2016年2月4日木曜日

アメリカ海軍の西沙諸島での「自由公海航行のための軍事作戦」 ~ 現代アメリカのリアルな戦争 ~

【米中による南シナ海の駆け引き】
 共産中国との「弾をうたない」軍事装備、投射力による南シナ海の「海洋権益をめぐる戦争」と位置づけることができるのではないだろうか。

「中国が尖閣諸島を攻撃すれば日本を防衛」ハリス米太平洋軍司令官


2016.1.28 10:36更新 http://www.sankei.com/world/news/160128/wor1601280034-n1.html
(http://img.yonhapnews.co.kr/basic/article/jp/20160131/20160131111519_bodyfile.jpgより)

【ワシントン=青木伸行】米太平洋軍のハリス司令官は平成28127日、ワシントンで講演し、中国公船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺の日本領海への侵入を繰り返していることについて、「(日本が)中国の攻撃を受ければ、米国は間違いなく日本を防衛する」と言明した。
 ハリス氏は尖閣諸島の主権問題について「米国は特定の立場を取らない」と、従来の米政府の見解を改めて示しつつ、尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象であり、日本を防衛するとの立場を強調した。
 また、中国が滑走路を建設するなど、着々と整備が進められている南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島の人工島のうち、ファイアリークロス(同・永暑)礁について、「明らかに軍事拠点化しているか、軍事支援をできるように整備されている」と述べ、中国に対する強い警戒感を示した。

《維新嵐》アメリカ海軍の尖閣諸島(東シナ海)とファイアリークロス礁(南シナ海)の理解の仕方と向き合い方。尖閣諸島については、日本政府の国有化後にB52爆撃機を飛行させ、南沙諸島についてはイージス駆逐艦ラッセンの航行(FON作戦)を実行する。これらはいずれも「戦わずに」「示威行為」により共産中国を封じ込めようとする一連の軍事作戦である。
 軍事作戦の狙いは、ハリス長官自身の言質をこの記事から明確ではないが、アメリカ海軍の行動から考えると、尖閣諸島や南沙諸島といった島嶼部をおさえるということではなくて、尖閣諸島であればそこを中心とした日本の領海域、南沙諸島でいえばやはりそこを中心としたフィリピンやベトナムの領海域を確実にすることで「公海域」を確定し、そこの自由航行の権利を喪失しないための作戦であろう。つまりFON作戦とは、アメリカにとっての公海における南シナ海、東シナ海の流通航路確保のための軍事作戦といえるだろう。

【米海軍・南シナ海西沙諸島に駆逐艦を再派遣】係争海域の島近く航行

 米国防総省は平成28130日、中国ら3カ国・地域が領有権を主張する南シナ海の西沙(パラセル)諸島のトリトン島から12カイリ(約22キロ)内を米海軍の誘導ミサイル駆逐艦が同日航行したことを明らかにした。
同省のアーバン報道官は、同諸島の主権を唱える中国、台湾やベトナムによる航行の権利と自由の規制への挑戦であると指摘。海洋問題での極端な主張への挑戦でもあると主張した。この3カ国・地域は領海内の通航の際、事前許可や通知が必要とする政策を示しているとも述べた。
オバマ大統領やカーター国防長官が明言しているように米国は国際法が承認する世界の地域での飛行、航行、活動を続けるとし、南シナ海でも同様であると言明した。ただ、米国は南シナ海で自然に形成された陸地をめぐる主権争いについては立場を示さないとも付け加えた。トリトン島近くを航行したのは駆逐艦「カーティス・ウィルバー」。3カ国・地域には航行を通知しなかったとしている。
一方、中国外務省報道官は今回の駆逐艦派遣を非難。「米国の海軍艦船が中国の法規を破り領海に進入した。中国側は駆逐艦の動向を監視し、法規に従って口頭でメッセージを伝えた」とし、米国は中国の関連法規を尊重して順守し、相互信頼と地域の平和と安定を向上させる措置に一層努めるべきだと主張した。
また、中国国防省の報道官は駆逐艦派遣は双方の部隊の安全性の観点から言えば、非常に未熟で無責任な行動であると批判。極度に危険な結果をもたらしかねなかったともし、「米国によるいかなる挑発的な措置にも、中国軍は主権と安全保障を守るため必要な全ての手段を講じる」と語った。
米国は昨年10月にも南シナ海に駆逐艦「ラッセン」を送り、中国が「領海」と主張する環礁の海域内を通過させている。中国は同艦に警告を発していた。
パラセル諸島やスプラトリー(南沙)諸島などを含む南シナ海の主権論争には、中国、台湾、ベトナムの他、マレーシア、フィリピンとブルネイも絡んでいる。中国は近年、領有権を既成事実化させる動きを強め、スプラトリー諸島の環礁を人工島に造成して滑走路などを建設し、将来的な爆撃機配備への懸念も生じさせている。


