2017年8月29日火曜日

アメリカは南シナ海で何ができるのか? ~中東で再び戦争がおきるのか?~

南シナ海問題で米国ができること

岡崎研究所

 マックデヴィット元海軍少将(米CNA上席研究員)が、East Asia Forum のサイトに2017719日付けで掲載された論説にて、南シナ海についての米国の政策によって、中国は南沙諸島の完全掌握を先送りしたのは、平和的に実現し得る限りで最も良好な結果である、と論じています。要旨は次の通りです。

南沙諸島に共産中国が巨大な建物を ベトナム紙が撮影

 7年前のASEAN地域フォーラムにおいて、クリントン国務長官は明快に南シナ海の係争に介入したが、後から考えれば、それは米国が実際に何のテコも持たずに、中国の南シナ海における活動を制限しようとした試みであったと言える。米国は中国に規範に従うことや、島嶼の建造や軍事化を中断し、仲裁裁判所の判断に従うことを勧めてきた。
 中国は米国の勧めを無視した。中国にとって、南シナ海は全てが中国の領域である。中国は長い期間をかけて主張を現実化させてきており、南沙諸島(スプラトリー諸島)の礁に軍事施設を建設したのは、その長期的な戦略目的を達成するための一歩である。中国の防衛のためにも南シナ海のコントロールは重要である。
 7年経って、中国の南シナ海における行動を緩和させようとする米国の政策は目的を達成したと言えるか。今後はどうであろうか。
 第一に、フィリピン政府が仲裁裁判所に中国の南シナ海における行動と主張について訴える決定をしたことに対して、米国は間接的ながら重要な支持を与えた。第二に、米国の利益は決して損なわれていない。第三に、フィリピンと米国の相互防衛条約は依然として有効であり、中国もそれに挑戦しようとしていない。フィリピンのドゥテルテ大統領は中国にも接近したが、依然として米比相互防衛条約を手放していない。
 中国は決して南沙諸島の完全掌握を諦めていないが、少なくともそれは先送りになった。中国は南沙諸島における軍事バランスの恒常的な変化を望んでいるだろうが、他の領有権主張国と戦争することなくそれらを排除することは困難である。
 米国の政策によって国際的な注目が南シナ海に集まることになり、世界中で中国の将来の行動に対する疑念と懸念が生じた。米国政府が実際にできることが極めて少ないことを考えれば、これは平和的に実現し得る限りで最も良好な結果ではないか。米中関係には多くの重要な問題があり、トランプ政権は南シナ海問題を適切に処理することが望まれる。
出典:Michael McDevitt,The South China Sea seven years on’(East Asia Forum, July 19, 2017
http://www.eastasiaforum.org/2017/07/19/the-south-china-sea-seven-years-on/


 マックデヴィッドの見方は、一つの見方ではあります。しかし、不思議なことに、論説では、この地域に対する米国の軍事的関与の意義については、何も触れられてはいません。米国の持つ「手段」は、確かに多くはありませんが、ゼロというわけではありません。
 昨年7月の国際仲裁裁判所の裁定を受けて、中国は、確かに対外姿勢を柔軟化させてきています。その理由は、米、日、ASEANとの関係悪化のみならず、中国が国際秩序の破壊者だという認識が国際社会に広がり始めたからです。そして、何よりも、さらなる埋め立てと軍事化は、米国との関係を著しく緊張させると判断したからなのです。人民解放軍を思いとどまらせ、人民解放軍主導の対米関係を是正できたのも、米軍の存在と行動に他なりません。
 中国社会も冷静さを取り戻し、理性的な議論が再び主流に戻り始めているようです。また、秋の党大会を控えて若干の「揺れ」は起こり得るでしょうが、基本は習近平へのさらなる権力集中に向かっています。それだけ末端を抑える力がつくということでもあります。南シナ海もしばし安定期に入ると思われます。
 しかし、中期的には米国がどのような南シナ海政策をとるかどうかにより、中国の拡張政策の度合いも決まることになります。やはり、米軍の存在と行動が、依然として鍵なのです。
アメリカ海軍によるFON作戦は評価できますが、やはり共産中国に国際司法裁判所の判決を守らせることが南シナ海の安定化に不可欠でしょう。

