2017年3月30日木曜日

アメリカによる北朝鮮「予防的先制攻撃論」

米国で北朝鮮攻撃が議論の的に、日本は備
えを急げ

ソウルは火の海に、日本も報復攻撃されることは確実
北村淳
韓国・ソウルの街並み。米国が北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けると、ソウルは北朝鮮から報復攻撃を受けることになる(資料写真)

「先制攻撃にせよ予防攻撃にせよ、北朝鮮を軍事攻撃した場合は直ちに北朝鮮から報復攻撃を受け、第2次朝鮮戦争がスタートすることになる」
 先週、韓国紙(英語版「Korea Times」)で、ジョージタウン大学のロバート・ガルーチ教授が警告した。
 もともと大学教授であったガルーチ氏はビル・クリントン政権に加わり、アメリカ側の首席交渉官として「米朝枠組み合意」(1994年)の成立に尽力した。その後、再び大学に戻り、現在はジョージタウン大学で外交を教えている(北朝鮮はしばらくの間「米朝枠組み合意」を履行していたが、徐々に困難に直面し2003年に決裂した)。
 トランプ政権は「過去20年にわたる北朝鮮に対する“関与政策”は失敗であり、今後は軍事攻撃も含むあらゆるオプションを実施する」といった方向性を打ち出している。それに対してガルーチ氏は、「封じ込め政策」でなく「関与政策」こそが有効であると反論している。
 そしてガルーチ氏は上記の警告に続けて、「(北朝鮮を軍事攻撃するからには)アメリカと同盟国は第2次朝鮮戦争に備えねばならない。しかしながら、アメリカも同盟国も戦争には備えていないではないか」と強い懸念を表明している。
在韓米軍は「常に準備万端」
このようなガルーチ氏の懸念に対して、朝鮮半島に戦闘部隊を展開させているアメリカ陸軍関係者は、「我々(アメリカ軍と韓国軍)は、勃発するしないにかかわらず第2次朝鮮戦争には常に備えている」と反論する。


 彼らによると、朝鮮半島には「Ready to Fight Tonight!」をモットーとするアメリカ陸軍第2歩兵師団が常駐しており、いわゆる38度線を越えて押し寄せてくる北朝鮮軍に対して常に準備万端なのだという。
 北朝鮮軍は、極めて旧式装備とはいえ、兵力110万、戦車4000輛、重火砲15000門を擁する強大な戦力である。だが、近代的装備と優れた戦術情報環境を手にしているアメリカ軍と韓国軍側は、北朝鮮軍に効果的に反撃することができると胸を張っている。
避けられない民間人の犠牲
ただし、そのように主張する陸軍関係者も、準備態勢に問題がないとしているわけではない。
 ガルーチ氏が指摘しているとおり、アメリカ軍にせよ韓国軍にせよ、北朝鮮を軍事攻撃した場合には、すぐさま北朝鮮による報復反撃が韓国に加えられることは確実である。とりわけソウル一帯には1時間近くにわたって砲弾やロケット弾が雨あられと降り注ぐことはもはや周知の事実となっている。そのため、極めて多数にのぼる一般市民(韓国市民のみならず多くの外国人も含む)の死傷者が出ることは避けられない。1000万人以上の人口を擁するソウルとその周辺一帯における死傷者数の推計は不可能に近く、死者数万名、負傷者数十万名でもおかしくないといわれている。
 今のところ、このような事態を避けることは不可能である。よって、ソウル一帯の壊滅的損害に着目するならば“第2次朝鮮戦争に対する準備が整っていない”と言えなくはないのである。
 軍隊が果敢に防戦に努めても、数万名の民間人が犠牲になることが前提では、戦争に対する準備が整っているとは言いがたい。
北朝鮮による砲撃訓練