南シナ海の西沙諸島で米駆逐艦航行 中国をけん制か

平成28130 2058http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160130/k10010391751000.html

 アメリカ国防総省は、各国が領有権を争う南シナ海の西沙諸島で、中国の実効支配下にある島の周辺にイージス駆逐艦を航行させて3か月ぶりに航行の自由作戦と呼ばれる活動を実施したと明らかにし、中国をけん制するねらいがあるとみられます。

 アメリカ国防総省によりますと、南シナ海で中国や周辺国が領有権を争う西沙(パラセル)諸島で現地時間の30日、アメリカ海軍のイージス駆逐艦カーティス・ウィルバーが、中国の実効支配下にあるトリトン島の周辺12海里、領海と同じ範囲の海域を航行したということです。トリトン島はベトナムや台湾も島の領有権を主張していますが、1974年以降、中国が実効支配し拡張工事などを行ってきました。
 アメリカ政府は、去年10月にも南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島で中国が造成している人工島の周辺12海里以内にイージス駆逐艦を航行させ、こうした活動を航行の自由作戦と呼び、継続して実施する方針を示していました。一方で、中国は、海洋進出の動きを強め今月には南シナ海で造成している人工島に航空機を試験飛行させるなど活動を活発化させています。
 アメリカ国内では、中国に対する圧力を強めるべきだという意見も高まっており、アメリカとしては3か月ぶりに航行の自由作戦を実施することで、中国をけん制するねらいがあるとみられます。

トリトン島はベトナムなども領有権主張

 トリトン島は、南シナ海の西沙諸島の島の1つで、ベトナムや台湾も島の領有権を主張していますが、1974年以降、中国が実効支配しています。領有権を争っているベトナム政府は「中国がトリトン島で地質調査や拡張工事を行い、ベトナムの主権を侵害している」などとして中国政府に抗議してきました。

中国「勝手に領海に入った」

 アメリカ海軍のイージス駆逐艦が南シナ海の西沙(パラセル)諸島で中国の実効支配下にある島の周辺12海里の海域を航行したことについて、中国外務省の華春瑩報道官は30日夜、コメントを発表しました。
 この中で、華報道官は「中国の領海法の規定により、外国の軍艦が中国の領海に入るには中国政府の許可を得なければならない。アメリカの軍艦は勝手に中国の領海に入った」として、この海域は中国の領海だと強調しました。そして、「中国側はアメリカの軍艦を監視し、呼びかけを行った」としたうえで、「われわれはアメリカに対し、中国の法律を尊重、順守して、両国の相互信頼と地域の平和安定に役立つことを多く行うよう促す」と主張しました。

【軍事アナリスト北村淳氏の見解】

それでも日本はアメリカべったりなのか?