米国は中東で再び戦争をしてはならない

岡崎研究所

 2017720日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説が、米国でイランとの対決を求める声が深刻になっているが、米国は再び中東で戦争をしてはならないと主張しています。主要点は次の通りです。

 米国は中東で再び戦争をしてはならない。しかし、大統領、政府高官、スンニ・アラブ指導者達は、挑発的な発言などにより緊張を高めていて、イランとの武力紛争に向かいかねない状況になっている。
 イランも米プリンストン大学の学者を拘束し、シリアのアサド支援を続ける等、緊張を呼ぶ行動をしている。米国の多くの政治家にとって、イランは1979年以来、処罰し孤立させるべき国となっている。しかし両国は、ISとの対決など利益を共有している。対話を開くなど外交手段で、両国関係を管理すべきだ。
 2003年の戦争を想起することが有益だ。「9.11」テロを受けて米国の関心はアフガニスタンのアルカイダとタリバンに集中した。しかしワシントンでの議論は「9.11」や核兵器保有とは無関係のイラクに転じ、フセイン打倒が議論になった。ブッシュは確たる理由や戦略もないまま先制攻撃を決定した。
 同じような戦争への突入が再び起こりうる。いくつかの理由は次の通りだ。トランプはイラン核合意の破棄を公約に選挙を戦った。トランプはイランに合意を破棄させ、あるいは自らそれを破棄することを考えているようだ。
 核合意署名に強く反対した米議会は今新たな制裁を議論している。最近4人の上院議員が国務長官に書簡を送付し、イランは「地域の侵略を行い、テロを支援し、ミサイル技術を開発」しようとしていると述べた。この書簡は核合意が地域のリスク低減のための重要な出来事になっていることを認識していない。
 政府高官は、レトリックを強め、レジーム・チェンジを支持するかのような発言をしている。ティラーソン国務長官はイランが地域覇権を狙っていると非難し、マティス国防長官はイランが「中東で最大の不安定化勢力」だと述べた。
 1979年以降米国の指導者は時々イランのレジーム・チェンジの考えをもてあそんできた。しかし一部専門家は、今回はすべての悪の責任はイランにあるとするサウジの単純な見方をトランプが受け入れているために事態は深刻であると述べている。サウジは指導者交代以後イエメンで態度を強硬にしており、またカタールとの間でも危機を作っている。イスラエルはイランを大きな脅威とみなしている。
 米政府の外でも反イランの声が強まっており、トランプや議会に働きかけをしている。
 多くの米国民は、1979年の人質事件、レバノンでの1983年の米海兵隊殺害事件(241人が犠牲)、1996年のコバル・タワー爆破事件などイランの犯罪のことを覚えている。他方イランはCIAによる1953年のモサデク転覆事件やイラン・イラク戦争の時の米情報機関のイラク支援に怒りを感じてきた。
 イラン政府は対米強硬派とロウハニのような穏健派に割れている。トランプは、これら穏健派と協力しないで戦争に向かって動くようなことをすれば大きな間違いを犯すことになるだろう。
出 典:New York Times Avoiding War With Iran (July 20, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/07/20/opinion/donald-trump-war-iran-.html?_r=0
良識的な社説です。健全な見方を述べています。
 イランとの対決やレジーム・チェンジを求めるトランプ、同政権幹部の強硬な発言、議会強硬派の動きなど、状況は深刻になっているとして、同紙は危機感を募らせているようです。世界の安定に関心を持ち、とりわけ中東のエネルギー資源に死活的に依存する日本としても十分フォローしていく必要があります。
 米国で戦争は常に政権浮揚になります(少なくとも開始直後の間は)。ロシア疑惑が深まる中、来年は中間選挙があり益々活路が見えないトランプ政権がいよいよ窮地に陥った際、政治基盤挽回のため、イラン強硬策に打って出るリスクは考えられないことではありません。マティスなど米軍部がそれに乗るとは思えませんが、分かりません。
 イラン核合意は不完全なものですが、リスクの軽減には役立っています。あれより良い合意が可能だったとは考え難いです。IAEAもイランが合意を順守していることを認定しています。勿論、イランの行動にはいろいろ重大な問題があります。中東の大国として覇権的野望を持ちそのために行動していることは否定できません。ヒズボラなど過激派の支援は規制すべきです。他国政治への介入は止めるべきです。イスラエルの生存権は認めるべきです。地域の状況を不安定にするようなミサイル発射など軍事力の増強は規制すべきでしょう。北朝鮮といった「ならず者国家」との軍事協力を嘗て進めてきた履歴もあります。宗教政治の下での人権弾圧も問題であり、民主化を進めていくべきです。しかし、これらのことは外交を通じて推進していくものであり、レジーム・チェンジの戦争を正当化することにはなりません。
 中東情勢が一層流動化しています。中東のもう一つの大国であるサウジは、サルマン国王になって以後言動がダイナミックになっている点は一定限度評価されますが、イエメン介入やカタールの封鎖など行動が不規則になっています。