ソウルへの報復攻撃を封じるのは困難
 北朝鮮の報復攻撃とそれによって生ずる莫大な数の民間人の犠牲といったこうした悲惨な状況は、ガルーチ氏のように北朝鮮への軍事攻撃そのものに反対を唱える人々だけでなく、北朝鮮に対する予防攻撃は場合によってはやむを得ないと考えている人々にとっても共通してきわめて悩ましい難問である。
「アメリカ本土に達する可能性がある核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北朝鮮が手にする以前に、北朝鮮の核兵器関連施設を破壊しておく必要がある」と考えている戦略家たちの間でも、「ソウル一帯での膨大な非戦闘員の死傷者はどうするのか?」は最大の論点になっている。
 多くの軍関係者たちは、北朝鮮に対する軍事攻撃の必要性は認めつつも、実際には極めてハードルが高い軍事作戦になると考えている。なぜならば「ソウルに対する報復攻撃を避けるには、核関連施設だけでなく、国境地帯に展開する北朝鮮軍も一掃せねばならず、それも急襲によって一気に殲滅しなければならない。したがって、とても局所を狙ったピンポイント攻撃といった軍事行動では済まなくなり、第2次朝鮮戦争をこちらから仕掛けざるをえない」からだ。
 一方、「北朝鮮がICBMをはじめとする核兵器を手にした場合に生ずる結果を考えるならば、ある程度の犠牲はやむをえない」との考えも見受けられる。
 例えば極めて少数ではあるが、「広島と長崎に原爆攻撃を実施する際にも、敵側に多くの民間人犠牲者が出ることに関して議論が闘わされた。しかしながら、原爆攻撃を実施せずに上陸作戦を敢行した場合に予想された我が軍側と日本軍ならびに日本国民の莫大な死傷者数予測を考えた結果、やむを得ず原爆攻撃に踏み切ったのだ」という米陸軍による公式見解を引き合いに出す関係者もいる(ただし、米海軍や海兵隊にはこのような説明に異を唱える人々も少なくない)。


いずれにせよ、最終的な決断を下すのは軍隊ではなく、トランプ政権の専決事項である。したがって軍隊は、攻撃命令が下された場合に核関連施設破壊作戦や金正恩一派排除作戦を成功させる準備を万全に整えておくのが、軍事組織としての責務である。
相変わらず平和ぼけ状態の日本
米軍関係戦略家や外交政策関係者たちの間では、現在、上記のような議論が沸騰している。ところが、日本も当事者にならざるを得ないのにもかかわらず、日本政府・国会においては米軍による北朝鮮軍事攻撃に対する準備はガルーチ教授の指摘の通り「全くしていない」状態だ。
 米軍関係者たちの頭を悩ませているソウル一帯での莫大な数の民間人犠牲者の中には、多くの日本国民も含まれている。そのことを日本政府・国会は認識しているのであろうか?
 韓国全体には4万名近くの日本国民が在留しているという。それらの人々を救出するのは、アメリカ軍ではなく自衛隊だ。
 また、北朝鮮による報復攻撃は、ソウル一帯や韓国内に限らず日本国内の米軍施設や日本の戦略ポイント(たとえば原子力発電所、火力発電所、石油化学コンビナートなど)に対して敢行されることもほぼ確実である。北朝鮮軍は現在も(数年前に比べて在庫は減っているとはいえ)、日本各地を射程圏に納めている弾道ミサイル(スカッド-ER、ノドン)を100発近く保有している。そのため、少なくとも50発の弾道ミサイルが日本に向けて報復発射されるであろう。
北朝鮮の対日攻撃弾道ミサイルの射程圏

 日本政府・国会は、日本国民に迫り来ている深刻な危機に、いつまでも目を背けていてはならない。

《維新嵐》いかに北朝鮮が核弾頭とミサイルを保有し、核弾頭の小型化に成功したといってもアメリカとは軍事力だけみても圧倒的な格差があります。天と地ほどの格差がある場合には、つまり「間違いなくアメリカが勝利できる」見込みが固まってくれば、イラク戦争のように「予防的先制攻撃」は復活することは大いにあるでしょう。しかも今回は大量破壊兵器にあたる兵装を北朝鮮は保有しているわけですから「大義名分」にも困りません。ガチで朝鮮戦争が始まれば、北朝鮮は一たまりもないはずです。やろうと思えばすぐに攻撃できる北朝鮮ですが、共産中国をはじめ国際社会の世論をみながら軍事攻オプションはとっていないのでしょう。
北朝鮮の弾道ミサイルへの対策、共産中国の南シナ海への覇権拡張主義により、俄然日米の軍事協力が深まってきたように思います。