中国に対して遠慮しまくるオバマ政権

 北村 2016.2.4(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45947
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。米シンクタンクで海軍アドバイザーなどを務める。現在安全保障戦略コンサルタントとしてシアトル在住。日本語著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)等がある。

アメリカ海軍駆逐艦「カーティス・ウィルバー」(出所:Wikipedia

ワシントンDCのシンクタンクで講演したアメリカ太平洋軍司令官ハリス海軍大将は、南シナ海での「FONOP」(公海航行自由原則維持のための作戦)を続けることを明言した。同時に東シナ海での緊張状態にも言及し、個人的見解としながらも「もし尖閣諸島が中国によって侵攻されたならば、我々はそれらの島々を防衛することになる」とも発言した。
アメリカ軍は「自動的」に反撃するわけではない
 ハリス提督の発言を受けて、日本のメディアは「『中国に攻撃されれば尖閣守る』米軍司令官」「『中国が尖閣諸島を攻撃すれば日本を防衛』ハリス米太平洋軍司令官」「『中国から攻撃あれば尖閣を守る』米軍司令官が言及」などといった具合に、中国人民解放軍が尖閣諸島に侵攻してきた場合には、あたかも自動的にアメリカ軍が中国軍に対して反撃を実施するかのような印象を与える報道をしている。
 本コラムでも何度も触れたように、ハリス司令官を筆頭とするアメリカ太平洋軍(太平洋艦隊、太平洋海兵隊、太平洋空軍、太平洋陸軍、太平洋特殊作戦軍など)関係者たちは、尖閣諸島に限らず日本の領土が外敵の侵攻を受けた場合、彼らのいずれかの部隊が救援に駆けつける可能性があることは十二分に想定している。そして、沖縄や横須賀をはじめ日本に赴任する将兵たちには、万一の場合には日本防衛戦に投入される覚悟が求められているのも事実である。

しかし、日本に駐留する米軍部隊やアメリカ太平洋軍の各部隊が、日本防衛戦に投入されるまでには、以下のようなステップが必要となる。
1)外敵に対して自衛隊が防衛戦を実施して苦境に陥る。
2)日本政府がアメリカ政府に軍事的支援を要請する。
3)アメリカ国防当局(政府首脳・軍首脳)が、日本に対してどの程度の軍事的支援を実施するか(あるいは見送るか)を検討する。
4)アメリカ政府が、日本に侵攻してきている国家との全面戦争の可能性を前提としながらも、日本救援のための本格的な援軍派遣の決定をする。
 この段階になって、在日米軍をはじめとする日本救援のためのアメリカ軍部隊が日本防衛戦に投入されることになるのである。もちろん日本政府とは違って、上記の意思決定は極めてスピーディーに実施される。また、アメリカの国益に重大な影響がある事案に関しての軍隊の使用は、議会の承認がなくても大統領権限だけで6カ月間までなら可能である。だが、日本での報道のニュアンスのように、尖閣諸島などに中国軍が侵攻してきた場合、すぐさまアメリカ軍が反撃する、といった状況は起こりえない。
 おそらく横須賀を本拠地とするアメリカ第7艦隊が出動するためには、それ以前に中国海軍ならびに航空戦力と海上自衛隊・航空自衛隊の間で激戦が展開され、日本側が相当大きな損害を被っている状況に陥って“いなければならない”。そうでなければ、いくら同盟国とはいえ、アメリカの植民地ではなく独立国である日本の防衛のためにアメリカ軍を派遣する道理はない。同盟に基づくとはいえ、軍隊の派遣は慈善事業ではないのだ。


