2017年5月4日木曜日

アメリカを中心として展開される東アジア海洋戦略

中国が驚愕した日米韓の対北朝鮮・海上共同訓練

北牽制の裏で練られた対中「窒息作戦」とは?


 現下の朝鮮半島危機に乗じて、中国の海警局・大型武装公船や人民解放軍海軍艦艇が、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を火事場泥棒的に強奪するというシナリオが、防衛省内で危惧されている。しかし、米軍は半島危機に際して、北朝鮮・朝鮮人民軍のみならず、中国人民解放軍にもにらみを利かせている。いや、むしろ半島危機に乗じて、人民解放軍に対する強力な情報収集を極秘に進め、封じ込め戦略を演練している。米軍にとり、朝鮮半島危機は人民解放軍相手の格好の「模擬戦」の舞台となっている、と言い換えることも可能だ。
 例えば、米空母打撃群を追尾する人民解放軍海軍の潜水艦を逆探知し、スクリュー音や機関音、船体の振動などで生じる音紋を採取し、潜水艦性能の特定などに役立てている。実戦モードに近い環境下、水測員の練度向上にも資するが、今次半島危機では、比べものにならぬ超弩級の収穫があったのではないか。
 米軍は自衛隊や韓国軍と共同訓練を続けているが、中国人民解放軍の戦略中枢は、追尾を命じた情報収集機や情報収集艦、潜水艦などが送ってくる位置情報を地図上にプロットして驚愕しただろう。

(1)フィリピン海における、米原子力空母《カール・ビンソン》を核とする空母打撃群と海上自衛隊の護衛艦《あしがら》《さみだれ》による共同訓練。

(2)日本海における、米海軍の駆逐艦《フィッツジェラルド》と海自護衛艦《ちょうかい》による共同訓練。

(3)日本海における、カール・ビンソンを核とする米空母打撃群と海自や韓国海軍との共同訓練。 

(4)沖縄本島東方の太平洋上における、米空母カール・ビンソンの艦上機FA18戦闘攻撃機と航空自衛隊のF15戦闘機との共同訓練。
 
(5)米原子力空母ロナルド・レーガンの艦上機が硫黄島(東京都)で陸上離着陸訓練(FCLP/5月2以降)。 

(6)高高度迎撃ミサイル・システム(THAAD=サード)の韓国配備開始。
 
(7)黄海における米海軍と韓国海軍の共同訓練。


黄海の対中機雷封鎖も想定

 人民解放軍の危機感は(7)に象徴される。黄海~渤海にかけての海域には▽青島=人民解放軍海軍・北海艦隊司令部▽旅順と葫芦島=軍港▽大連=海軍工廠…などが点在するのだ。明治二十七八年戦役(日清戦争/1894~95年)や明治三十七八年戦役(日露戦争/1904~05年)では、国家存亡を賭した一大戦略拠点であった。この海域への機雷封鎖は、人民解放軍海軍の掃海能力の低さを考えれば、現代戦でも通用する可能性は極めて高い。今回の共同訓練で米海軍は、海底地形や海流の測定をタップリと行ったはずだ。
 次は(6)のTHAAD。在韓米軍は4月末、THAADを構成する発射台やレーダーなど一部システムを南部・慶尚北道星州郡のゴルフ場に搬入した。当初の計画を前倒しして実施し、早期運用開始を目指す。THAADは6基の発射台と48発のミサイルなどで構成され、北朝鮮・朝鮮人民軍の短・中距離弾道ミサイルを迎撃すべく配備される。
 中国はTHAADを構成するXバンドレーダーの韓国配備に強く反発した。射撃管制モードの探知距離は500キロで北朝鮮の中~南部をカバーするに過ぎぬが、捜索モードに徹すれば1千キロを超え、北京・天津の手前まで覗けてしまう。しかも、在日米軍が青森県車力と京都府京丹後に配備するXバンドレーダーと同型で、データリンクで連結され、互いをカバーし合える優れモノだ。


