2016年7月30日土曜日

【南シナ海の領有に関する国際仲裁裁判所の裁定!?「そんなの関係ねえ!」】民間投資・軍事演習で海洋利権と島嶼領有権をあきらめない共産中国・人民解放軍

南シナ海に基地もリゾートも、裁定を完全無視の中国
世界の観光客が中国の豪華客船で南シナ海を旅する日
北村淳 2016.7.28(木) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47458


中国当局が公表したスカボロー礁上空をパトロールするH-6Kの写真

中国政府は、南シナ海そして東シナ海への支配権を拡張するに当たって、「歴史的権益」をその正当性の主な根拠としてきた。しかし2016712日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国が主張している南シナ海における歴史的権益は国際法的には認められないという裁定を下した。
 それに対して、中国政府やメディアはこぞって「裁定を受け入れない」、というよりは「常設仲裁裁判所にはそのような裁定をなす権限がないため、そもそも裁定なるものは無効であり、中国の立場には何の影響も与えない」との態度を表明している。
戦闘空中パトロールを開始
中国は裁定に対する様々な反論やプロパガンダに加えて、軍事的示威行動にも打って出た。
718日、中国国営メディアは、人民解放軍空軍が発表した爆撃機による南シナ海での戦闘空中パトロールの写真を公開した。これは空軍の新鋭爆撃機「H-6K」がスカボロー礁上空を飛行しているものだ。時期が時期だけにきわめて挑発的な画像と言える。
フィリピンのルソン島沿岸から220キロメートル沖合(フィリピンの排他的経済水域内)に位置するスカボロー礁は、中国本土沿岸からは900キロメートル以上離れており、中国軍用機の発着が可能な西沙諸島永興島(ウッディー島)からは600キロメートルほど東南に位置している。フィリピン、中国そして台湾が領有権を主張しているが、2012年に発生したフィリピン海軍艦艇と中国監視船による睨み合い以降、中国が軍事力を背景にした実効支配を強めている。
 今回の仲裁裁判所の裁定を完全に無視する中国は、南沙諸島同様にスカボロー礁でも埋め立て作業を開始するのではないかと考えられており、アメリカ政府は中国に対して警告を発している。しかし、先週中国で行われたアメリカ海軍と中国海軍のトップ会談では、中国側はアメリカの懸念を一切取り合わず、スカボロー礁を含む南シナ海九段線内は“中国の主権的海域”であるとの姿勢を維持することを再度アメリカ側に通告した。


スカボロー礁、西沙諸島、南沙諸島、海南島の位置


南シナ海で実質的なADIZを設定準備
スカボロー礁上空をパトロールしたH-6Kは、中国空軍並びに中国海軍が長らく使用しているH-6型爆撃機の最新バージョンだ。強力なエンジンが搭載され、各種性能も向上し、対艦攻撃用ならびに対地攻撃用の新鋭巡航ミサイルも積載可能である。
 今回スカボロー礁をパトロールしたH6-Kには、巡航ミサイルは装着されていなかった(巡航ミサイルは主翼下のパイロンに装着される。ただし巡航ミサイル以外にも胴体内に爆弾を格納することは可能)。だが、H-6Kがスカボロー礁近辺まで進出してくると、フィリピンを拠点にするアメリカ海軍艦艇は危険にさらされるため、アメリカ海軍関係者たちは神経をとがらせている。
 中国当局によると、今後、人民解放軍は継続的に南シナ海で空中パトロールを実施し、H-6K爆撃機のみならず戦闘機、偵察機、そして空中給油機など各種空軍機をパトロールに投入するという。実際に、南シナ海上空では戦闘機による実弾射撃訓練なども開始された。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47458?page=3
中国が東シナ海で中国版「ADIZ」(防空識別圏)を公表した際には、アメリカや日本をはじめとする国際社会からの猛反発を受けた。その経験を踏まえて、南シナ海では中国版ADIZを公表する前に、航空戦力や艦艇それに人工島を含む地上からの対空ミサイル戦力などを充実させて実質的なADIZを設定してしまおうという戦術と考えられる。
海南島のリゾート開発会社が南シナ海クルーズを計画
中国メディアは、南シナ海での戦闘空中パトロール実施の発表と合わせる形で、「南シナ海クルーズ」計画のニュースも伝えた。
 この計画を打ち出したのは、中国海南省の海南島・三亜市を拠点にリゾート開発やクルーズなどを手がけている「三亜国際クルーズ」(COSCO Shipping、香港ベースのChina National Travel Service Group、それにChina Communications Constructionのジョイントベンチャー)である。
三亜国際クルーズは今後数年間のうちに8隻の豪華客船を建造して、西沙諸島や南沙諸島を含む南シナ海でのクルーズ観光を行うという。同時に、クルーズの拠点となる三亜市には4つのクルーズターミナルを建造し、海南島をますますリゾート地として発展させるという大規模なリゾート開発計画を立てている。
 現在、三亜国際クルーズは「Dream of the South China Sea」というクルーズシップを運行しており、来夏までには2隻のクルーズシップを追加するという。現時点では西沙諸島でのクルーズ観光が実施されているが、将来的には南シナ海全域でのクルーズを実施する計画とのことである。
 すでに三亜市では、大規模な高級ホテルをはじめとする観光施設の建設が盛んに進められ、西沙諸島でもリゾート施設の建設計画が進んでいる。したがって、南沙諸島の人工島でもホテルやクルーズターミナルなどのリゾート施設の建設が着手されることは時間の問題であろう。
海南島・三亜市に出現したリゾート施設

観光客の盾を用いる人民解放軍
このように、中国は南シナ海の軍事的支配を推し進めるために、軍事力の誇示と平行して非軍事的施設の建設にも力を入れている。
 先週の本コラム(「仲裁裁判所の裁定に反撃する中国の「情報戦」の中身」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47395)でも指摘した灯台の建設はその一例であるが、クルーズ観光をはじめとするリゾート開発は、灯台や気象観測所それに海洋研究所以上に強力(中国の実効支配にとって)な民間施設となってしまう。
 南シナ海で大規模なリゾート開発を進める中国は、すでにほぼ完全に領有権を手中に収めた西沙諸島はもとより、人工島建設により実効支配を強烈に推し進めている南沙諸島にまで、数多くの観光客や観光業従事者たちを送り込むことになる。
 クルーズシップには中国人観光客のみならず日本やヨーロッパそれにアメリカからの観光客も多数乗船するであろう(すでに三亜市の高級リゾート施設などは、英語版それに日本語版の宣伝サイトなどで外国人観光客を海南島リゾートに誘致している)。
 近い将来には、世界各国からの多数の観光客で賑わう西沙諸島や南沙諸島のリゾート施設と隣接して、人民解放軍の軍事拠点が南シナ海に睨みを効かすことになるのだ。

《維新嵐》 島嶼などの領有権を主張する場合には、必ず民間投資を奨励して観光客を呼びます。この地域は共産中国の領土、領海であり、主権域だということをアピールするのに比較的時短ですみ、伝播と印象操作も確実にできる合理的な方法ですね。
 ただ共産中国(人民解放軍)にとっては、民間投資を南シナ海へ呼び込む前に軍事演習を行うことで、ひかない姿勢を強烈に主張しています。
しかしこうした国際判決を認めないスタンスは、共産中国の国際採決にむきあう機会をなくすことにもつながりはしないでしょうか?