メディアだけではなく、日本の多くの政治家たちも、日米同盟のメカニズムを「日本にとって都合が良いように」考えている傾向が強いようだ。だからこそ、アメリカ政府高官や、米軍首脳などが「尖閣諸島は日米安全保障条約の範囲内にある」あるいは「日本が攻撃されたらアメリカは軍事的支援を実施する」といったニュアンスの発言をすると、胸をなでおろして上っ面な“安心”を国民に対して垂れ流しているのであろう。
西沙諸島でFONOPを実施
今回のハリス太平洋軍司令官の講演の主題は、東シナ海ではなく南シナ海であった。ハリス提督は「南シナ海のファイアリークロス礁に建設された滑走路は、明らかに軍事化を意味するものであり、中国の戦力強化を支えるものである・・・このような中国による一方的な人工島建設は、南シナ海の安定を危機に陥らせる」と強い懸念を表明するとともに、「南シナ海での(太平洋艦隊による)FONOPは今後も継続する」ことを強調した。この講演の3日後の130日、アメリカ海軍駆逐艦カーティス・ウィルバー(DDG-54、第7艦隊に所属し母港は横須賀)は実際にハリス提督の言葉通りに南シナ海でのFONOPを実施した。
西沙諸島のトリトン島でFONOPを実施したカーティス・ウィルバー
201510月には駆逐艦ラッセンが中国人工島建設で注目されている南シナ海・南沙諸島でFONOPを実施している。それから3カ月を経て行われた今回のFONOPは、南沙諸島ではなく、西沙諸島のトリトン島(中国名:中建島、ベトナム名:ダオチートン)で実施された。

19741月、中国はベトナム戦争のどさくさに紛れてトリトン島を含む西沙諸島に軍事侵攻し、南ベトナム軍との間に西沙海戦が発生した。双方に多数の死傷者が出て、ベトナム軍艦1隻が沈没し、3隻が損害を受け、中国軍艦4隻も損害を受けるという本格的な戦闘であった。戦闘に勝利した中国は、西沙諸島全域を占領して軍事拠点などを設置し、現在に至っている。中国による西沙諸島実効支配の中心である永興島(ウッディー島)には、海軍航空隊の戦闘機や爆撃機が使用できる2700メートル滑走路、さらには5000トン級の軍艦が着岸できる港湾施設などの軍事施設が設置されている。また、南シナ海の「中国海洋国土」を管理する三沙市政府機関も設置されている。
中国による西沙諸島実効支配の中心である永興島。滑走路、港湾、三沙市政府機関などが確認できる。
 トリトン島は、その永興島から南西におよそ170キロメートル離れた西沙諸島の外れの最もベトナム寄りに位置している。中国はここに軍隊を駐屯させているが、ベトナムと台湾もこの島の領有権を主張している(といっても、1974年以降、30年以上にわたって中国が占領を続けている)。
トリトン島の位置
トリトン島。サンゴ礁を掘削して建設された港湾とヘリポートなどが確認できる。

アメリカ駆逐艦は無害通航権を行使しただけ
 たしかに、アメリカ海軍駆逐艦カーティス・ウィルバーは西沙諸島の外れのトリトン島周辺12海里内海域を通航した。そして、アメリカのメディアなどは「FONOPを実施した」と報道している。しかし、ペンタゴンの公式声明では「カーティス・ウィルバーはトリトン島12海里内海域を無害通航権により通過した」としている。

