2016年6月21日火曜日

台湾国防軍は健在なり! ~外国頼みでない自主防衛への決断~

台湾国防軍



台湾はアメリカから必要な軍事支援を受けられる「同盟国」ですね。その根拠となる法規が「台湾関係法」ですが、アメリカが政治的に共産中国を刺激することをためらって最新兵器の台湾への供与に消極的になっていました。そこにオバマ政権の2期めに入り変化の兆しが現れました。


ステップ①アメリカからの軍事支援を引き出す
中国がアメリカ呼びつけ猛抗議
オバマ政権、4年ぶり武器供与・台湾に軍艦売却を米議会に通告

 オバマ米政権は2015516日、台湾に対しミサイルフリゲート艦2隻など総額18億3千万ドル(約2228億円)相当の武器を売却する方針を決定、議会に通告した。台湾への武器供与決定は2011年9月以来、約4年ぶり。台湾との安全保障協力を進め、東シナ海や南シナ海で海洋進出に力を入れる中国をけん制する狙いがある。中国の鄭沢光外務次官は16日、在中国米大使館の臨時大使を呼び出し、武器売却に対して「厳正な申し入れ」を行い抗議し、武器売却企業を含めて米側に制裁を実施すると表明した。

 アーネスト大統領報道官は16日の記者会見で、武器売却は台湾への防衛支援を義務付けた米国内法「台湾関係法」に基づくものだとした上で、「一つの中国」政策を維持する米政府の姿勢に「変わりはない」と述べた。売却を決めたのは、高速で機動性があるフリゲート艦のほか、水陸両用車や携帯型地対空ミサイル「スティンガー」など。実際の売却には議会の承認が必要となる。(共同)

《維新嵐》 背景までは具体的に書いていませんが、アメリカ・オバマ政権による台湾への軍事支援は明らかに共産中国による南シナ海への覇権拡大に呼応したものでしょう。しかしこれだけでは、台湾の防衛に必要な軍事力を得られないということがあるようです。明けて2016年についに独自防衛力の強化に乗り出しています。

ステップ②シギントの強化
台湾、陸海空軍に並ぶ「第4軍種」「サイバー軍」創設か

台湾の馮世寛国防部長(国防相に相当)は2016526日、立法院(国会)での質疑で、新たにサイバー戦に従事する部隊を創設する意向を表明した。規模や名称は不明だが、陸海空軍に並ぶ「第4軍種」にするとしている。中央通信社が伝えた。台湾の交通部(交通省)は11日、立法院で、中国からのサイバー攻撃が「戦争に準じる程度」まで深刻化していると報告している。(台北 田中靖人)

《維新嵐》 いわゆる「情報は最大の武器」ですから、サイバー戦部隊の創設とともに台湾のシギントによる戦略のレベルを一段あげようという狙いかと推測します。我が国のサイバー防衛隊のように自国軍におけるシステム防護という意味ではなく、民間企業のネットインフラの防護も含めた意味での充実強化が狙い。でないと国防軍格にしていく意味がありません。我が国のサイバー防衛隊は自衛隊内のシステムを守ることが任務であり、あくまで「専守防衛」が原則ですが、これでは文字通り生き馬の目をぬくようなサイバー(情報)戦争においては話になりません。


ステップ③海軍力の強化
【台湾海軍、主要艦艇を自主建造へ】中国配慮の欧米から調達見込めず舵切る

【台北=田中靖人】台湾海軍は2016620日、主力艦を含む艦艇を順次、自主建造に切り替える方針を発表した。2018~30年で、4700億台湾元(約1兆5千億円)を投じる。保有艦艇の老朽化が進む中、中国に配慮する欧米から新造艦の調達が見込めず、自主建造にかじを切った。ただ、搭載する武器やレーダーなどまで自主開発品とするかは「検討中」(海軍高官)で、課題は山積している。
 海軍は20日、9月に造船業界が開く展示会の説明会で計画を公表。次世代の「主力艦」やミサイルフリゲート艦、潜水艦、ドック型輸送揚陸艦、潜水艦救難艦など計12種の大まかな性能要求を示した。これまでも自主建造の方針は掲げてきたが、具体的な艦種や予算規模を示すのは初めて。