《人民解放軍発》すでに軍事演習もやっています。いまさらひけない軍事利権と海洋開発

中国海軍司令官「島と岩礁の建設をやり遂げる」と
米軍司令官に
滞在中にあえて「挑発」軍事演習も
2016.7.18 22:38http://www.sankei.com/world/news/160718/wor1607180031-n1.html

中国海軍の呉勝利司令官は2016718日、米海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長と中国軍の海軍司令部で会談し、中国は「島と岩礁の建設をやり遂げる」と述べ、南シナ海での人工島造成や軍事施設建設を続ける方針を明確にした。
 リチャードソン作戦部長の訪中は初めて。20日まで滞在する。
 一方、中国の海事局は18日、南シナ海の一部海域で19~21日に軍事演習を実施するため、船舶の進入を禁止すると通知した。中国は国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が12日、南シナ海での中国の主権を否定した判断を「受け入れない」としており、米海軍トップの滞在中に演習を行うことで、国際社会に自らの主張をアピールする狙いがあるとみられる。
 中国メディアによると、空軍の申進科報道官は18日、南シナ海上空で日常的にパトロールを行う考えを示した。
 海事局は5~11日にも南シナ海の一部海域で演習実施を理由に船舶の進入禁止を通知した。(共同)

【中国、南シナ海で軍事演習】仲裁後初、領有権誇示


2016年7月19日から21日に中国軍の戦闘機が南シナ海の一部海域で行われた軍事演習に参加する。

 中国の通信社、中国新聞社は2016721日、中国海軍が201671921日、南シナ海の一部海域で実弾演習を実施したと報じた。国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が12日、南シナ海での中国の主権を否定する判断を示した後、初の軍事演習。仲裁判断を受け入れず、今後も主権を誇示する狙いがあるとみられる。

 19日から21日に南シナ海の一部海域で行われた軍事演習に参加する中国軍の戦闘機(共同)
 また国防省は21日までに、軍制服組トップの范長龍・中央軍事委員会副主席が最近、南シナ海を管轄する「南部戦区」を視察したと発表。范氏は「習近平・中央軍事委主席の指揮に従い抑止力と実戦能力を高め、国家主権や安全保障の利益を守り抜くよう」指示した。

 報道によると、演習には数十機の戦闘機などが参加。迎撃訓練や上陸訓練などが行われた。海事局が事前に船舶の進入禁止を通知していた。(北京共同)

欧州は南シナ海問題に関与してくるか?

アジアの安全保障に対する欧州の態度
岡崎研究所
2016年07月28日(Thu)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7351

多額の武器輸出を含むアジアとの絆を考えれば、欧州は、アジアの安全保障により大きな役割を果たしてよいはずだが、欧州がその気になるのかはわからないと、6月18-24日号の英エコノミスト誌が論じています。要旨は以下の通りです。

フランス国防相の空疎な提案

 欧州自身は時に自らの軍事プレゼンスを認めてもらいたい素振りを見せる。6月初めのシャングリラ対話では、仏国防相が、南シナ海における軍事プレゼンス維持に向けて欧州諸国が調整、協力することを提案した。が、多くの関係者は、空疎な提案としてこれを退けている。
 一方、欧州をとりわけ冷ややかに見ているのはASEANだ。両者は東ティモールや軍事政権下のミャンマーをめぐって長年揉めてきた。また、欧州の植民地だったASEAN諸国は、人権を問題にする欧州を偽善的と見ており、衰退しつつある欧州の絶望的状況を欧州自身がよく理解していないらしいことにも苛立っている。この見方は、EUが経済危機、移民問題、イギリスの離脱問題等、EU内の問題に振り回される中でいっそう強固になってきた。
 地域の安全保障問題の重要な討議の場となってきた、東アジアサミットや拡大ASEAN国防相会議にEUが入っていないこともマイナスに働く。欧州はアジアの安全保障への関与不十分で加盟できず、加盟しなければ議論に加われない、というジレンマにある。
 EUは一つにまとまれない、というアジア側のもう一つの不満もある。イギリスは「中国の親友」になろうと、ラオスやカンボジアがASEAN内で時々やるように、中国の指示でEUのコンセンサスを妨害しかねない。勿論、中国はEUが米国の対中政策に同調しないよう、中国の提供する商業的利益をめぐるEU諸国間の競争に付け込み、EU全体を誘惑しようとするだろう。
 しかし、これらは、EUを東アジアサミットや拡大ASEAN外相会議に参加させない理由にはならない。南シナ海の問題は、単に米中競争の問題ではなく、ルールに基づく国際秩序の将来にかかっている。自分達の問題で混乱している欧州は、欧州がアジアを必要としているように、アジアも欧州を必要としていることを認識すべきだろう。
出 典:Economist ‘The lost continent’ (June 18-24, 2016)
http://www.economist.com/news/asia/21700666-europes-frustrating-search-strategic-relevance-asia-lost-continent
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7351?page=2


上記論説では、欧州のアジアの安全保障に対する関心は薄く、仏国防相が、南シナ海への欧州の関与を提案しても欧州の他国は聞く耳を持たず、他方、ASEANは、欧州は衰退しているうえに、経済危機など自らの心配事で頭がいっぱいでアジアに注意を払う余裕がなく、「中国の親友」になろうとする英国が、中国の指示でEUのコンセンサスを妨害しかねないなどと欧州に批判的であるが、南シナ海問題はルールに基づく国際秩序の将来がかかった問題であり、ASEANは欧州の関与を歓迎すべきである、との趣旨を述べています。

欧州の安全保障の関心はロシアだった

 欧州の安全保障上の関心は、一貫してロシアであり、アジアの安全保障に対する関心が薄かったのも無理はありません。欧州のアジアに対する関心は主として経済的なものであり、特に、中国の経済発展にあやかりたいとの魂胆が明らかでした。
 他方、アジアの安全保障上の関心の中心は中国であり、安全保障に関する欧州とアジア、特にASEANの土俵は異なっていました。
 しかし、南シナ海の問題は、単にアジアにおける中国の影響力の拡大のみにとどまらず、ルールに基づく国際秩序の維持の問題であり、欧州も関心をもって当然です。欧州は確かに経済危機、難民、移民問題、イギリスのEU離脱問題など、自身のかかえる諸難題への対処に手いっぱいですが、国際政治の一つの重要な極であることには変わりありません。南シナ海への関与は、欧州の政治的存在感を示すうえでも意味があります。
 欧州の南シナ海問題への関与は、日本、米国そしてASEANにとって歓迎すべきことです。ASEANはEUに対する冷ややかな態度を変え、この問題についての欧州との対話を進めるべきであり、日本も、欧州との二国間対話あるいは多国間の会合で、欧州の南シナ海問題への関与を推進すべきでしょう。




世界情勢を乗り切るために・・・「平和国家」日本国の未来

高まる中国の脅威!!東シナ海でも「同じこと」は起きる

ダイヤモンドオンライン 桜井よしこ

内向化が止まらないアメリカ、南シナ海などで膨張し続ける中国、イギリスのEU離脱、IS(イスラム国)による相次ぐテロ……この動揺する世界を、日本はいかに乗り切るべきか?前回に引き続き、人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。

