の肩入れをしないことを強調した。その上で常氏に対し、習近平(シージンピン)国家主席が9月の訪米時に述べた
「国際法で各国が享受している航行と飛行の自由を尊重、支持する」「(人工島建設は)軍事化を意図していない」
との約束を順守するよう求めた。カーター氏はまた、
「米国は航行の自由の原則を引き続き守り、国際法が認めるあらゆる地域で飛行、航行、活動する」と述べ、南シナ海で巡視活動を続ける決意を示した。

艦船派遣「また行う。本気だ」 米国防長官、国際秩序へ決意強調
2015.11.8 08:45更新 http://www.sankei.com/world/news/151108/wor1511080016-n1.html
カーター米国防長官は201511月7日、南シナ海で中国が「領海」と主張する人工島近くにイージス駆逐艦を派遣したことに関し「また行う。本気だ」と述べ、「航行の自由」を示す作戦を今後も実施する考えを強調した。「(国際法の)原則に基づいた国際秩序の強化」のため、米軍は革新を続けなければならないとも語った。
 西部カリフォルニア州シミバレーで開かれた国防当局者らの会合で演説したカーター氏は「米国は国際法が許すあらゆる場所で飛行、航行、活動を続ける」とあらためて表明。演説後の質疑でも「航行の自由」があることを示すために「行動しなければならない」と強調した。
 カーター氏は中国側と対話を続ける考えを表明しており、来年に中国を訪問する予定。気候変動問題や海賊対策、人道支援などの分野で協力拡大を目指す考えだ。

 アメリカ海軍の2個空母打撃群が作戦中~南シナ海情勢を睨み (イージス駆逐艦ラッセン以外の動き)

配信日:2015/11/04 12:25
http://flyteam.jp/airline/united-states-navy/news/article/56450
2015年1029日、南シナ海で撮影されたUSSセオドア・ルーズベルト


アメリカ海軍太平洋艦隊は、現在2個の空母打撃群(CSG)が第7艦隊担当海域(AOR)で作戦航海中と、20151029日に発表しました。南シナ海への駆逐艦派遣で、緊張感が高まるアジア・太平洋地域での軍事プレゼンスを誇示する狙いがあると思われます。

ひとつは空母USSセオドア・ルーズベルト(CVN-71)を中心とするCSGで、イージス巡洋艦USSノルマンディ(CG-60)とともに、1028日までシンガポールを訪問して、新しい母港となるカリフォルニア州サンディエゴへ航海しています。ルーズベルトCSGはインド洋で、インド海軍、海上自衛隊と共同演習を実施しています。

もうひとつは横須賀を母港とするUSSロナルド・レーガン(CVN-76)を中心とするCSGで、第5空母航空団(CVW-5)とイージス巡洋艦USSチャンセラーズビル(CG-62)、イージス駆逐艦USSカーチス・ウィルバー(DDG-54)USSフィッツジェラルド(DDG-62)USSマスティン(DDG-89)とともに韓国海軍との共同演習を実施し、1030日から韓国の釜山を訪問しています。

レーガンCSG司令官のジョン・アレキサンダー少将は「我々の展開は同盟国との共同演習を通じて文化や技術、知識を共有するだけでなく、航行の自由と海洋の合法使用を守るために貢献している」と話しています。

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CSGにはF/A-18戦闘攻撃機だけでも約100機あり、早期警戒機や電子攻撃機、ヘリコプターなども含めると合計約140機を搭載しています。中小国の空軍力をはるかに上回るエアパワーです。

空母セオドア・ルーズベルト搭載のCVW-1所属飛行隊 / 搭載機
・第11戦闘攻撃飛行隊(VFA-11)レッドリッパーズ F/A-18F
・第211戦闘攻撃飛行隊(VFA-211)ファイティング・チェックメイツ F/A-18F
・第136戦闘攻撃飛行隊(VFA-136)ナイトホークス F/A-18E
・第251海兵戦闘攻撃飛行隊(VMFA-251)サンダーボルツ F/A-18C
・第137電子攻撃飛行隊(VAQ-137)ルークス EA-18G
・第125早期警戒飛行隊(VAW-125)タイガーテイルズ E-2D
・第11対潜ヘリ隊(HS-11)ドラゴンスレイヤーズ SH-60F/HH-60H
・第40艦隊補給飛行隊(VRC-40)ロウハイズ C-2A