海自と米空母が今月2度目の共同訓練
東シナ海で異例の実施 中国を牽制


 海上自衛隊は平成29329日、東シナ海で27~29日の3日間にわたり、日米共同訓練を行ったと発表した。海自からは護衛艦計5隻が、米海軍からは原子力空母カール・ビンソンなど計3隻が参加し、艦隊を組んだ上で戦術運動の確認や通信訓練などを行った。
 海自は平成293月7~10日にも東シナ海で同様の共同訓練を実施しており、月に2回もこのような訓練を行うことは珍しい。日米同盟の強固さをアピールするとともに、東・南シナ海で強引な海洋進出を続ける中国を牽制する狙いがある。
 訓練に参加した護衛艦は「ゆうだち」「さみだれ」「さざなみ」「うみぎり」「はまぎり」の5隻。
平成28年日米共同軍事演習


米海軍特殊戦舟艇部隊 「SWCC」 プロモーション・ビデオ 
2012/11/10 に公開 ネイビーシールズ だけが 米海軍特殊部隊ではない。U.S. Navy Special Warfare Combatant-Craft Crewman (SWCC) 「スイック」という特殊部隊もある。米海軍の公式チャンネルからの動画ですが凄いですね。自衛隊では とてもこのようなPVを作れないでしょう。 https://youtu.be/wAch1bf7lHw  
ネイビーシールズ 特別映像 
2012/06/29 に公開 『ネイビーシールズ』/6月22日(金)より全国公開 公式サイト:http://navyseals.gaga.ne.jp/official/ ギャガ 配給 (C)2012 RELATIVITY MEDIA, LLC [c]2012 IATM, LLC https://youtu.be/7CclcVO4NLo

北朝鮮をめぐる“危険”

米は武力行使まで言及も「日本も無傷では済まない」
内部崩壊の可能性もあり
米空軍が擁する史上最強の戦闘機F-22ラプター。万一、北朝鮮との“実戦”になれば、弾道ミサイル発射車両を攻撃する役目を担う可能性が高い。


2017年3月26日日曜日

アメリカ国防長官が会談で南シナ海に言及しなかった理由 世界はトランプドクトリンを求めている!?

米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか

トランプ政権の南シナ海政策に揺さぶりをかける中国
北村淳
中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017319日撮影)。(c)AFP/Lintao ZhangAFPBB News

トランプ政権のレックス・ティラーソン国務長官(元エクソン・モービルCEO)が日本、韓国を訪問した足で中国を訪問し、王毅外相、習近平国家主席と会談した。
 中国当局は、トランプ政権国務長官の初の訪中を前に、南シナ海のスカボロー礁に環境観測所を建設する方針を明らかにした。
最後に残された焦点、スカボロー礁
南シナ海での軍事的優勢を手にする海洋戦略を推し進める中国は、西沙諸島を手に入れ、南沙諸島での優勢的立場も手にしつつある。そして、スカボロー礁に対する軍事的コントロールの確保が、中国海洋戦略にとって残された重要課題となっている。
 フィリピン沿岸から230キロメートルほど沖合に浮かぶスカボロー礁は、マニラから直線距離で350キロメートル程度しか離れていない。そして、アメリカ海軍がフィリピンに舞い戻ってきた場合に主要拠点となるスービック海軍基地からも270キロメートル程度しか離れていない戦略的要地である。
 スカボロー礁には1990年代末からフィリピン守備隊が陣取っていたが、2012年に人民解放軍海洋戦力がフィリピン守備隊を圧迫・排除して以来、中国が実効支配を続けている。ただし、フィリピンと台湾もスカボロー礁の領有権を主張しており、いまだに決着していない。
中国人民解放軍による南シナ海コントロールの状況。南シナ海は国際通商航路帯(シーレーン)が縦貫する
スカボロー礁もいよいよ軍事拠点化
スカボロー礁より550700キロメートルほど南西には南沙諸島の島嶼環礁が点在しており、そのうちの7つの環礁に中国が人工島を建設し軍事拠点化している(その状況は本コラムでも繰り返し取り上げているとおりである)。
 オバマ政権は、そうした中国による人工島建設作業を半ば見過ごした形になってしまっていたが、強力な軍事施設の誕生を目にするや、ようやく(遠慮がちにではあるが)中国に対して警告を発し始めた。
 とりわけスカボロー礁に関しては、「中国がスカボロー礁に人工島や軍事施設を建設することは、アメリカにとってレッドラインを越えることを意味する」と強い警告を発した。