◆前回の内容◆

アメリカのみならず、イギリスでも「内向化」がとまらない…

孤立主義と言い換えてもよい自国第一主義は、アメリカにとどまらず、ヨーロッパにも急速に広がっている。イギリスは20166月の国民投票で、EU離脱を決定した。333000人の移民が流入し、社会不安が生じ、離脱派が急速に勢いを増した結果である。
強烈に離脱反対の論陣を張ったキャメロン首相は敗れ、713日、テリーザ・メイ氏が新首相に決定し、イギリスは敢然と次の段階へ進もうとしている。
だが、その前途は決して明るくはない。EU離脱によって経済的にはおそらく縮小していくと思われる。EUに残りたいスコットランドは、イギリスからの離脱を考え始めた。仮にスコットランドが去れば、イギリスは国土の3分の1を失う。北海油田も失う。原子力潜水艦が停泊できるイギリス唯一の軍港を持つクライド海軍基地も失う。かくして連合王国のイギリスは、グレートブリテンどころか、小さなブリテンの国になってしまいかねない。
イギリスのEU離脱は、アメリカとEUの関係も弱体化させかねない。イギリスはアメリカにとってかけがえのない支持国であり、最善の理解者であった。第1次世界大戦も第2次世界大戦も彼らは共に戦った。
戦後の戦争でも、ベトナム戦争を除くすべての戦争で、両国は共に戦った。アメリカとヨーロッパの架け橋だったイギリスのEU離脱で、アメリカのEUに対する影響が低下するのは当然である。

その他の欧州諸国でも似たような動きが加速…

イギリスと同様の動きは、EU諸国でも急速な広がりを見せている。フランスでは右翼政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ル・ペン氏が支持率を高めており、来年(2017年)の初夏に予定されている大統領選挙の最有力候補である。彼女の政策は反EU、反移民、反難民である。フランス独自の価値観とフランス独自の文化、文明を大事にしたいという自国第一主義である。
ドイツはメルケル首相が110万人の難民を受け入れ、シリアをはじめとする諸国の難民からは非常に感謝されている。悲鳴を上げているのがドイツ国民だ。110万人の難民流入で、街の様子が変化する。多大な予算も必要だ。不満と不安が高まり、反移民、反難民、反EUの気運の中で、支持を広げたのが、フラウケ・ペトリーという女性リーダー率いる「ドイツのための選択肢」という政党である。ドイツ連邦議会選挙は来年秋の予定である。
自国第一主義の右翼的な政党は、同様にポーランド、オランダ、チェコ、スロバキアなどでも台頭した。20165月に大統領選挙を行ったオーストリアは、0.6%の差でEUに背を向ける極右政党が敗れたが、この選挙に不透明な部分があったと右翼政党側が主張し、大統領選挙はやり直されることになった。

空中分解しつつある軍事同盟、それを喜ぶ「いくつかの国」

自国第一主義、排他主義の蔓延の中で、EUでは求心力よりも遠心力が働いているのである。EUの結束力は弱まると見るべきだ。EUの軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)にも必然的に影響が及ぶだろう。NATOはイギリスのEU離脱決定後の78日に会合を開いたが、予想どおり具体的な結論は得られず、結束を固めるという抽象的な合意で散会した。
NATOを支える最大の力、アメリカもNATOに対して強い不満を表明している。トランプ氏は427日の初の外交政策発表でNATOに言及し、28の加盟国のうち、GDPの2%を軍事費に充てるというNATO合意を実行しているのは、わずか4ヵ国ではないかと論難した。
大半の加盟国が義務を果たさないような軍事同盟は時代遅れであるとトランプ氏は語る。ヨーロッパ全体の団結力が、軍事力も含めて、弱体化するプロセスが始まったのではないか。
これを歓迎しているのがロシアのプーチン大統領である。同大統領が中東におけるアメリカの空白を巧みに利用して主舞台に躍り出た経緯については前回触れた。
同じ構図がアジアでも見られる。中国は日本などの西側諸国が是とする国際法を守らない。西側諸国が重要視する平和的話し合いに応じない。西側諸国が否定する力による現状変更を敢えて行う。
蛮行と不法行為を続ける中国にどう対応するかが、いまや世界と日本にとっての最重要の課題である。

参院選での与党勝利、その背後にある「人々の心理」とは?

私たちはいま、急いで日本を中国の脅威に対応できる国に変えていかなければならない。脅威が押し寄せてきたとき、現状では国土、国民を守ることは難しい。このまま基本的な構図を変えなければ、日本の文明を守ることも、やがて難しくなる。
中国の脅威への対処こそ、最も喫緊の課題である。平成28710日の参議院議員選挙で与党自民党が勝った理由もそこにあると私は考える。多くの人々が中国の脅威を感じている結果、日本の将来を任すべき政党を選んだのが今回の選挙だったのではないか。それはそのまま、民共連携が勢力を伸ばせなかった理由ではないのか。
この国をやがて社会主義に導こうと考える共産党の思想信条にいま、本当に賛同できるのか。共産党は、日本国を守る責務を引き受けている自衛隊を憲法違反と決めつけ、最終的に解散することを決めている。中国の脅威が増大する前で、本当にこのような政党に議席を与え、日本を任せられるかと言えば、大いに疑問を抱かざるを得ない。その共産党と、価値観を著しく異にする民進党が連携したことへの拒否が、参議院選挙の結果に表れたのであろう。
自民党をはじめとする改憲勢力が参議院で3分の2を勝ち取ったことで、戦後初めて衆参両院で改憲勢力が3分の2を超えた。この国民の声を活かすことが自民党の責任である。
日本国憲法を改正し、日本国を日本国として存続させるための体制をつくる時である。速やかに憲法論議を開始し、憲法改正を発議するのがよい。その際の焦点は、どう考えても、憲法前文と92項ではないか。
91項は、日本は侵略戦争はしないとするものだ。2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と明記されている。
1項は日本が守るべき価値としてそのまま残し、第2項を改正して、自衛のための戦いに必要な軍事力の保持をきちんと認め、自衛隊を国軍として位置づけることが重要である。無論、緊急事態条項も必要である。その他にも急がれる改正点があるのは当然である。
折しも、714日、各紙が1面トップで、天皇陛下が「生前退位」のご意向を示しておられると伝えた。82歳になられる陛下は、ご自身の健康上の理由からご公務の削減措置がとられていることなどを心苦しく思われて、ご意向を示されたと報じられた。現行憲法では崩御前のご退位はできないためのお考えだという報道である。宮内庁はこの情報を否定したが、皇室典範の改正も含めて私たちは皇室の在り方についても考えるべきなのだ。
こうした重要項目を中心に、憲法論議を速やかに開始し、発議し、国民の意思を問うてほしい。