ワシントン搭載のCVW-5所属飛行隊/ 搭載機
・第102戦闘攻撃飛行隊(VFA-102)ダイヤモンドバックス F/A-18F
・第27戦闘攻撃飛行隊(VFA-27)ロイヤルメイセス F/A-18E
・第115戦闘攻撃飛行隊(VFA-115)イーグルス F/A-18E
・第195戦闘攻撃飛行隊(VFA-195)ダムバスターズ F/A-18E
・第141電子攻撃飛行隊(VAQ-141)シャドウホークス EA-18G
・第115早期警戒飛行隊(VAW-115)リバティーベルズ E-2Cホークアイ2000
・第30艦隊支援飛行隊(VRC-30)プロバイダーズ 第5分遣隊 C-2
・第12海上戦闘ヘリコプター飛行隊(HSC-12)ゴールデンファルコンズ MH-60S
・第77海上攻撃ヘリコプター飛行隊(HSM-77)セイバーホークス MH-60R

中国の攻撃型潜水艦、10月下旬日本近海で米空母ロナルド・レーガンに接近 
2015.11.4 00:44更新 http://www.sankei.com/world/news/151104/wor1511040004-n1.html
米ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」は3日、中国の攻撃型潜水艦が10月下旬、日本近海を航行していた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの至近距離に近づいていたと報じた。中国潜水艦がここまで米空母に接近したのは2006年以来という。
 米海軍のイージス駆逐艦ラッセンは、10月27日に南シナ海で中国が造成した人工島周辺を航行。空母接近はこの直前のタイミングだった。同サイトは中国側がラッセンの航行や、対中強硬派として知られるハリス太平洋軍司令官の訪中に合わせてけん制した可能性を指摘した。
 潜水艦の接近時に空母艦内では警報が鳴ったが、対潜哨戒機が発進したかどうかなどは不明。中国潜水艦の詳しい種類も明らかになっていない。
 ロナルド・レーガンは母港の米海軍横須賀基地を出て、韓国海軍との合同演習のために九州南方を経て日本海に向かう途中だった。

(オバマ政権の対中抑止戦略)米国「航行の自由作戦」も中国に効果なし、次の一手は?
2015.11.4 22:03更新 http://www.sankei.com/world/news/151104/wor1511040041-n1.html

 オバマ米政権は2011年11月、アジア重視戦略を公表して以降、中国の海洋覇権拡大に対抗するため、ASEANへの関与を強めてきた。この結果、中国脅威論が強まっていたASEAN内に、米国への軍事的な依存度を高める作用をもたらし、米中の“覇権争い”の先鋭化により、ASEANが結束に腐心する状況が続いている。
 ASEANを舞台にした外交の場でもオバマ政権は、「対話」と言葉による「圧力」で、中国の覇権主義を修正させることを目指してきた。「航行の自由」などの原則論を繰り返し唱え、衝突回避へ向けた「行動規範」の策定を促してきたわけだ。

 だが、中国は軍事拠点としての人工島建設を進め、米国の試みは奏功しないまま推移している。

 そこでオバマ政権は、「航行の自由作戦」という軍事的な圧力をかけたうえで今回の拡大国防相会議に臨み、中国から軟化姿勢を引き出すことを狙った。それも事前の予想通り不発に終わり、次の一手を打つ必要性に迫られている。
 政権は今後、3カ月に2回程度の頻度で作戦を実施する方針だが、より頻繁に示威行動を繰り返さなければ効果は望めない。オーストラリアなどの同盟国を哨戒活動に引き込むことも肝要だ。

 何よりフィリピンへの米軍艦船、航空機の展開と拠点整備を加速させることが抑止力となる。(ワシントン 青木伸行)


《維新嵐》そしてついに恐れていた最悪の想定がいわれるようになっています。


失われゆく米国優位 高まる米中軍事衝突の危機

岡崎研究所
20151027日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5515

 2015917日付Defense Newsが、RAND研究所の報告書「米中軍事力のスコアカード:軍事力と地理的な要素によるパワー・バランスの変化 1996-2017」を要約、紹介しています。