 そのため、アメリカ海軍関係者も含めて多くの戦略家たちなどから、「FONOPと称しているものの実際は腰が引けた“FONOPもどき”にすぎず、中国に対する軍事的警告などとは程遠い作戦だ」といった批判が噴出している。というのは、ペンタゴンの声明のように「無害通航権に基づいた通過」というのは、軍艦がトリトン島12海里内海域を「軍事行動との疑いを持たれるような動きを何もせずに、ただただ平穏に航行して通り抜けた」ということを意味している。このような無害通航権は、国際海洋法条約によれば、いかなる国の領海においても原則として認められている。
 南シナ海(南沙諸島にしろ西沙諸島にしろ)における国際海洋法を無視した中国の国際法を踏みにじった領土領海の主張を、軍事的に威嚇するための作戦という“真の意味”でのFONOPならば、トリトン島12海里内海域で火器管制レーダーを使用するとか、艦載ヘリコプターを飛ばすといった軍事行動を実施しなければ意味がないのである。
 ところが、201510月にスービ礁周辺で実施したFONOPでも、今回のトリトン島のFONOPでも、アメリカ駆逐艦は無害通航権を行使しただけである(アメリカ国防当局自身がそう認めている)。
 実際に、トリトン島の領有権を主張しているベトナムや台湾は、アメリカ軍艦の無害通航権の行使に対して何ら抗議はしていない。ただし、中国は“国連海洋法条約締結以前から存在する中国独特の歴史的権利”を振りかざして、アメリカ軍艦のスービ礁やトリトン島接近を非難している(もっとも中国の報道によると「中建島に接近を企てたアメリカ軍艦を駆逐した」としているのだが)。
それでも米軍の全面的救援を期待するのか?
このように、かねてよりハリス提督が“繰り返して実施する必要性”を主張し続け、ようやく昨年秋にオバマ政権がゴーサインを与えた南シナ海のFONOPといえども、“真のFONOP”からは似て非なる作戦レベルにとどまっているのが、アメリカの中国に対する姿勢である。オバマ政権下で大幅な軍事予算削減が実施され、実際に戦力低下が進んでいるアメリカ軍の作戦状況は、このような状態なのだ。
 今や中国はカナダを抜いてアメリカ最大の貿易相手国である。ほとんどのアメリカ国民が知らない「チッポケな岩礁」を巡る紛争に、アメリカ政府(少なくとも現政権)が中国との全面戦争を覚悟して日本を助けるためにアメリカ軍を投入するだろうか。その決断をする状況ではないことは誰の目にも明らかといえよう。

《維新嵐》「ちっぽけな」岩礁でもそこを中心に円をかけば広大な「排他的経済水域」が描けます。この水域設定は、国連海洋法条約には合法の考え方です。「陸の領土」もあれば「海の領土」もあるということですね。

【こちらは海以上に実戦の様相】

経済停滞で中国サイバー攻撃活発化か 狙われる5カ年計画関連分野
岡崎研究所
20160122日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5900

2015121-2日の米中ハイレベル・サイバー協議に際し、フィナンシャル・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙がそれぞれ解説記事を掲載し、前者は、中国の5カ年計画における重点分野を扱っている企業は、サイバースパイの標的になりやすい傾向があると指摘、後者は、中国軍によるサイバースパイは減少したが、それは活動主体が国家安全部に雇われる文民ハッカーに代わっただけだ、と述べています。