また、立法院(国会に相当)での質疑では、ドック型輸送揚陸艦と高速機雷敷設艇の開発に加え、就役済みの自主開発コルベット艦「沱江」級の量産を優先する方針を表明した。海軍高官によると、現有する駆逐艦とフリゲート艦計26隻も順次更新し、防空能力の高いイージス艦の導入も目指す。20日付の自由時報は、6千~8千トンのイージス艦4~6隻を建造し、キッド級駆逐艦と交代させると報じた。実現すれば、アジア太平洋地域の海軍力の均衡に変化が生じる可能性がある。
 背景には、「一つの中国」原則を掲げる中国の圧力で、海外からの調達が難しいことがある。近代化が急速に進む中国海軍に対し、台湾は米海軍の中古品の払い下げが中心。主要戦闘艦では米海軍で現役の艦種はなく、大型の新造艦は1990年代にフランスから購入したラファイエット級フリゲート艦が最後になる。だが、同艦購入をめぐっては大規模な汚職事件が発生、中国に機密情報が漏れたとの指摘もある。潜水艦4隻のうち2隻は、第二次世界大戦直後に就役した“骨董(こっとう)品”で、米国からの潜水艦調達計画は約15年間にわたり実現していない。


一方で、国防部(国防省)所属の研究開発機関「中山科学研究院」が対艦ミサイル「雄風」など一部の新鋭兵器の開発に成功。昨年にはステルス設計の「沱江」級も就役させており、軍艦の設計、建造に自信を深めたことも計画を後押ししているとみられる。
 ただ、高性能のイージスシステムを自主開発とするか、米国から導入するかなど、詳細は検討中といい、全体像が明らかになるには、なお時間を要しそうだ。

《維新嵐》 台湾海軍がイージス艦艇を運用するとなるとアジアでは日本、韓国に次ぐ運用実績になりますね。

ステップ④台湾軍が「核兵器」を開発、配備するという可能性

トランプの中国好きが高める台湾海峡リスク
岡崎研究所 20160809日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7453

米ブルッキングス研究所のオハンロン上席研究員が、201674日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、トランプ大統領候補のアジア政策は、台湾の核化の動きを助長するなど、台湾海峡の戦争リスクを増大すると警告しています。主要点は次の通りです。
 ドナルド・トランプはアジアからの米軍撤退を主張し、日韓は核武装をするのが最善かもしれないと示唆している。この考えは基本的に間違っている。それは日中戦争のリスクをもたらし、NPT不拡散体制を揺るがす。
iStock
台湾海峡の戦争リスク
 しかし、最大の危険は台湾海峡に戦争リスクをもたらすことである。在日米軍基地なくして、米国は中国の台湾攻撃を抑止できない。その場合、中国は、台湾への武力行使について今まで程には躊躇しなくなるだろう。
 さらに、台湾は核武装に向かうかもしれない。中国はこれまで台湾が核化すればそれを阻止するため攻撃することを明らかにしている。米国は、1979年台湾関係法により台湾防衛にコミットしている。これは、NATO条約第5条ほど明確な規定ではないが、今まで中国抑止の効果を発揮してきた。今の状況は安定的であるが微妙である。中国は、2つのこと、すなわち台湾の独立と台湾の核化の場合には武力を行使すると述べてきている。
 トランプが大統領になれば、台湾の指導者は大きなジレンマに直面する。台湾は1970年代と1980年代末期に核開発をしようとしたことがある。核の傘がなくなれば、台湾にとって核化のインセンティブは大きくなる。トランプのアジア戦略を実行すれば、米国にとって、海軍と長距離爆撃機を除き、台湾を防衛する手段がなくなる。これらの能力だけでは中国による台湾の封鎖を解除することは難しい。
 このような状況は米国にとり決して望ましいことではない。台湾を、中国に対して自らで守らねばならないような状況に追いやることは危険である。トランプのアジア政策の最悪の結末はここにある。
出典:Michael OHanlon If a President Trump Turns His Back on Taiwan (Wall Street Journal, July 4, 2016)
http://www.wsj.com/articles/if-a-president-trump-turns-his-back-on-taiwan-1467650733