日本の活躍をアジア諸国も期待している

政権与党に課せられた最大の責務は、国内的には憲法改正であるが、それだけでは日本の責任は果たされない。
中国は国際社会の忠告に耳を貸さず、これからも南シナ海及び東シナ海において、国際法違反のまま自国の権益を守ろうとするだろう。1つの方法としてフィリピンの取り込みがある。様々な経済的恩恵を与えることで、国際法を事実上否定する戦術を取ると思われる。経済的な搦め取りの背後で、常に強大な軍事プレゼンスの示威も欠かさないだろう。
経済力と軍事力を前面に立てる中国の主張が国際法に合致しないのであれば、自由と法を重視する国々は、彼らに国際法を遵守するよう働きかけなければならない。彼らが他国の領土や領海を軍事力で奪うならば、それに対する抑止力を発揮しなければならない。
その先頭に日本はアメリカと共に立つべきである。南シナ海で起きることは、必ず、東シナ海でも起きるのである。南シナ海の秩序を守ることは、東シナ海でわが国の国益を守ることと同義なのである。
21世紀のアジアの秩序は国際法、平和的話し合い、各民族の尊重という普遍的価値と原則に基づくものでなければならない。中国の暴走を抑止するために、各国が助け合う仕組みを構築することだ。1つの国に対する中国の攻撃は、各国全体で受け止める。第一義的に法と話し合いを優先する。中国が応じない場合は、アメリカを中心とする軍事的枠組みを活用する。
その際、日本はアメリカと共にアジアの秩序と安定のために、全力を尽くすべきだ。日本が口先だけの国であることは許されないだろう。だからこそ、どのような形で日本がアジアに貢献し、日本の国益をも守ることができるようになるか、そのための憲法改正はどうあるべきか、これらすべてを活発に論議するのがよい。
日本は民主主義国なのである。国民の議論を元に、日本国の姿がつくられていくことを忘れてはならない。

日本の活躍はアジア諸国の期待でもある。だからこそ、世界に向けて日本の理念を掲げよう。明治維新で発布した五箇条の御誓文と十七条の憲法の、国民一人一人を大切にし、世界に視野を広げ、公正で公平な国づくりを目指した先人たちの叡智を、私たちも身につけよう。穏やかな日本の文明を基本に置いて、雄々しさと勇気を発揮できる国民として、21世紀の人類の理想を語り、その実現に力を尽くすことが大事である。(「はじめに」より)


桜井よしこ氏 安倍内閣の憲法改正の本音について


《維新嵐》 桜井さんはいわゆる憲法改正論者ですが、その意味がよくわかる論文だと思います。
現行憲法9条改正は国防の観点から、お決まりのようによくいわれることですが、桜井氏は9条1項をはっきりと「侵略戦争の放棄」と定義づけられている点は卓見でしょう。
 現行憲法は、1929年のパリ不戦条約の「侵略戦争はダメだけど、自衛のための戦争は認める」という思想を取り入れています。その具体的な自衛戦争の定義ははっきりしませんが。国家の主権と独立を守る、国家の平和秩序を守る意味での戦争が「自衛戦争」でいいのではないでしょうか?

 そして自衛戦争は「自然権」です。主権国家であればあたりまえの権利です。それを否定してすべての戦争がだめだ的な論法の左翼思想の論理は話になりませんが、9条が自衛戦争は認めているという解釈をしない「保守論者」も同じことです。
 憲法改正は粛々と進められなければなりません。ただ改正点は9条だけではありません。9条にしろ2項で禁止する陸海軍やその他の戦力は、侵略戦争のための軍事力の禁止なのです。
 地方自治のあり方の改善、地方の権限の拡大のためにも憲法改正の検討は必要ですし、天皇の「国民統合の象徴」とは「国家元首」と同義であるという解釈も確立すべき、つまり第1条のあり方の検討も不可欠です。前文は問題ないように思いますが、変えるなら「平和国家」のブランドを崩れないような改正であれば問題ないでしょう。
 天皇の「譲位」についても言及がありますが、もう日本人の天皇観は明治維新のシンドロームから脱却すべきでしょう。元来「譲位」も「皇位継承」も天皇のご意思一つで実現できることです。薩摩だ長州だという連中が作った政権が「男尊女卑」の思想に凝り固まって作った「皇室典範」などそれこそ伝統的な「萬葉一統」の国体観に反することとも考えられます。
 我が国は明治憲法にいうような「萬世一系」の皇統できた国ではありません。南北朝時代のように皇統が二つにわれた時代もあれば、信長や秀吉が出てくる前の戦国時代のように天皇や公家がないがしろにされた時代もあるのです。女性天皇は8人だけですが、女系天皇は特に古代ではかなりの数がおみえになるのです。繰り返しますが、譲位も皇位継承も天皇が決めていいことです。ご叡慮のままに、お心のままに、「承詔必謹」の姿勢で国民は受け入れましょう。臣下がいちいちうるさくいうことではありません。皇室典範の改正を政府がやらないなら「超法規的措置」で天皇陛下のご聖断を仰ぐことで解決できるでしょう。そこで反対する国民は「国賊」というだけです。

2016年7月26日火曜日

南シナ海で決して妥協しない共産中国・「民主主義の価値観」外交で封じ込めよ!

欧州も警戒し始めた中国の独善

岡崎研究所
20160725日(Monhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7348

 仏戦略研究財団アジア部長のニケが、Diplomat誌ウェブサイトに2016611日付で掲載された論説において、先のシャングリラ・ダイアローグにおける中国の態度があまりにも悪かったことも手伝って、最近では従来アジアの安全保障に関心の低かった欧州の認識が変わってきていると述べ、仏がその牽引役となることを歓迎しています。要旨、次の通り。

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演説の荒々しいトーン
 今年のシャングリラ・ダイアローグにおいて、中国の孫建国副参謀総長は「アジア太平洋地域の文明は、調和の中で混ざり合い、相互の順応も活気に満ちている」と述べた。だがこうした人々を安心させるような言葉にもかかわらず、演説の荒々しいトーンや南シナ海で繰り返される領有権主張、仲裁裁判判決をあらかじめ拒否するといったことは、地域の大きな懸念になっている。しかもこうした懸念は、アジア太平洋の安全保障の中心から離れた国にまで広がっている。従来これらの国々は、中立ではないにせよ、バランスをとるのを好んでいたはずだ。
 その姿勢の変化は、「ハードな安全保障」に取り組まないことで知られていたEUに顕著である。中東や移民、テロといった自分たちの地域で高まる問題にもかかわらず、EUは徐々にアジアにおける利害の大きさを認識しつつある。
 こうした変化をもたらしている主要要因は、言うまでもなく中国による南シナ海での主張、国際規範の拒絶、近隣諸国に強制しているヒエラルキーシステムである。また、中国がよりアグレッシブな戦略的選択をすることは、内政要因や体制変革への懸念と直接的に関係している。シャングリラでの中国の演説は、今まで以上に主張が激しく、イデオロギー的なものであった。
 EUを含む国際社会にとっての主要課題の1つは、中国が、自らも批准している国際合意に基づくいかなる制約にも強い拒否反応を示すという点である。これは国連海洋法条約や中比仲裁裁判の判決について顕著である。これは、条約や国際約束を遵守するのは、共産党指導部が狭く規定する国益に適う場合のみだということであり、大きな不安定化要因となる。
 この点、ル・ドリアン仏国防大臣がシャングリラで述べたようなフランスの明確な立場は歓迎されるべきものだ。海洋における法の支配の原則が脅かされていることについて、ル・ドリアン大臣は、国連海洋法条約の不遵守問題は地域を越え大西洋から北極にまで影響しうることを想起させた。
 欧州における主要軍事国の1つであるフランスは、インド太平洋地域に及ぼしうる十分な軍事プレゼンスをもっている。そして、国連海洋法条約が認める航行や上空飛行の自由の原則に対する脅威は受け入れられない。伊勢志摩サミット後の共同声明でも言及されたように、ル・ドリアン大臣は、ルールに基づく海洋秩序、国際法の尊重、対話が脅しや強制、武力の行使によって妨げられてはならないことを述べた。
 欧州の海軍間で調整を行い連携することで南シナ海で欧州による航行の自由作戦を行うとの提案は、歓迎された。もしそれを実行に移せば、同提案は、すべてにおいて重要な意味を持つ地域の安定に貢献する欧州の取り組みとしてポジティブなシグナルになるだろう。
出典:Valérie Niquet,France Leads Europe's Changing Approach to Asian Security Issues’(The Diplomat, June 11, 2016
http://thediplomat.com/2016/06/france-leads-europes-changing-approach-to-asian-security-issues/
 アジアの安全保障問題について、これまで比較的関心の薄かったEU諸国が、中国の南シナ海への海洋進出に対し、強い懸念を示し始めたことは、当然とはいえ、歓迎すべきことです。特に、フランスが率先して海洋分野における法の支配を重視する言動を取り始めたことは高く評価できます。伊勢志摩サミットの首脳宣言において、海洋秩序の維持のために国際法の諸原則に基づくルールを遵守することの重要性が強調されたことの意味は大きいものがあります。
強硬かつ独善的な態度
 その後のシンガポールのシャングリラ会議において、中国側の態度が強硬かつ独善的であったことが、関係諸国の間に中国に対する警戒感を一層高めることとなりました。
 ドイツも最近、これまで以上に中国の南シナ海進出に対し、警戒感を示すようになりました。これは、先日のメルケル・習近平会談においても見られた通りです。欧州はこれまで全体としてアジアから離れているという地理的要因に加え、経済関係を通じ中国との関係を強めてきたため、中国に対し、比較的微温的な対応をとってきました。しかし、ル・ドリアン仏国防大臣の指摘するように、南シナ海の問題はやがては、大西洋から北極に至る海域でも同様のことが起こり得ることを欧州の国々に想起させることとなりました。


 フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所の判決については、日本としては、あくまでも国際法、国際ルールに基づき対処するとの立場で、米、ASEAN諸国、EUと協力しつつ対処すべきです。日本にとっては、南シナ海が東シナ海、台湾海峡に隣接し、かつシーレーンにあたる戦略上の要衝の地であることに何ら変わりはありません。

《維新嵐》 ドイツやフランスがアジアでの共産中国による権益奪取に脅威感を覚えているであろうことは、オーストラリアへ配備される潜水艦の売り込みの動きをみても理解できることでした。特に中部太平洋に領土権益をもつフランスにしてみれば、島嶼が奪われる危機感よりも、南シナ海の自由航行権の喪失の方に脅威を感じたことが潜水艦売り込みにつながったものです。南シナ海、太平洋の自由航行権あってこその島嶼権益ということですね。
 EU版のFON作戦については、以下の記事にもみられます。共産中国の海洋進出により、アメリカや欧州にも不利益を与えてしまうようです。


EUFOP作戦になるのでしょうか?
「海軍艦艇を派遣しよう」中国に対抗、フランス国防相がEU各国へ呼びかけへ
2016.6.5 16:50更新 http://www.sankei.com/world/news/160605/wor1606050016-n1.html
フランスのルドリアン国防相は201665日、欧州連合(EU)各国に対し、南シナ海の公海に海軍艦艇を派遣し、定期的に航行するよう近く呼び掛ける考えを明らかにした。シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で述べた。

 ルドリアン氏は、EUは「航行の自由」によって経済的利益を得ているとし、南シナ海情勢を懸念していると主張。「EU各国の海軍は、アジアの海域で目に見える形のプレゼンスを確保するため協調できるのではないか」と話した。(共同)

桜林美佐さんの国防ニュース最前線

中国の「南シナ海」判決無視には強硬な対応を

岡崎研究所
20160812日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7456


米下院軍事委員会シーパワー・戦力投射小委員会のランディ・フォーブス委員長(共和党)が、National Interest誌ウェブサイトに2016712日付で「ハーグは中国に対し判決を下した。それを執行する時である」との論説を寄せ、南シナ海仲裁裁判所の判決を中国が無視すれば、強硬に対応すべし、と論じています。フォーブスの論旨、次の通り。

力は正義と考える北京
 2016712日の比・中間の領土紛争についての仲裁裁判所の判決は、中国がどう反応するかによって、アジアの安全保障と戦後のリベラルな国際秩序のあり方に大きな影響を与える。第2次大戦後、米などは紛争の平和的解決、国際法順守、強制力の使用を拒否する国際的枠組みを作ってきた。この秩序は中国とアジア・太平洋の繁栄に力強く貢献した。
 中国は「責任ある利害関係者」になりたいと言ってきたが、中国の最近の行動はソ連崩壊後、この秩序に対する最も深刻な脅威になっている。中国の経済力、拡大する軍事力、常に他国の侵略意図の被害者であったとの主張は、国際システムに特に困難な問題を提起する。東シナ海から南シナ海、インドとの陸上国境において、中国は力により現場の状況を変えようとしている。南シナ海での人口島建設、東シナ海での不法な防空識別圏設定、インドのアルナチャル・プラデッシュでの挑発など、領土問題が先鋭化している。北京は国際政治では「力は正義」との考え方をとっていることを示してきた。
 判決は北京への基本的な叱責である。フィリピンが海洋法の裁判所に提訴したことは、戦後世界で米やパートナーを活気づけた原則や価値と軌を一つにしている。小さなフィリピンが巨大な中国に対し、国際法に基づき訴訟を起こし成功することは、中国の元外相の中国の行動を正当化する有名な発言、「中国は大きな国で、他の国は小さな国である。これは事実である」に対する反論でもある。
 中国がこの判決を無視すれば、中国は国際社会の建設的メンバーとして行動するとの約束の空虚さを一挙に示すことになる。しかしそれは同時に、世界第2の経済力、最大の軍を持つ国が、紛争の平和的解決を含むリベラルな国際秩序を公に反駁し、国際秩序自体に大きな脅威を与えることになる。国際安全保障への影響は大きい。米は中国による判決の拒否、あるいはマニラとの紛争の軍事的解決追求に対し、準備し、強い決意をする時である。最近、2個の空母打撃群を地域に送ったのは適切であった。もし中国が思慮のない行動をすれば、米は同盟国の側に立ち、侵略に抵抗し、我々の価値を守ることに何の疑問もないようにすべきである。
 この判決は戦後の国際秩序の価値と中国の修正主義の衝突という点で、中国の台頭の歴史の屈折点である。中国がどう反応するかは中国の問題である。しかし米はただ一つの選択肢しか持たない。フィリピンや地域の友人と共に、普遍的価値および軍やGDPの規模にかかわらずどの国も法の上に立たないとの信念を擁護するということである。
出典:J. Randy Forbes,The Hague Has Ruled against China. Time to Enforce It.’(National InterestJuly 12, 2016
http://nationalinterest.org/feature/the-hague-has-ruled-against-china-time-enforce-it-16939
今回のフィリピンと中国の紛争に関する仲裁裁判所の判決は、中国の南シナ海でのいわゆる9段線に基づく管轄権主張を国際法上根拠がないと断じ、人工島を基盤にEEZなどの海洋権益を主張することはできないとしています。
 この判決は比と中国との係争にかかわるだけではなく、南シナ海での中国の主張を全体的に否定するものです。また、航行の自由など、比以外の国、国際社会全体の利益にもかかわるものです。
国際秩序への挑戦
 さらに、この論説でフォーブスが論じているように、中国がどうするかは中国の国際法に対する姿勢、ひいては国際秩序に対する姿勢を判断する大きな材料になります。中国は、判決の受け入れを拒否し、南シナ海は歴史的に中国の領土という議論を展開し、比に働きかけてこの仲裁判断のインパクトを弱め、問題を矮小化しようとするでしょう。それが成功するか否かは、比の対応もさることながら、米、日、越、印、さらに欧州諸国が今後どういう対応をしていくかによります。
 この判決を無視することは現在の国際法秩序に挑戦することです、紛争の平和的解決の原則に反するものであるとして、議論をしていくことが肝要です。それがこの地域で「力ではなく、ルールによる国際秩序」を守っていくために必要であり、中国による「拡張主義」を抑えていくことにつながるでしょう。
 この判決で好都合な機会が出てきたと思われます。十全にこの機会を利用すべきです。中国が反発し、南シナ海でADIZ設定をするような場合、直ちにそれを無効化するような行動を取るべきです。緊張の激化を恐れると、より悪い緊張が出てくるでしょう。
《維新嵐》 自分たちに都合の悪い国際判決だったからといって、これを「紙屑」よばわりしている共産中国の態度は、とても国連の常任理事国とは思えない自己中心的な態度です。はっきりいって国際仲裁裁判所をなめていますね。要するに既存の国際法に対する公然とした「挑戦」でしょう。あくまで自国中心の政策を貫くのなら共産中国は、国連の常任理事国からおりるべきです。台湾に譲るべきです。
オバマが訴える民主主義の団結