発展を海外の技術取り込みに依存する中国
 FT紙の記事の要旨は以下の通り。
 米治安当局とサイバーセキュリティの専門家は、どの米企業が次なるハッキング対象になりうるか手がかりを探すため、中国の新たな5カ年計画を精査している。前回の5カ年計画は、20112015年の主要分野としてエネルギー、ヘルスケア、鉄鋼といった分野に力を入れていた。これらの分野の米企業は、中国当局が支援していると見られるハッキングの被害を被っている。
 20162020年までの第135カ年計画では、ステルス技術や再生可能エネルギーなど軍事や環境技術の近代化、「量子テレポーテーション」を含むイノベーションが中心的課題である。中国の5カ年計画に示された重点分野とハッキングされた米企業には直接的な関連があり、中国の優先分野は米国が優先的に守るべき企業でもある。
 中国は依然、発展を海外の技術取り込みに依存している。ここ数十年で最悪の経済停滞も中国のサイバー経済スパイを助長しかねない要素である。中国企業に対して制裁も辞さないという脅しの中で行われた先の米中首脳会談において、習近平主席は、中国政府が知的財産や貿易機密のサイバー窃取に関与しないことを約束した。しかし、米情報当局者によると、サイバー経済スパイは、先の合意以降いかなる減少も確認できない、と指摘している。
出典:Gina Chon & Charles Clover US spooks scour Chinas 5-year plan for hacking clues’(Financial Times, November 25, 2015
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/40dc895a-92c6-11e5-94e6-c5413829caa5.html
主体は軍から国家安全部へ
 次に、WP紙の記事の要旨は以下の通り。
 20145月に米司法省が5人の中国人民解放軍人を起訴して以来、中国軍による商業機密を狙ったサイバー窃取は減少に転じている。起訴の翌月、中国軍は密かに経済スパイ組織の解体を始めた。習近平を含む中国指導部によって、軍のサイバー活動の見直しがなされた。指導部は、企業に情報を売るためにハッキングをしていた人々の取締りを行い、国家安全保障の根幹に関わらない情報収集を止めるよう試みた。
 20154月、オバマ大統領は,商業スパイのような違法なサイバー活動に関与している団体・個人に対し、制裁を認める大統領令に署名した。「起訴が軍の活動を縮小させる効果があるなら、制裁は中国政府が支援する他のグループに対してもより広い効果があるはずだ」と述べる専門家もいる。
 しかし、9月の米中首脳会談で習近平主席がオバマ大統領と交わした約束が果たされるかどうか、依然として不透明だ。今問題になっているハッキング主体は、中国国家安全部である。国家安全部が雇っているエリート・ハッカーは中国軍のハッカーよりもスキルが高く、デジタル上の痕跡の消去にも長けている。
 しかも、国家安全部のハッカーは、商業スパイのみならず伝統的スパイに近い活動にも従事しているようだ。一部の政府関係者とアナリストは、国家安全部ないしその雇用者が、2200万人におよぶ米連邦職員情報が漏洩した連邦人事管理局へのハッキングに関わっていると見ている、と指摘している。
出典:Ellen Nakashima,Following U.S. indictments, China shifts commercial hacking away from military to civilian agency’(Washington Post, November 30, 2015
https://www.washingtonpost.com/world/national-security/following-us-indictments-chinese-military-scaled-back-hacks-on-american-industry/2015/11/30/fcdb097a-9450-11e5-b5e4-279b4501e8a6_story.html
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サイバー攻撃対象分野の対外的公表を
 米中首脳会談などの複数の機会に、オバマから習近平に対し、中国から米国へのサイバー攻撃が中止されない限り、制裁措置をとるとの強いメッセージをくり返し発出したことが、軍主導のサイバー攻撃が減少し、民間主導に切り替わったきっかけのようです。特に軍の関与が明白であった上海の解放軍部隊UNIT61398に所属する5人の軍人を米司法省がMANDIANT社の調査結果等に基づき起訴したことが、中国側の対応に変化をもたらした大きな要因であった、と記事は指摘しています。中国からのサイバー攻撃自体は減少する気配がありません。オバマ政権の対応はまだ生ぬるいと言うべきでしょう。
 いかなる米関係機関、企業が中国からのサイバー攻撃の対象になるかについて、中国が国内的に打ち出す5カ年計画などの重点項目の分野がその対象になるとの指摘は、参考になります。最近の5カ年計画では、エネルギー、ヘルスケア、鉄鋼など、次期計画ではイノベーションなどが重点項目です。
 日本にとって重要なことは、米国の対応ぶりを参考としつつ、日本の如何なる分野、企業が中国のサイバー攻撃の対象分野になっているかの調査結果をまとめ、しかるべき形でそれを対外的に公表することです。米国に加え、最近中国のサイバー攻撃に敏感になっている豪州などとも協力していくべきでしょう。
《維新嵐》米中の対立、米ロの対立をみていて感じるのは、武力による紛争がおこらないということ。しかしサイバー空間(インターネット空間)においては、熾烈かつ直接的な「紛争」状態になっているように感じられます。主戦場が海洋や島嶼など陸地から「サイバー空間」へ移ってきたとはいえないでしょうか。そしてこのことは戦争を遂行する人間が肉体的に訓練されたコマンダーだけではなくなってきたことを意味していると考えられます。





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