すなわち、1997年以降20年間における米中の相対的な能力の変化を観測した結果、次の10の分野において米国の優位が失われつつある。
 ①米空軍の基地に対する中国の攻撃能力、②台湾海峡及び南沙諸島周辺空域における航空作戦、③中国の領空に対する米軍の侵攻能力、④中国空軍の基地に対する米国の攻撃能力、⑤米国の水上艦艇に対する中国の作戦能力、⑥中国海軍の水上艦艇に対する米国の作戦能力、⑦中国の宇宙配置システムに対する米国の対抗能力、⑧米国の宇宙配置システムに対する中国の対抗能力、⑨米中両国のサイバー戦能力、⑩米中両国間における戦略核兵力の安定性、といった分野である。
高まる中国の軍事力行使の可能性
 今後5年から15年の間、米中両国が現在の延長線で軍事力を整備していく場合、アジアにおいて米国が優勢にある地域は縮小する。中国は局地的な海空優勢を獲得する能力を向上させ、米軍が緊急展開するまでの時間の隙間を利用して、米軍を撃破することなく限定的な目的を達成することが可能になるケースもあり得る。より深刻なことは、このような認識から、中国の指導者が隣接国との紛争に際して米国が介入しないと信じる場合があるということである。米国の抑止力は劣化し、危機に際して中国が軍事力行使という選択肢をとる危険が高まる。
 米国としては、アジアにおける米軍の能力が低下するという中国の誤解を是正し、米軍と交戦する危険が高いと認識させることが重要である。このために優先すべき施策は、①十分な数の生存性の高い前方展開基地、②(敵の影響力が及ぶ地域から離れて攻撃できる)スタンドオフ兵器、③ステルス能力のある戦闘機及び爆撃機、④潜水艦戦及び対潜水艦戦能力、⑤宇宙における能力などである。
 一方、在来型の戦闘機部隊や空母戦力は迅速に縮小すべきである。また、中国に過度に接近した固定的な基地に依存する前方展開態勢は危険であり、フィリピン、ベトナム、インドネシア及びマレーシアにおける有事のアクセスを可能にするための政治・軍事面における関係強化をめざすべきである。

出典:‘Analysis: RAND Says US Facing Tough Fight With China’(DefenseNews, September 17, 2015
http://www.defensenews.com/story/defense/policy-budget/warfare/2015/09/17/analysis-rand-says-us-facing-tough-fight-china/72304540/

参考文献:‘The U.S.-China Military Scorecard: Forces, Geography, and the Evolving Balance of Power, 1996?2017’(Rand Corporation,2015
http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR300/RR392/RAND_RR392.pdf
***
 RAND研究所は、米陸軍航空隊(現在の米空軍)が第二次大戦における作戦を分析するために設立し、数値などのデータに基づく科学的な分析手法を編み出したことで知られており、作戦解析(OROperations Research)などで実績を挙げてきました。今回の報告書は430頁に及ぶ大作ですが、米中両国の軍事力を測るための様々な要素を科学的に分析したものと考えてよいでしょう。
 本報告書の核心は、主として中国海空軍の近代化の結果、米軍の前方展開態勢が脆弱なものとなり、米中対決の初期段階において中国が一時的に局地的な優位を獲得し、後詰めの米軍が展開するまでの間に軍事的な目標(例えば隣国との軍事衝突で勝利すること)を達成し得るという点にあります。報告書は、これを克服するためにスタンドオフ攻撃能力などの整備を優先すべきであると主張していますが、この点は、2010年に米国防省が公表した統合エア・シー・バトル構想と軌を一にしています。いわゆる第一列島線(南西諸島~南シナ海東部)及び第二列島線(小笠原諸島~マリアナ諸島)を一種の抵抗線とする中国の接近拒否能力(Anti-Access/Area-Denial : A2/AD)の影響下で作戦するために、長距離から攻撃できる海上航空作戦能力の整備を急ぐべきである、との主張です。
 また同報告書は、アジアにおける米国の前方展開態勢について、例えば沖縄のように、中国に隣接した固定的な基地に依存することの危険性を指摘しています。現に米軍は、沖縄を含む在日米軍基地及び在韓米軍基地に加えてグアム及びオーストラリアにおける前方展開基地の整備を進めていますが、RAND報告書の提言を機に、米議会などにおいてこの政策をより徹底するよう求める動きが出てくることも予想されます。
《維新嵐》米中による南シナ海での軍事衝突。ありえない話ではないでしょうが、東シナ海や西太平洋での中国海軍の行動を阻止できるでしょうか?