岡崎研究所
20160811日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7455

オバマ米大統領は、201678日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、論説を寄せ、NATO首脳会議に向け、かつ英国のEU離脱を踏まえ、欧米民主主義陣営の団結を呼びかけ、団結すれば勝利する、と論じています。オバマ大統領の論旨は、次の通りです。

NATOにとって重要な時
 今は、冷戦後、大西洋同盟にとって最も重要な時かもしれない。オーランド、パリ、ブリュッセル、イスタンブールでIS(イスラム国)のテロ攻撃があった。アフリカ、シリア、アフガンの紛争は難民の波を欧州に送っている。ロシアのウクライナ侵略は自由で平和な欧州のビジョンを脅かしている。英国のEU離脱は欧州統合の将来に疑問を提起している。
 ワルシャワでのNATO会合では、NATO諸国が政治的意思を奮い立たせ、問題に具体的に対処するコミットメントをすべきである。英国とEUは秩序だった移行に合意するだろう。英EU関係は変わるが、変わらない側面も想起する価値がある。米英間の特別な関係は続くだろう。英国がNATOの最も有能なメンバーの一員であり続けることに、私は何の疑問も持っていない。
 同様に、米国にとりEUは不可欠なパートナーであり続ける。米EU投資・貿易関係は世界最大であり、米国の世界との関与の要石であり続ける。英国のEU離脱が不確実性をいくらか作り出したが、我々の繁栄は岩のように固いNATOを基盤に続いて行くだろう。ワルシャワで我々は、すべてのNATO同盟国を守るとの条約5条の義務を再確認しなければならない。また、中・東欧の同盟国の防衛を強化し、サイバー攻撃を含む新しい脅威への強靭性を高めるべきである。EUNATOの安保協力を深め、ウクライナへの支援を増やす必要がある。ロシアとの建設的な関係にはオープンであるが、ロシアがミンスク合意を完全に履行するまで、制裁は維持されることに合意すべきである。
 NATO域外では、もっと世界の安全保障のために、特に欧州の南でより多くのことをやらなければならない。ISや難民を搾取する犯罪組織の問題がある。私は今週アフガンの駐留米軍のレベルを維持すると決定したが、これはアフガン部隊の訓練というNATOの任務に同盟国も協力することを奨励する。
最後に、NATO諸国は共同防衛にもっと投資すべきである。NATO諸国の防衛支出は減少から増加に転じてきているが、この進歩は維持されるべきである。
 大西洋同盟は70年間成功してきた。一緒にやることでもっと安全になる。我々は単に軍事的な同盟国ではない。我々は民主主義などの共通の価値で団結している。過去70年の教訓は、我々が団結し、民主主義の価値に忠実であれば勝つということである。
出典:Barack Obama Americas alliance with Britain and Europe will endure (Financial Times, July 8, 2016)
https://next.ft.com/content/ededcb24-4444-11e6-9b66-0712b3873ae1
この論説は、西側民主主義陣営の指導者として、米国大統領が言うべきことを言ったもので、評価できます。難民問題で引き裂かれ、英国のEU離脱で分裂し、金融・経済の不確実性に見舞われ、各国で極右勢力が力を得、EU統合の理念に疑問が提起される中で、オバマ大統領が共通の価値で結ばれた大西洋同盟の団結を呼びかけ、その強靭性についての信念を表明したことは歓迎されます。
分裂はプーチンを利する
 英国のEU離脱を含む欧州の問題は、冷戦後、フランシス・フクヤマが「歴史の終わり」で宣言した自由民主主義の最終的勝利との命題を、否定するような様相を呈してきています。中露が代表する権威主義的な、不自由ではあるが効率的な政治のあり方が有利になってきているとの論説も多いです。主として米国が作ったリベラルな国際秩序が退潮しているとの論も多くあります。欧州の混迷、分裂は、ロシアのプーチン大統領を大きく利するものです。
 しかし、自由民主主義陣営の混乱が少し大げさに論じられ過ぎている感は否めません。経済の面でも、多くの国にとってのあるべき姿を示していますし、ソフト・パワーの面でも、自由民主主義陣営は今なお相当に強靭であると判断して間違いないでしょう。変化に目を奪われがちになるのは人の常ではありますが、オバマ大統領が言うように、変わっていることのほかに変わっていないことを想起することも大切です。西側や自由民主主義陣営の没落の予言は当たらないでしょう。
 今の時点でオバマ大統領が西側の団結と力への自覚を呼びかけたのは、時宜を得ています。実際、NATO首脳会合では、4000人の移動部隊が新設される等で合意がなされ、団結を謳い上げるなど、オバマ大統領の言うような結果になりました。
《維新嵐》 アメリカとNATOとの関係のお話しですが、民主主義と自由主義による「価値観外交」により、アジアもうまくまとまれないものかと思います。少なくともASEANは、ハーグの裁定とという点においてはまとまれませんでした。日米同盟がアジアでは安全保障の「核」ですね。
NATO・軍事訓練を開始!
NATOにロシアを加盟させて、アジアでは日露において安全保障条約が締結され、日米露による安産保障体制が確立すれば、それが共産中国への封じ込めになるかと思うのですが、日露の間にクサビを入れるかのような「北方領土問題」がある限り、この「夢の三国同盟」は実現しそうもありませんな。

アメリカがアジアで抱える悩ましい問題・政策転換するインドとどう協調するか?