(参考・関連記事)「レッドラインを超えた?中国がスカボロー礁基地化へ~アメリカの対応は相変わらず口先だけなのか」


 警告を発した2016年夏の段階では、中国によるスカボロー礁の埋め立て作業や人工島建設作業などはまだ実施されていなかった。その後もしばらくの間、スカボロー礁の本格的埋め立て作業は確認されていなかった。
 だが、今年に入ってフィリピン政府が「中国がスカボロー礁を軍事拠点化しようとする兆候を確認した」と警鐘を鳴らし始めた。
米国の“本気度”を試した?
 トランプ政権は、中国による南シナ海の支配権獲得行動に強い危機感を表明している。ティラーソン国務長官は、「中国が南シナ海をコントロールすることは何としてでも阻止しなければならない。そのためには中国艦船が人工島などに接近するのを阻止する場合もあり得る」といった趣旨の強固な決意を語った。
 そのティラーソン国務長官が訪中する直前、三沙市市長がスカボロー礁を含む6カ所の島嶼環礁に「環境観測所」を建設することを公表した(三沙市は、南シナ海の“中国海洋国土”を統括する行政単位。政庁は西沙諸島の永興島に設置されている)。「環境観測所」建設の準備作業は2017年の三沙市政府にとって最優先事項であり、港湾施設をはじめとするインフラも併設するという。
 これまで中国が誕生させてきた人工島の建設経緯から判断するならば、観測所に併設される港湾施設や航空施設などの各種インフラ設備は、いずれも軍事的使用を前提に建設され、観測所は同時に軍事基地となることは必至である。この種の施設を建設するには、スカボロー礁の埋め立て拡張作業は不可欠と考えられている。
 中国に対して弱腰であったオバマ政権ですら、「スカボロー礁の軍事基地化を開始することは、すなわちレッドラインを踏み越えたものとみなす」と宣言していた。そして、トランプ政権が誕生するや、外交の責任者であるティラーソン国務長官は「中国による南シナ海支配の企ては、中国艦船を封じ込める軍事作戦(ブロケード)を実施してでも阻止する」といった強硬な方針を公言した。
 そのティラーソン国務長官が訪中する直前に、中国側はスカボロー礁に環境観測所を建設する計画を発表したのである。まさにトランプ政権の南シナ海問題に対する“本気度”を試した動きということができよう。
南シナ海問題は後回しに
中国を訪問したティラーソン国務長官がどの程度南シナ海問題(とりわけスカボロー礁に関する中国の動き)を牽制するのか、アメリカ海軍関係者は大いなる関心を持っていた。
 ところが、ここに来て急遽、アメリカにとって中国との関係悪化を食いとどめなければならない事態が発生してきた。すなわち、北朝鮮のアメリカに対する脅威度が大きくレベルアップしたのだ。
 軍事力の行使を含めて「あらゆるオプション」を考えているトランプ政権としては、中国の北朝鮮に対する影響力を最大限活用せざるを得ない。要するに「あらゆるオプション」には、いわゆる斬首作戦をはじめとする軍事攻撃に限らず、「中国を当てにする」というオプションも含まれているのだ。
 そのためティラーソン長官としては、この時期に中国側とギクシャクするのは得策ではないと判断したためか、北京での会談では南シナ海問題に言及することはなかった
 いくら中国が南シナ海をコントロールしてしまったとしても、それによってアメリカに直接的な軍事的脅威や経済的損失が生ずるわけではない。ところが北朝鮮の核弾道ミサイルはアメリカ(本土はともかく、日本やグアムのアメリカ軍基地)に直接危害を加えかねない。したがって、南シナ海問題を後回しにして北朝鮮問題を片付けるのが先決という論理が現れるのは当然であろう。
日本は腹をくくった戦略が必要
アメリカが強硬な態度に出られないのは、中国がすでに南シナ海での軍事的優勢を確保しつつあり、その状況を覆せないという事情もある。
 いくらトランプ政権が「スカボロー礁はレッドライン」と警告し、ティラーソン長官のように「南シナ海でのこれ以上の中国海軍の動きは阻止する」と言ったところで、現実的には現在のレベルのアメリカ海洋戦力では虚勢に過ぎない。トランプ政権が着手する350隻海軍が誕生してもまだ戦力不足であると指摘する海軍戦略家も少なくない。そのため、アメリカ海軍が南シナ海で中国の軍事的支配を封じ込めようとしても、それが実行できるのは5年あるいは10年先になることは必至である(そのときは南シナ海は完全に“中国の海”になっているかもしれない)。
 いずれにせよ、老獪な中国、そして怪しげな中国─北朝鮮関係によってアメリカの外交軍事政策が翻弄されているのは間違いなく、アメリカが強硬な南シナ海牽制行動をとることは難しい。その結果、中国による南シナ海のコントロールはますます優勢になるであろう
 南シナ海の海上航路帯は“日本の生命線”である。そうである以上、日本は“中国の圧倒的優勢”を前提にした戦略を打ち立てなければならない。