 (1)のフィリピン海も、対中戦略上のチョーク・ポイントだ。台湾有事の際、来援が期待される米空母打撃群を、人民解放軍が迎撃する最前線(第2列島線)と絶対防衛線(第1列島線)にはさまれた海域だからだ。第1列島線は九州南部~沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオを結ぶ。第2列島線は伊豆諸島~小笠原諸島~グアム・サイパン~パプアニューギニアを結ぶ。
 (4)の沖縄本島東方の太平洋は第1列島線の該当海域で、沖縄本島の米軍・自衛隊基地群は列島線防衛の一大策源地でもある。 
 (5)の硫黄島は第2列島線海域に所在し、島内の滑走路は海上自衛隊や航空自衛隊、米軍の作戦機が使用する。
 最後は(2)と(3)の日本海の戦略的位置付け。自衛隊と米軍が第1列島線の防衛=封鎖に成功すれば、人民解放軍の海上・航空戦力は対馬海峡を抜き→宗谷海峡突破を選択し→第2列島線の背後に回る可能性に賭けるシミュレーションも、安全保障関係者の間では浮上した。現代版「日本海海戦」への備えも怠ってはなるまい。
 現在、人民解放軍やロシア軍は北朝鮮との国境に兵力を集積し始めたが、朝鮮半島有事でも同様な動きが確実視され、自衛隊と米軍が日本海へと緊急展開する作戦は、やがて必要になるかもしれない。
 もっとも、人民解放軍の海上・航空戦力が日本海を迂回する事態とは、中国の敗北を半ば意味する。米空母打撃群や地上発進の米航空戦力に海上自衛隊や航空自衛隊が協力→人民解放軍の海上・航空戦力による第1列島線越え阻止に成功し→台湾軍が人民解放軍のミサイル攻撃や渡海強襲上陸を何とかしのげば→西進中の米軍主力は第1列島線上の台湾の救援に間に合う。


切り札は米軍の台湾駐留

 だが、人民解放軍の海上・航空戦力が飛躍的に拡充される近未来図は仕上げの段階に入り、米軍遠征部隊の台湾急行は次第に不確実性を増していく。米海軍大学のアンドリュー・エリクソン教授を中心とした研究グループがまとめた《中国の海軍艦艇建造》の以下の分析結果には息を呑む。
 《人民解放軍海軍は2030年に主要艦艇415隻態勢を整える》
 トランプ米政権は過去100年間で最小規模にまで縮小された米海軍の現有艦艇274隻を350隻に増強する方針を公約した。が、2046年が目標で、人民解放海軍の建造スピードとは格段の差がある。しかも、国家予算の行方が未知数で、建艦数を抑えられてきた造船関連業界の熟練工確保や設備復旧も追いついていない。反面、人民解放軍海軍の艦艇は数に加え質の向上も著しい。《中国の海軍艦艇建造》は警告する。
 《2030年までに、ハードウエア面で米海軍と数だけでなく、恐らくは質も肩を並べる》
 《2020年までに、米海軍の対艦巡航ミサイルの射程以上のミサイルを大量保有する》
 《2030年までに、『近海』で起きている他国との係争海域で、米海軍の作戦行動に果敢に対抗する大きな能力を保有する》
 かくして《2020年までに、人民解放軍海軍は世界第2位の海軍となる》。当然、『近海』には尖閣諸島が連なる東シナ海や先述した黄海、人工礁を造成し軍事基地化に邁進する南シナ海が含まれる。


  打開策はある。ジョン・ボルトン元国連大使が今年1月、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)に寄稿した戦略にも、傾聴に値する部分があった。《米軍の台湾駐留》である。要約すると、次のような戦略であった。
 《台湾への米軍駐留や軍事装備の輸出拡大で、米国は東アジアの軍事態勢を強化できる》
 台湾駐留米軍は在沖縄米軍の一部を割く構図を描いているが、具体的な兵力規模には触れていない。ただ、米軍駐留の戦略効果は絶大だ。
 《海洋の自由を守り、一方的な領土併合を防ぐ戦略は米国の核心的利益だ。台湾は地理的に沖縄やグアムに比べ、中国や中国が軍事聖域化を押し進める南シナ海に近い。従って、米軍の迅速な戦闘配置を柔軟に後押しする。台湾との軍事協力深化は重要なステップなのだ》
 トランプ政権は現在、暴走を止めぬ北朝鮮への説得を中国にかなり強く要求しているが、成果が上がらなければ、米中関係は悪化を含め変質しよう。東アジアや南シナ海情勢の不穏・不透明な安全保障環境を考えれば、太平洋&東シナ海と南シナ海を結ぶ「大洋の十字路」に位置する台湾は世界最大の要衝の一つで、わが国の貿易=経済の命運を握る「生命線」だ。日本列島~沖縄~台湾を結ぶ「海上の長城」上に、自衛隊や米軍に加え台湾軍が防衛線を敷けば、中国の軍事的冒険をかなり封じ込められる抑止力となる。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の対中・対米姿勢は不安定で、米軍のフィリピンにおけるプレゼンスも定まらない情勢では尚のことだ。