ニクソン訪中以後最悪の米中関係
岡崎研究所
20160718日(Monhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7303

1972年のニクソン訪中以来、今ほど多くの問題で米中両国が鋭く対立したことはあまりなく、「米中戦略経済対話」でも、協力より競争が勝り、せいぜい事態の悪化を食い止めることぐらいだろうと、6410日号の英エコノミスト誌が述べています。要旨は、以下の通りです。
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露骨になってきた中国の挑戦
 米国主導の世界秩序に対する中国の挑戦は露骨なものになってきた。中でも、南シナ海での人工島造成は、沿岸諸国を揺さぶり、米国の海軍力の優越性の空虚さを露呈させた。米国の力も、中国の建設攻勢は抑止できず、本格的な戦争以外、人工島を解体する、あるいは中国の支配下からもぎ取る術があるとは思えない。そうした中、米中は互いに相手が南シナ海を軍事化したと非難した。さらに、人工島造成の目的は純粋に非軍事的なものだと言ってきた中国国防部は、先月起きた自国戦闘機の米軍偵察機への異常接近事件を利用して、「防衛施設建設の完全な正しさと絶対的必要性」を主張している。
 米国を不安にさせているのは、南シナ海での中国の振る舞いが、あるパターンに合致しているように思えることだ。3月にカーター国防長官は、「海洋においても、サイバー空間においても、グローバル経済においても、中国は他の国々が努力して築いた原則や体制から利益を得てきた」と、歴代の米大統領が言ってきたことを改めて強調した。中国ほど現行の体制の恩恵に与った国はないのに、今や中国は独自のルールに基づいて動き、その結果、「自らを孤立させる長城」を築いていると指摘した。これに対し、中国は、米国も独自のルールで動くと反論。中国外務省の報道官は、カーターは「冷戦時代」に留まっており、米国防省は中国をハリウッド映画の悪役の固定イメージで見ていると非難した。
 実際、カーターが示唆したように、米中が反目しているのは、海洋での冒険主義だけではない。両国の間では従来からの不和が拡大する一方、新たな不和も生じている。例えば、米国の指導者にとり、中国が反政府派への弾圧を強める中で、人権派ロビイストの主張を無視するのは難しい。経済界も中国のサイバー・スパイ行為や知的財産の窃盗、米中投資協定の協議の行き詰まり、そして、中国の経済政策が開放よりも自給自足と保護主義に向かっていることに不満を抱いている。鉄鋼等の中国製造業の過剰生産能力が貿易摩擦を生み、米大統領選で反中演説を煽っていることもマイナスに働いている。
 かつては、多くの分野で対立していても、米中関係は非常に複雑かつ重層的なので、そこには必ず双方の利益になる分野があり、緊張緩和に繋がると言われていた。現在両国の関係がこれほど緊張している理由の一つは、そうした分野がほとんどないことにある。今最も有望なのは、クリーンエネルギーとCO2排出制限の推進であり、北朝鮮問題でも米中は協力している。しかし、後者について、中国は核よりも、制裁の実施で金政権が倒れることをより懸念しているのではないかとの疑念は拭えない。
 戦略経済対話の成果に懐疑的になる最後の理由は、両国首脳の政治的事情だ。本来、「戦略経済対話」は官僚の協議の場だが、習近平はいくつもの党小委員会の委員長となって自らに権限を集中し、官僚は脇に追いやられている。そのため北京で米国は不適切な相手と協議することになる可能性がある。一方、米国では、オバマ政権は終わろうとしている。中国は南シナ海で強硬な行動に出るに際し、オバマの慎重な外交姿勢を考慮に入れていた可能性がある。トランプの下であろうと、クリントンの下であろうと、米国はオバマ政権の時ほど柔でなくなると中国が見ているのは間違いない。
米中戦争の開戦間近! 青山繁晴氏

《維新嵐》アジア太平洋において最大の脅威であるアメリカとの経済関係を密にして、アメリカ政府内での「親中派」を拡大、知的財産の窃取、執拗なサイバー攻撃(情報窃取)、ヒューミントによる情報窃取、南シナ海での人工島建設、東シナ海尖閣諸島への軍事的接近とアメリカからの親中度をみながら政治目的をはたしてきた、という共産中国の巧妙な政治戦略を感じ取ることができる。今後アメリカがアジア太平洋での利権を守っていくためには、共産中国が、「潜在的に」抱えている国内の弱点を洗い出し、外交的な課題として圧力をかけることは必須になってくることだろう。太平洋リバランスによる軍事的な戦略、FON作戦にみられる軍事作戦だけでは、習近平政権の屋台骨を崩すことにはならない。
アメリカの戦争が終わらない理由
 岡崎研究所
 20160722日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7308

在ニューデリー政策研究センター教授のブラーマ・チェラニーが、Project Syndicate614日で掲載された論説において、アフガニスタンにおけるタリバンの攻勢と戦争が終わるかどうかは、パキスタンにかかっており、米国はパキスタンによるタリバンへの聖域提供を止めさせるため、対パキスタン経済・軍事援助を梃子に使うべきであると述べています。論説の趣旨、以下の通り。
攻勢を強めるタリバン
パキスタンの国旗(iStock

 アフガニスタンでタリバンが再び攻勢を強めているが、米国の歴史で最も長い戦争が終わらない重要な理由はパキスタンである。米国はビンラディンに続いて、タリバンの指導者マンスールもパキスタン領内で殺害したが、これはマンスールをかくまっていないと言い続けたパキスタンの欺瞞を再び明らかにするものであった。
 オバマ政権の政策は、パキスタンの軍部の支援を受けて、タリバンと取引し和平を実現することであった。そのためパキスタンおよびタリバンとの対決を避けた。アフガニスタンのタリバンは、米国のアフガン攻撃が始まってすぐ、パキスタンのバロチスタン州に指揮命令の本部を設置したが、米国は最近になってようやくバロチスタン州をドローンで攻撃した。
 米国は昨年(2015年)7月にタリバンの指導者に任命されたマンスールと交渉しようとしたが、マンスールが非妥協的であったので、オバマ政権は遅まきながら、タリバンに対して飴ではなく鞭、それも大きな鞭を使うようになった。しかし米国がアフガニスタンでの戦争に終止符を打つためには、基本戦略を再考しなければならない。
 現実は、タリバンのパキスタンでの聖域をなくさない限り、タリバンを打ち負かすことや、タリバンとの和平を実現することはできないということである。聖域をもっているテロリストグループを相手に、テロ撲滅運動が成功したためしはない。
 端的に言えば、パキスタン軍部を買収しようとしても無駄である。過去14年間、米国はパキスタンに330億ドル以上の援助と、F-16P-3C、対艦ミサイルハープーン、対戦車ミサイルTOWなどの攻撃兵器を供与した。しかしパキスタンはタリバンに聖域を提供し続けた。
 米国は対パキスタン支援をタリバンに対するパキスタンの具体的行動に結びつけるべきである。と同時にISI(パキスタンの情報機関)をテロ団体に指定し、パキスタンに強いシグナルを与えるべきである。
 オバマは昨年(2015年)10月アフガニスタンへの関与を続ける決定をしたが、これは米国がアフガン・パキスタン国境の間違った側で戦争を続けることを意味する。多分彼の後継者が、アフガニスタンでの戦争の終結のカギはパキスタンにあるという事実を、遅まきながら認めることになるだろう。
出典:Brahma Chellaney,Obamas Bitter Afghan Legacy’(Project Syndicate, June 14, 2016
https://www.project-syndicate.org/commentary/afghan-war-obama-pakistan-by-brahma-chellaney-2016-06
 ブラーマ・チェラニーは、インドの著名な戦略家で、著作も数多くあります。この論説は、パキスタンと対立するインドの視点を強く反映したものとなっています。しかし、「インド要因」を割り引いたとしても、パキスタンがタリバンに聖域を提供していることが、タリバンに対する強力な支援になっていることは事実です。聖域はベトナム戦争のべトコンの例でも明らかなように、戦闘集団の戦闘継続を可能にするものです。
アフガニスタンの戦争を終わらせることが至上命令
 パキスタンは以前より、インドに対抗してアフガニスタンにおける影響力を維持、強化するためタリバンを支援してきたものであり、米国からの圧力があるからと言って一朝一夕にタリバン支援を止めるわけにいきません。
 チェラニーは、パキスタンのタリバン支援を止めさせるために、米国は対パキスタン支援を梃子に使うべきであると説いていますが、米国にとってパキスタンは重要なパートナーであり、いくらアフガニスタンの戦争を終わらせることが至上命令であるからといって、簡単に対パキスタン支援を梃子に使うわけにもいきません。
 パキスタンも米国もジレンマを抱えているのであり、問題解決の方程式は簡単なものではありません。アフガニスタン情勢は、和平への糸口を見出す努力は引き続き行われるものの、当分の間は戦闘が続くものと見なければならないでしょう。
本来はもう終結しているはずの戦争とは思いますが・・・。
《維新嵐》パキスタンの側からすれば核保有国であるインドを戦略的に牽制するために、アフガンのタリバン政権を支援してきたことが、アメリカのブッシュ政権がおこしたタリバン掃討戦への協力を躊躇させてきた要因ということですか。パキスタンにも地政学上、政治的な安保事情がありますからね。アフガンに「親米政権」を樹立させることはアメリカの事情でしょうが、アメリカとパキスタンが同じ政治事情を共有しているわけではないことが、あらためてわかります。ほとんど「泥沼化」したアフガン戦争ですが、パキスタンやインドを監視調停役にして幕をおろせないものでしょうか?
「押し返す」インド外交
岡崎研究所
20160720日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7305