《維新嵐》共産中国の習近平政権は、アメリカの足元をよくみていますね。北朝鮮が韓国や日本にとって軍事的脅威となっていることは自明の事実ですが、同盟国を支援するという方針がある以上、北朝鮮とは敵対する形になります。かつては特殊工作員による日本人や韓国人の拉致という「攻撃」を許してしまいましたが、(実はアメリカ人も拉致されていますが)今や核弾頭ミサイルですから、直接アメリカ本土を標的にできる能力を開発しつつある北朝鮮をどうしても警戒せざるを得ません。そして北朝鮮に政治的圧力をかけてミサイル、核兵器を使わせないようにし、外交的優位を担保するためには共産中国との外交的連携は不可欠なのです。
いわば共産中国からすれば、北朝鮮を抑止する見返りに南シナ海の島嶼群の領有を黙認してもらっている、ともみれるか?
やはり北朝鮮が弾道ミサイルと核兵器を保有する前に国際社会がつぶさないといけなかった事実を痛感させられます。
日本がすべきは、南シナ海であてにならないアメリカ頼みではなく、韓国、台湾フィリピン、ベトナムなど共産中国に領土利権を脅かされている国々と軍事的連携を強め、独自に海上輸送路を確保していかなければなりません。自衛隊の「国防軍化」と海上保安庁の巡視船の強化でしょうね。

フィリピン沖スカボロー礁ルポ 中国公船の監視続く


世界はなぜ「トランプドクトリン」を必要としているか?

岡崎研究所
 カーター大統領の安全保障問題担当補佐官を務めたブレジンスキーと米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)リサーチ・アソシエイトのワッサーマンが、2017220日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説において、世界はトランプ政権の発する支離滅裂な発言に戸惑っているので、「トランプドクトリン」と呼べるような簡潔なスピーチを行って、米国の世界への関与を明確に示せ、と論じています。要旨、次の通り。