 ところが、米軍の台湾駐留には1972年の《上海コミュニケ》が障害になる。コミュニケで米国は中国側に「一つの中国」「台湾からの全武力・軍事施設の最終的撤去に向け、これらを漸減していく」などを約した。
 けれども、ボルトン氏は中国との国交樹立=台湾との国交断絶後、米軍駐留終了と引き換えに武器売却などを担保した《台湾関係法の下で、台湾との(軍事)関係拡大は十分可能だ。基地を設置し、活動する権利は全面的な防衛同盟を意味しない。相互防衛条約の再交渉など新たな立法措置も不要だ》と明言。国際法上の《事情変更の原則》を持ち出した。
 確かに、中国が正体をいよいよ現わし、凶暴性を増し、軍事膨張をばく進する危機的情勢に直面する今、《上海コミュニケの大部分が時代遅れになり、拘束力を失った》という合法的解釈は可能だ。 
 北朝鮮に断固とした姿勢で臨み、拉致家族が訪米した時にも積極的に会い、日本の国連常任理事国入りの支持者でもあるボルトン氏。在沖縄米軍が台湾に移転するもう一つの利点に言及している。
 《日米関係を悩ます在沖縄米軍の一部移転で、日米間の緊張を緩和できる》
 日米同盟は両国の国是に等しい。しかも今後、軍事力の拡大に比例して狼藉の度を凄まじい勢いで加速させる中国を向こうに回し、日米同盟はますます価値を高める。朝鮮半島危機を克服した日米同盟の次の「難関」は台湾危機に違いない。日米は無論、台湾もまた米軍駐留への覚悟を決める時機にさしかかった。


《維新嵐》アメリカによる北朝鮮への軍事的圧力実施に伴って、我が国海上自衛隊の艦艇数隻が安全保障関連法の艦艇防護という集団的自衛権の行使を実施しました。多国間での権益が重なり合うエリアを共同防衛することが必須になっている現代においては、集団的自衛権の行使についてとやかく是非を論じてる場合ではないのです。
 我が国は、アメリカ軍の軍事基地を国内に駐留させることを法的に認めた時点で集団的自衛権を行使しています。


日本最大の護衛艦「いずも」、米補給艦の護衛に出発
BBC News


 日本の海上自衛隊が保有する最大の護衛艦「いずも」が201751日、米海軍の補給艦を防護するため神奈川県の横須賀基地を出港した。自衛隊の役割を拡大する安全保障関連法に基づく初任務となる。新法をめぐっては日本国内で激しい議論が巻き起こっていた。
ヘリコプター搭載型護衛艦の「いずも」は、朝鮮半島近くに派遣された原子力空母カール・ビンソンなどのために派遣された補給艦を防護する。
北朝鮮は、米軍の軍事行動に対しては核の先制攻撃も辞さないと表明しており、地域の緊張が高まっている。
北朝鮮は2017429日に、米国など各国の警告を無視する形で弾道ミサイルの発射実験を行ったものの、発射間もなく爆発した。
英字紙ジャパンタイムズによると、全長249メートルの「いずも」は最大9機のヘリコプターを搭載でき、米軍の水陸両用攻撃艦に似ている。
共同通信によると、「いずも」は米補給艦を四国まで護衛する。
20159月に成立した安保関連法によって、密接な関係にある国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされると判断された場合に自衛権の行使が可能になった。
新法の反対派は、日本が第2次世界大戦後以降守ってきた平和憲法に違反するもので、海外の戦争に不必要に巻き込まれる可能性があると指摘している。現行の憲法は、国際紛争を解決する手段としては武力による威嚇や武力行使を放棄するとしている。
自衛隊は先月下旬にカール・ビンソンと共同訓練を行ったばかり。地域の緊張が高まるなか、各国の海軍の活動が活発化している。
29日には、日米英仏の共同訓練のため、フランス海軍の水陸両用攻撃艦が長崎県の海上自衛隊佐世保基地に入港した。
一方、中国は先週、国産初の空母の進水式を行った。

【最新鋭イージス艦「あしがら」】
米空母「カール・ビンソン」との共同訓練で注目の“最強の盾”の実力とは?