上記論説は、全くの正論です。トランプ候補の政策は、中国に間違ったシグナルを送り、台湾の核化インセンティブを強めるという2つのことにより、海峡情勢をこの上なく危険にするとオハンロンは主張します。台湾の現状を動かすことは、中国に行動のキッカケを与えることになりかねません。注意深く現状を維持、強化していくことが肝要です。
 トランプの対外政策、同盟政策は非常に問題が多いです。しかし、トランプが共和党候補になったという現実は直視する必要があります。当面出来ることは、種々頭の体操をしながら、大統領選挙の行方をフォローするしかないように思われます。トランプの外交政策の問題は、国際秩序の維持に係る米国の国際的役割を全く理解せず、他の多くの国と同じような自国第一主義を取っていることです。
中国にとって好都合なトランプ
 中国は、トランプを好んでいると言われます。米国のアジアからの撤退は、中国にとっては戦略的に好都合です。場合によっては、米中間の「新たな大国関係」が築けるかもしれません。G2でアジアと世界を仕切れるかもしれません。南シナ海のような問題についても矛先が弱まると思っているかもしれません。
 過去、台湾による核開発疑惑が問題となったことがあります。その都度、米国は一貫して台湾の核化に反対の立場を取ってきました。台湾は、1971年の国連中国代表権問題の決着により、中国が国連に入った後、NPT条約の締約国ではなくなりました。しかし、台湾は、IAEAとの特別査察協定と米台原子力協定により、IAEAの査察を受けています。このような枠組みの中で台湾が核化することは実際不可能に近いことです。更に、核の問題で米国の後ろ盾を失うことは台湾にとり存亡の危機に直面することを意味するので、簡単にはそれに乗り出せないでしょう。しかし、トランプが大統領になれば、台湾で核化の声が大きく成りうることは、オハンロンが指摘する通りです。それは、海峡情勢の危険を高めます。
 米国のある国際政治学者は、核は保有する国が多ければ多いほど、国際均衡は安定すると論じましたが、それは恐怖の均衡による安定です。台湾の核化が起きれば、それは単に核不拡散の問題にとどまらず、台湾海峡の危険増大という極めて深刻な地域問題となります。

ステップ⑤防空体制の強化、「地対空ミサイル」の配備が不可欠!?

戦闘機は不要?再考迫られる台湾安全保障政策
岡崎研究所
20160523日(Monhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/6801

ランド研究所のロストンボ上席アナリストが、2016413日付Difence Newsに「台湾はその防空戦略を再考するように求められている」との論説を書き、台湾は戦闘機ではなく、地対空ミサイルに重点をおいた防空戦略をとるべきである、と論じています。論旨は次の通り。