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 世界の秩序は混乱し、諸問題を処理できないばかりか、主要大国間の関係の乱れは真に破滅的な結果をもたらしかねない。トランプ大統領自身が国際情勢について意味と重みのある発言を行えないでいる今、世界は彼の側近たちが打ち出す無責任、未調整、かつ無知ぶりをさらけ出した発言に戸惑っている。これら側近は自分を売り込みたいだけなのであり、彼らの発言を米国の政策と受け取ってはならない。
 我々はトランプを支持しなかったが、彼は今や米国大統領、つまり我々の大統領であり、我々は彼に成功して欲しい。今のところ、外国あるいは我々には、彼は成功しているように見えない。
 米国は世界に対して明晰な思想と、将来への希望と前進を体現するリーダーシップを提供せねばならない。米国外交は、“Make America Great Again”(米国を再び偉大に)のような選挙スローガン以上のものを必要としている。
 トランプ大統領には、詳しい外交教書というよりも、世界の安定を確保する上で米国がリーダーシップを発揮するという決意を披歴し、一定の歴史観の上に行動していることを示すスピーチをすることを勧める。そこでは、米国はなぜ世界にとって重要なのか、なぜ世界には米国が必要なのか、そして米国は世界に何を期待しているのかを述べて欲しい。「トランプドクトリン」と呼べるようなものを示すことが必要である。
 そのスピーチの中で、理想的な長期的解法は米中ロシアという三軍事大国が協力して世界の安定を支えることであることを認めて欲しい。三国関係の中では米中関係が特に重要で、米中間で合意に達すれば、ロシアも加わらざるを得ないだろう。
 直近の脅威である北朝鮮については、中国及び日本(そしてもしかするとロシア)と協力して対処せねばならない。
 ロシアには国際法を守らせないといけない。トランプ大統領がロシアと建設的協力関係を築こうとするのは賢明なことだが、ロシアに対しては米国が何を許容でき、何を許容できないかを明確にしておくことが必要である。
 地域的問題に対処するためには、日本及び英国のようなパートナー諸国と認識をすり合わせていくことが必要である。
 トランプ政権が日本及び韓国を防衛する約束を再確認したのはいいが、西欧及び中欧の防衛も心がけて欲しい。ロシアに対しては、ロシアが欧州に軍事侵略することがあれば、ロシアを海上封鎖する用意があることを示しておくべきである。
出典:Zbigniew Brzezinski & Paul Wasserman,‘Why the World Needs a Trump Doctrine’New York Times, February 20, 2017
https://www.nytimes.com/2017/02/20/opinion/why-the-world-needs-a-trump-doctrine.html
これまでトランプ叩きに終始してきた感のあるニューヨーク・タイムズが前向きの提言を掲載したことには意味がありますが、提言自体は現在のトランプ政権の状況から少しずれている面があり、また中国の力を過大評価することでその影響力を不必要に高めてしまう弊も見られます。
 ブレジンスキー、キッシンジャーといった欧州出身のユダヤ系戦略家たちには、米国の軍事力を操縦して欧州、中東の安定を実現しようとする性向があります。本件論説も米国の世界への関与をトランプに宣言させようとしていますが、トランプ大統領に求められていることは、内向きになりがちの米国民に対して、世界との関係が如何に重要で利益になるかを納得させること、そして世界に対して米国は自由、民主主義、市場経済の支えとなることを宣言することでしょう。
 フリン大統領補佐官辞任の頃は、トランプ政権も早や、レームダック状態を呈していましたが、マクマスターの任命で事態は小康状態にあります。その中で次第に明らかになっている傾向は、「実際の外交・安全保障政策は国務省・国防省の実務家が既存の路線を踏襲。トランプ大統領はトーク・ショーの司会者よろしく、横からコメント」という感じです。トランプが「教書」の類を格調高く読み上げれば、彼の支持層は離れていくことになるでしょう。
 オバマ大統領は、海外での軍事介入を忌避する一方では、「レジーム・チェンジ」という言葉に象徴される、民主化のための介入を続けました。これがウクライナのように事態を不安定化させると、軍事介入に及び腰なオバマ政権はロシアの限定的な軍事力使用になすすべがなく、面目を失ってきました。
 トランプ政権はこれとは異なるものになるでしょう。トランプ自身の親ロ的傾向はフリン補佐官辞任事件等によって封印され、マケイン上院議員等の率いる「民主化のための介入」工作は(米国諜報機関、国務省の一部の部局及びNGOが行っている)、オバマ時代よりも大胆な海外軍事行動によって支えられることになるでしょう。
 ロシアはこれまで、トランプ政権の「親ロ」的傾向を慎重に品定めしてきましたが、次第にこれを見限る姿勢に転じて来るでしょう。ただし、ロシアによる限定的な軍事作戦で鼻を明かすことのできたオバマ政権の時と違って、現在の米国に対抗しようと思えば、ロシアの国力を傾けるような軍事行動を強いられるリスクがあります。
 したがって、当面、ロシアは中国との連携を強化しようとするでしょう。それは中国にとっても渡りに船でしょう。当面2017514日北京で予定される第一回「一体一路諸国首脳会議」、及びその際のプーチン大統領訪中が一つの節目となると思われます。ただし、中国も最近は資金切れの感があり、「一帯一路諸国首脳会議」首脳会議も前向きの勢いを欠くものと予想されます。


2017年3月24日金曜日

自衛隊よ、武士道に入れあげていると破滅するぞ!

自衛隊よ、武士道に入れあげていると破滅するぞ

自衛隊幹部が勇ましく突撃して討ち死にでどうする
2017.3.8(水) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49356
 一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構研究員成蹊大学法学部政治学科卒業、拓殖大学大学院安全保障専攻修士課程(卒業)、拓殖大学大学院安全保障専攻博士課程(単位取得退学)。財団法人世界政経調査会 国際情勢研究所研究員等を経て現職。専門は米国政軍関係、同国防政策、日米関係、安全保障全般。