エコノミスト誌611-17日号は、これまで遠慮がちだったインドはモディ首相の下で「押し返す」外交に転じ、核保有国としての承認を求めて精力的に動いている、と報じています。要旨、次の通り。

「非同盟」主義だったインド
 インド外交は伝統的に「非同盟」主義を採ってきた。これは実際には、世界と距離を置き、周辺諸国には過敏なまでに慎重に対応することを意味する。中国がまさにそのケースで、インドは中国の手厚い対パキスタン経済・軍事支援や、ネパールやスリランカをインドの影響圏から引き離そうとする動きに対しても強く出ることはなかった。しかし、モディの下でそうした姿勢は変り、今や「押し返すこと」がインド外交の合言葉になった、と言う専門家もいる。
 モディ首相は最近の外遊でこのことを示している。5月に訪問したイランでは同国とアフガニスタンを結ぶ鉄道・港湾の開発を約束したが、同ルートが、中国の計画するパキスタン経由のエネルギー及び運輸インフラと並行しているのは偶然ではない。
 また、モディは201664日、アフガニスタンで水力発電所を落成させたが、そこにはアフガン政府支援だけでなく、インドがパキスタンと違って寛大で責任ある国であることを誇示する意図があった。
 続いてモディはスイス、米国、メキシコを歴訪したが、目的は長年の複雑なインド外交の完遂にあった。インドは数十年来、核保有国としての国際的承認を求めてきており、近くミサイル関連技術輸出規制管理レジーム(MTCR)に加盟する。しかし、核拡散防止に努め、民生用原子力の安全規制要件を受け入れているにも拘らず、インドは核のエリートクラブたる原子力供給国グループ(NSG)からは締め出されている。これは、インドのような大国にとって屈辱的であるだけでなく、有用な核関連技術や市場にアクセスできないために余分なコストにも繋がっている。
 ただ、10年前、米国はインドの気を引こうと、他のNSG諸国に逆らってインドと民生用原子力に関する二国間協定を結び、さらに、2008年には強情な中国を説得して、インドとの核関連技術取引について限定的な例外を認めさせた。現在インドは、今月後半に開かれるNSGの会合を事態進展の好機と見て、NSG正式加盟獲得にいっそう力を入れている。
 インドの動きを非難の目で見ていたスイスやメキシコ、そして核アレルギーの日本も、今やインドのNSG加盟を支持している。イタリアも、インド人漁民を海賊と誤認して殺害したイタリア人海兵隊員をインドがイタリアに送還すると、インドのMTCR加入に反対しなくなった。
 一方、中国は西側諸国のインド接近に神経を尖らせている。中国が恐れているのは、モディは米国との良好な関係を利用してインドを優位にしようとするのではないかということだ。実際、ペンタゴンはここ数年、強大化する中国への対抗策の一環としてインドに言い寄ってきた。しかし、インド軍関係者が米国との協力に熱意を示し始めたのはつい最近のことだ。6月、米印日はインド洋ではなく、日中が領有権を争う尖閣諸島近くの海域で海軍合同演習を行う。また、モディは68日の米議会両院合同会議直前の演説の中で、米国はインドの「不可欠なパートナー」だと述べた。米印があからさまな軍事同盟を結ぶ可能性は低いが、僅かでもその可能性があれば中国はそこに全神経を注ぐことになろう。
出典:‘Modi on the move’(Economist, June 11-17, 2016
http://www.economist.com/news/asia/21700459-once-diffident-india-beginning-join-dance-modi-move
論説は、インドがモディ首相のもと、積極外交に転じていることの例として、中国を意識したイランとアフガニスタンを結ぶ鉄道・港湾の開発、アフガニスタンでの水力発電所の落成、米国との関係の緊密化を挙げています。米印関係緊密化がアジアの地政学に重要な影響を与えること、それが我が国にとり歓迎できるものであることは、言うまでもありません。
 論説はその他に、インドと原子力供給国グループ(NSG)につき、かなりのスペースを割いて論じ、インドが核拡散防止の重要な国際レジームであるNSGから締め出されていることは、インドにとって屈辱である、と言っています。
NPT不参加国
 インドは論説も言うように、核拡散防止に努めてきていますが、核不拡散条約(NPT)不参加国であるという理由で、その努力は十分評価されていません。NPTはインドにとって非合理的な条約です。インドは1974年に最初の核実験を行い、現在80発前後の核弾頭を保有しているれっきとした核保有国ですが、NPTが「核保有国」を、「196711日以前に核実験を行った国」としているため、インドはNPT上核保有国と認められていません。インドにしてみれば、なぜ中国が核保有国として認められ、なぜインドが認められないのか納得できません。その上、NPT不参加国ということで、核不拡散の努力が十分認められないのです。
 NSGについては、核不拡散体制に十分協力すれば、NPT当事国であることは参加の条件ではありません。インドは核不拡散体制に十分協力的であると考えられますので、インドのNSG参加は認められるべきであり、我が国も支持すべきです。インドのNSG参加は、インドを国際的責任を果たす国として認めることを意味し、インドの積極外交を後押しすることになるでしょう。
《維新嵐》共産中国のように広域での海洋権益拡大政策はとらず、日米やASEAN諸国とも協調しているからか、「脅威感」を周辺からもたれにくい印象があるインドですが、このアジアの東西をつなぐ地勢にある核大国は、共産中国の動向いかんによっては、国際社会への発言力、影響力拡大のチャンスをうかがっているようにもみえます。NPT条約に非加盟とは意外でしたが、こうした「潜在的な核保有大国」の存在が共産中国の脅威への抑止として存在感を発揮されることを期待します。