護衛艦あしがら
護衛艦さみだれ

フィリピン海で米原子力空母カール・ビンソンと共同訓練を行った海上自衛隊の護衛艦「あしがら」と「さみだれ」

 緊迫した北朝鮮情勢が続く中、日米同盟の絆を誇示するように、2017年4月23~29日に海上自衛隊の護衛艦と米海軍の原子力空母カール・ビンソンによる共同訓練が太平洋上などで実施された。参加した護衛艦「あしがら」はイージスシステムを搭載した護衛艦の中で最も新しく、「艦隊防衛の要」とされる。近い将来、弾道ミサイル防衛を可能とする改修も予定され、国土を守る“最強の盾”として一層の役割が期待される。
 あしがらは「あたご型」護衛艦の2番艦として平成20年3月に就役した。日本が保有するイージス艦は「こんごう型」4隻と、あたご型2隻で、このうち弾道ミサイルを迎え撃つ海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載しているのはこんごう型4隻にとどまる。ただ、あたご型もSM3の搭載に向けた改修の実施が決まっている。
 「イージス」とはギリシャ神話に登場する「万能の盾」のこと。主神ゼウスが娘の女神アテナに与え、あらゆる邪悪を払う能力があるとされる。
 その名の通り、世界最高水準の防空能力を誇るイージス艦は米ソ冷戦期に米国で登場。海上戦闘で同時に飛来する多数の航空機や対艦ミサイルから艦隊全体を守るためにつくられた。
 複数の目標を同時に把握しながら迎撃するため、艦隊の周囲を半径数百キロにわたって覆う強力なレーダーと、高い解析能力を持つコンピューターを連動させて状況を瞬時に把握。100個以上のミサイルや航空機を追尾しながら、同時に10以上の標的を迎撃できる。


 これだけでも驚異的な能力だが、冷戦終結後、北朝鮮の核・ミサイル問題が深刻化すると、弾道ミサイル防衛という新たな役割が加わった。
 そのため、こんごう型イージス艦4隻が改修され、SM3を搭載。持ち回りで日本海に展開し、米国の早期警戒衛星が弾道ミサイルの発射を探知すると自らのレーダーで捕捉・追尾し、日本の国土に到達しそうな場合はSM3を発射して大気圏外で撃ち落とす。この役割拡大により、イージス艦は「艦隊防衛の要」に加え、「国土防衛の要」とも位置付けられる。
 もっとも、北朝鮮の弾道ミサイルから日本全土を守るためにはイージス艦3隻の同時展開が必要とされる。修理や訓練などで1隻は前線から下げなければならず、現在の4隻態勢による運用はギリギリだ。あしがらなど2隻が加わって6隻態勢となれば「運用はかなり楽になる」(海自関係者)といい、早期の改修実施が望まれる。
 平成27年5月30日、日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破した日本海海戦(明治38年5月27日)から110周年を迎え、博多湾沖で行われた洋上慰霊式に、大勢の参列者を乗せたあしがらの姿もあった。艦上で海自幹部は「今後も海洋国家日本の平和と安全を守るために任務を全うしたい」と決意を表明した。米空母との共同訓練が終わっても北朝鮮の挑発行動は続いており、あしがらの役割は今後も大きくなるばかりだ。(小野晋史)

【「いずも」に加え「さざなみ」も】海自艦2隻態勢に
太平洋上、2017年5月3日に終了

護衛艦さざなみ

 安全保障関連法に基づき、海上自衛隊が米軍艦艇に初めて実施した「武器等防護」に、横須賀基地(神奈川県)のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」に加え、呉基地(広島県)の護衛艦「さざなみ」も合流したことが3日、分かった。米艦防護は同日中に終了する。
 政府関係者などによると、さざなみは20175月2日に呉基地を出港し、豊後水道を経て太平洋に出た。その後、いずもと防護対象の米補給艦と合流した。
 いずもとさざなみは任務終了後、シンガポールで15日に開かれる国際観艦式に参加する予定。米補給艦は、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えて日本海に展開する米艦船や原子力空母の随行艦に燃料を補給するとみられる。



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