武士道の過剰な礼賛は旧軍末期の失敗を繰り返すことになる(写真はイメージ)
 一体の亡霊が自衛隊を徘徊している。武士道という亡霊が。
元々、自衛隊の「武士道」好きは旧軍末期以来の伝統的なものであった。それが近年になり、武士道ブームが公的なものとなりつつある。
2000年以降、武士道の重要性を公言する将官が相次いで出現し、各部隊でも「武士道の神髄」云々といった講演が行われるようになった。そして2016年に制定された陸自の新エンブレムには、抜身の日本刀が交差したデザインが採用された。
 しかし、近代国家の国益と名誉を担う軍隊として、それで良いのだろうか。
 武士道とは、新渡戸稲造が騎士道を焼き直しした「西洋的武士道」、至上の価値を“死”に見出す「葉隠的武士道」、犬畜生と言われても勝つことに意味があるとする「戦国的武士道」等々の幅広い解釈があり、体系的な思想のないバズワードでしかない。
 自衛隊内の言うところの武士道には、「戦国的武士道」の要素はあまり見られない。実質的には、「勇敢」「規律」「正々堂々」といった合言葉のもとに部隊をまとめていくための拠り所という色彩が強い。
 だが、武士道の過剰な礼賛は旧軍末期の軍事的失敗を繰り返すことにならないだろうか。実際、政治学者のサミュエル・P・ハンティントンはこの点を痛烈に批判している。
今回は、自衛隊が武士道をもてはやすことの危うさを考えてみたい。
日本の将校は軍人ではなく武人
ハンティントンは、政軍関係論の古典として名高い『軍人と国家』で日本の将校の特徴を挙げている。
 第1に、日本の将校は近代の職業軍人としての指揮官というよりも、中世の一武士に過ぎないということだ。それは、まさに武士道の弊害を指摘していることに他ならない。
 ハンティントンは、ある論者の以下のような論評を引用している。
「日本の将校は素晴らしい人間の指導者である。彼の弱点は欧州の将校のように戦術の熟練者であることを維持することに失敗していることである。彼は戦闘を指揮するよりも、自らそれに入っていってしまう。(中略)日本の将校は、軍人というよりも武人的である。そして、そこに彼の弱点がある。(中略)武人に必須の資質は、勇敢さであるのに対して軍人のそれは修練である」
 そして、ハンティントンは次のように指摘する。日本軍の将校教育では、科学的能力よりも、砲火の下での勇気の重要性が強調される。これにより兵士と将校の間に緊密な連帯が存在する一方、将校は兵士の持たぬ技術と能力をもっているわけではなかった、と。
 実際、よく知られているように、末期の日本軍は一部を除き、長期持久するよりも勇ましく死ぬこと、もしくは精神的価値に意義を見出した。そのため、純軍事的な意義の低い作戦(沖縄戦での5月攻勢や大和特攻)を繰り返したのである。こうした点は、一砲兵将校としてフィリピン戦に参加した、作家の山本七平も「現実を無視した精神性への傾斜」として指摘しているところである。そして、これらの拠り所として、末期の日本軍が縋ったのが「武士道」であった。
 こうした気風は現在でも自衛隊に残っており、幹部が睡眠不足に陥る原因の1つになっている。もちろんその弊害を理解している幹部もいるが、武士道的な“勇気”を見せられる指揮官でなければ部下がついてこないとも嘆く幹部もいる。
 しかし、突撃に意義を見出す文化が、宇宙戦争、サイバー戦争も含めた高度な現代戦に適合しているとは言い難いし、過去の戦争でも役に立たなかったことは間違いない。
例えば、警察予備隊(自衛隊の前身)創設時にはこんなエピソードがある。警察予備隊のある若い中隊長が演習時に、米軍審判から「部隊の3割が喪失したが次の行動はどうするか」と尋ねられた。すると中隊長は「攻撃を続行する」と回答した。しばらくして攻撃は失敗し、頭上に砲弾が落下中、「次の行動は?」と米軍審判に尋ねられた。中隊長はまたもや「戦闘を継続する」と回答した。今度は熾烈な砲火を受け「敵攻撃機接近中」と米軍審判が伝えたところ「現地点で戦死します!」と回答した。これを目撃した対日軍事顧問団のコワルスキー大佐は「武士道を感じた」と回顧しているが、こうした勇ましいだけの将校が指揮官失格なのは言うまでもない。