【共産中国はFON作戦についてどうみているか?】
習近平氏はただの「裸の王様」

米イージス艦派遣で「虚像」は崩壊した

窮地の習政権の「余命」は?
2015.11.5 10:00更新 http://www.sankei.com/column/news/151105/clm1511050007-n1.html

先月(201510月)27日、米海軍のイージス艦が南シナ海の、中国の人工島周辺海域を航行した。中国政府は「中国に対する深刻な政治的挑発だ」と強く反発したが、米軍の画期的な行動は、実は外交面だけでなく、中国の国内政治にも多大なインパクトを与えている。
 話は9月下旬の米中首脳会談にさかのぼる。この会談が双方にとって大失敗であったことは周知の通りだ。南シナ海問題などに関する米中間の溝はよりいっそう深まり、米国の習近平主席への失望感が一気に広がった。
 過去数年間、習主席は米国とのあらゆる外交交渉において自らが提唱する「新型大国関係構築」を売り込もうとしていた。「対立せず、衝突せず」を趣旨とするこのスローガンは「習近平外交」の一枚看板となっているが、訪米前日の人民日報1面では、習主席は米国側との新型大国関係構築を「大いに前進させよう」と意気込んだ。
 しかし訪米の結果は散々であった。習氏が唱える「新型大国関係」に対してオバマ政権は完全無視の姿勢を貫き、習主席の「片思い」はまったく相手にされなかった。
 その時点で習主席の対米外交はすでに失敗に終わっているが、中国政府と官製メディアはその直後からむしろ、「習主席訪米大成功」の宣伝キャンペーンを始めた。

まずは9月26日、人民日報が1面から3面までの紙面を費やして首脳会談を大きく取り上げ、49項目の「習主席訪米成果」を羅列して、筆頭に「新型大国関係構築の米中合意」を挙げた。同27日、中央テレビ局は名物番組の「焦点訪談」で「習主席の知恵が米国側の反響を起こし、米中が新型大国関係の継続に合意した」と自賛した。同29日、今度は王毅外相がメディアに登場し「習主席のリーダーシップにより、米中新型大国関係が強化された」と語った。
 この異様な光景は世界外交史上前代未聞の茶番だった。米中首脳が「新型大国関係構築」に合意した事実はまったくなかったにもかかわらず、中国政府は公然と捏造(ねつぞう)を行い「訪米大成功」と吹聴していたのである。それはもちろん、ひたすら国内向けのプロパガンダである。習主席訪米失敗の事実を国民の目から覆い隠すためにはそうするしかなかった。「新型大国関係構築」がご破算となったことが国民に知られていれば、習氏のメンツは丸つぶれとなって「大国指導者」としての威信が地に落ちるからだ。
 まさに習氏の権威失墜を防ぐために、政権下の宣伝機関は「訪米大成功」の嘘を貫いたが、問題は、米海軍の南シナ海派遣の一件によってこの嘘が一気にばれてしまったことである。オバマ政権が中国に対して「深刻な政治的挑発」を行ったことで、習主席訪米失敗の事実は明々白々なものとなり、米中両国が「新型大国関係構築に合意した」という嘘はつじつまが合わなくなった。しかも、米海軍の「領海侵犯」に対して有効な対抗措置が取れなかった習政権への「弱腰批判」が広がることも予想できよう。

今まで、習主席はいわば「大国の強い指導者」を演じてみせることで国民の一部の支持を勝ち取り、党内の権力基盤を固めてきたが、その虚像が一気に崩れてしまった結果、彼はただの「裸の王様」となった。
 いったん崩れた習主席の威信回復は難しく、今後は政権基盤が弱まっていくだろう。反腐敗運動で追い詰められている党内派閥が習主席の外交上の大失敗に乗じて「倒習運動」を展開してくる可能性も十分にあろう。
 1962年のキューバ危機の時、敗退を喫した旧ソ連のフルシチョフ書記長はわずか2年後に失脚した。今、米軍の果敢な行動によって窮地に立たされた習政権の余命はいかほどだろうか。
【プロフィル】石平
 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

《維新嵐》習近平体制は、崩れそうで倒れませんな・・・。





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