中国から攻略されてしまった戦闘機
 台湾の防空計画者は非常に困難な問題に直面している。中国は大きな軍を保有、過去25年それを近代化してきたが、それを抑止する能力を必要とする。近代戦では、制空権はそれ自体重要であるが、地上軍、海軍による作戦を可能にするものでもある。
 台湾にとり重要な能力は中国人民解放軍の制空権を争う能力である。過去、台湾の防空の主力は戦闘機であった。これからも防空予算の大部分が戦闘機に振り向けられよう。しかし中国はこれらの戦闘機に対処する方策を見出しており、戦闘機は台湾の国防予算での高価なぜいたく品になっている。
 台湾は戦闘機に頼る防空を超えた発想をすべきである。地対空ミサイルがより大きな防空能力を提供するし、将来へのより良い投資である。
 中国は地上での台湾の航空機への脅威である。台湾の戦闘機は弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機の攻撃に脆弱である。中国は正確なミサイルに投資してきた。
 台湾は山に戦闘機を隠せるが、そこから持続的な作戦をすることはできない。中国はいまや飛行中の航空機を見つけ、着陸までフォローし、攻撃する能力を持つ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6801?page=2
空中でも、90年代に使われ始めた台湾の戦闘機は数的に劣勢、質的にも中国機に劣る。台湾はF-16を新しいレーダーなどで強化しているが、中国に後れを取っている。
 台湾の戦闘機はもし人民解放軍が大規模攻撃に出た場合、大きな役割を果たせず、中国は簡単に空中優位を得るだろう。1991年の湾岸戦争は、空からの精密攻撃に対し地上軍(イラク軍)は生き残れないことを示した。中国が制空権をとれば、台湾国防軍の効果的活動は阻止されるだろう。台湾は空からの攻撃のない地域を、防衛のために必要とする。
投資すべきは戦闘機ではない
 台湾が防空を再考、再構築する必要がある。台湾の300機以上の戦闘機は予算を大規模に消費しているが、地上でも空中でも防空の主力にはならない。
 台湾はどうすればいいのか。地対空ミサイルは完全な解決策ではない。しかし戦闘機よりも残存性が高く、中国の空中優位を争える。固定目標を守れなくとも、攻撃のコストを高くできるし、台湾の他の軍種を中国の空中攻撃から守りうる。
 今後、台湾は防空のために相当な投資をするだろう。これらの投資を戦闘機よりも地対空ミサイルに向けるべきであろう。
出典:Michael J. Lostumbo, Taiwan Forced To Rethink Its Air Defense Strategy’(Defence News, April 13, 2016
http://www.defensenews.com/story/defense/commentary/2016/04/13/taiwan-forced-rethink-its-air-defense-strategy/82897760/
 この論説は、筆者を含む数人が行なったランド研究所での台湾防空戦略に関する研究報告(国防省の政策担当次官室がスポンサー)の主要結論を紹介したものです。元の研究報告書は130ページにも上るもので、台湾の防空についての諸問題を詳細に検討したうえでの結論であって、思い付きを言ったものではありません。そういうものとして受け取るべきものです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6801?page=3
筆者は、台湾の防空または制空権については、台湾の保有する戦闘機ではできないと結論付け、地対空ミサイルを中心とした防空戦略を主とすべしと論じています。
 中台間の軍事バランスが中国有利になっていること、空軍についても量・質の面で中国が台湾を圧倒していることは明らかです。台湾が台湾のみで中国に対して台湾空域の防衛をすることを考えれば、こういう結論しかありえないでしょう。
米国介入の有無は最重要ファクター
 しかし、中国が台湾を大規模攻撃する際に、米国が何もしないという事態は台湾関係法との関係からも考えられません。米空軍が台湾防衛に乗り出す場合には、状況は大きく異なってくるでしょう。そういう状況を念頭に置いていないという点で、この報告書は現実に起こりうる事態を十分に踏まえていないのではないかと思われます。
 また、台湾の戦闘機についても、質の良いものを米が供与すれば、台湾側の質的劣勢はある程度是正されるのではないでしょうか。
 純粋な軍事的評価をすることも重要ですが、有事の際には、政治的に色々なことが起こり得ます。それをも考慮して、台湾としては適切な判断をすべきものではないかと思われます。
 米国の介入の有無は、本件について考える上で最重要のファクターです。あたかもそれがない場合を想定しての議論は、誤解にもつながり得ます。

 なお、日本が与那国島に対空ミサイルを配備し、日本の空域を守ることは、台湾上空の制空権のあり方にも影響を与えるでしょう。南西諸島防衛と台湾の関係については、検討してみる必要があります。





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