 また、こんな話もある。警察予備隊のある隊員が兵舎で切腹し、「マッカーサー万歳」と自分の血でシーツに書いた。貧しい家庭に生まれ育った彼は戦後に共産党に入党したが、幻滅して予備隊に入隊したのだった。米軍将兵の指導に感動し、熱心に訓練に励んだが、自分が理想とする立派な兵隊にはなれなかった。また、共産党に入党していたことを激しく後悔していた。彼はそれらの罪を償い、米国と日本、故郷に謝罪するために、武人として切腹する道を選んだのである。
 だが、これが福沢諭吉が言う「権助の死」に等しいことは明白である。権助は、主人の依頼を受けたたった1両のカネをなくしたために死をもって報いた。福沢諭吉は、文明を益することのない無意味な死だという点で、忠臣義士の討ち死にも権助の死も同じだとしている。
アカデミックな議論ができない日本の将校
ハンティントンが指摘する日本の将校の第2の特徴は、ものの見方や判断が客観的ではなく、きわめて「主観的」だということだ。この傾向も、武士道を過剰に評価する姿勢と表裏一体と言ってよい。
 ハンティントンは、戦前の日本海軍研究者としては随一の存在であるアレキサンダー・キラルフィの以下のような趣旨の内容を引用している。
「軍事的観点から見れば、日本人の精神は客観的ではなく、主観的である。平時において、英米の評論家や学生は、太平洋や地中海の支配権に関して、フランスとイタリアの対立、ドイツとロシアの対立といった、直接関係ない戦争を詳細に論じることが出来る。しかし、日本人は直接関係ない海洋問題への関心に乏しい。
 西洋の学生が海軍力それ自体に注目して、アカデミックな方向に沿って問題を処理しようとするのに対して、日本の学生は国家政策的なアプローチを排除することが困難である。彼らはグアム島問題について、彼らの国家にとって除去されねばならない脅威であると述べたり、ほのめかしたりせずに議論ができない」
 これは現代にも通じる指摘だろう。実際、グアム島を尖閣諸島や南シナ海に置き換えてみれば、そのまま通じるはずである。日本では尖閣諸島問題や南シナ海問題について論じるとき、アカデミックにその影響を分析するよりも、往々にしてその領有権や日本への直接的な脅威についての戦術的な議論に終始してしまう。ひどい場合は、尖閣諸島を米国が防衛するか、しないかにまでレベルが低下する。
 こうした主観的な議論に欧米の専門家や政策担当者が共感することはないし、主観的かつ近視眼的な議論から賢明な戦略が生まれないのは明白である。
現代戦に適合した幹部自衛官像とは?
自衛隊がいまだに武士道を体現しようとしているのは、世界的にみれば異常である。
 例えば「カウボーイ精神の米軍」「ロングボウ自由農民の英国軍」「ユンカー精神のドイツ軍」「重装騎兵精神のポーランド軍」「騎士道精神のフランス軍」「ボヤール精神のロシア軍」などがあり得るだろうか。まともな近代国家で前時代の倫理規範や価値観を大々的に掲げている国など1つもない。
 むしろ、米軍などは、時代や戦略環境に合わせて理想とする幹部像を変えている。第2次大戦までのプロの将校とは戦闘のリーダーであり、冷戦期はマネージャーであり、ポスト冷戦期は学者戦士を意味し、そして、今や、「学者戦士」すらイラク・アフガン戦争時代の遺物として次なる理想像が模索されている。
 そうした現状をみれば、幕府陸軍や明治陸軍の先人たちが懸命に相対化した「中世的な武士道」を、現代の戦略環境や戦略文化に適合するかも考えずに称揚することの愚かさは明らかだろう。
 少なくとも明治陸軍が、西郷隆盛率いる「武士団」や清朝軍、帝政ロシア軍に勝利できたのは、武士道精神のおかげではなく、西欧的なプロフェッショナルな軍人組織になろうと努め、その点で上回ったからにほかならない。
 中隊レベルの士気高揚の範囲ならともかく、「武士道」を自衛隊全軍の価値観とすることは無理があり、危険でしかない。むしろ今やるべきなのは、「現代戦で国益を実現するために必要な自衛隊幹部の理想像とは何か」を国民的に議論していくことである。

「夢なき者に成功なし。」自衛隊入隊予定者激励会

《維新嵐》国民にとって自衛隊はどうあるべきなんでしょう?
我が国古来の「サムライ」、「武士道」の精神は現代の自衛隊員の本来のあり方とはならないのでしょうか?
そもそも欧米の近代軍人像は、我が国の「サムライ」精神と通じるものはなかったのでしょうか?
特攻でアメリカ軍を震え上がらせた旧日本軍人の敢闘精神は、「武士道」からきたものではないのでしょうか?
旧軍の精神は、自衛隊に受け継がれているのでしょうか?