映像記者が語るイラク戦争 ドキュメンタリー
アメリカ海軍空母から発艦する2機のF/A18
《維新嵐》「大義のない戦争」いいがかりの戦争などたくさんです。「予防的先制攻撃」は「侵略戦争」の言い換えにすぎません。圧倒的に巨大なアメリカがイラク・フセイン政権を打倒したことで、どう中東情勢に「安定化」や「新しい秩序」がもたらされたというのでしょうか?
アメリカは、アジア太平洋に展開し、南シナ海、東シナ海の自国の権益に目を光らせる以上のことはないと考えます。そして北朝鮮の金政権、中国共産党を大陸に封じ込めることに戦略を集中すべきなのです。



地政学のすすめ

①戦略の地政学

―中国の海洋進出を阻む沖縄―

秋元千明 (英国王立防衛安全保障研究所アジア本部所長)

 全長1200キロに及ぶ南西諸島の中心に沖縄本島が位置しており、米軍の戦略拠点となっている (KYODO/GETTYIMAGES


なぜ沖縄に米軍基地が集中するのか。地図を眺めるとその戦略的な重要性がよくわかる。
 日本政府が20129月、尖閣諸島の3つの島を国有化してからというもの、中国は恒常的に海洋警備の艦艇を尖閣諸島の周辺に侵入させ、そこが中国の領域であることをさかんにアピールしようとしている。力を使って緊張を高め、外国の領域で強引に自分たちの主張を通そうとする姿勢は、国際社会の安定に責任を持つ大国の行動としては到底容認できるものではない。ただ、なぜ中国がそれほどまでに沖縄県の南端の小さな島々を欲しがるのか、中国の意図についてはあまり議論されていない。
 沖縄周辺に豊富な海洋資源があるためか、もしくは軍事的な野望があるのか、様々な見方が混在する。それを理解するにはまず地図の見方を変えなくてはならない。
 英国では戦略専門家がしばしば、世界地図を逆さまにしたアップサイド・ダウンと呼ばれる地図を用いる。対象となる地域をいろいろな角度から眺めるほうが、相手国との関係を客観的に読み取れるからだ。 
 富山県が発行した日本列島の北と南を逆さまにした「環日本海諸国図」や、新潟県佐渡市が発行した「東アジア交流地図」は、まさにそれである。逆さ地図は、大陸の中国人の目に、日本列島がどのように映っているのかを明解に説明している。まず気づくのは、日本列島が中国の沖合に壁のように鎮座し、中国の海への進出を阻んでいる事実である。
 1990年代以降、中国は海の権益を核心的利益だとして、海軍力の強化に取り組んできた。めざすのは太平洋、インド洋など外洋への進出である。
 黄海に面した中国山東省の青島には、中国人民解放軍の北海艦隊の司令部があり、ここを拠点に日本近海の東シナ海や西太平洋で活動している。とりわけ、太平洋への進出は外洋型の海軍をめざす中国にとっては最も重要であり、そのためには次の4つのルートを通って、太平洋に抜けなくてはならない。すなわち、
 ①日本海からオホーツク海を経由して太平洋に抜けるルート
 ②日本海から津軽海峡を抜けて、太平洋に出るルート
 ③沖縄県の宮古島と沖縄本島の間の広い海域を抜けるルート
 ④台湾海峡を抜け、南シナ海を経由して、太平洋に抜けるルート
以上の4つである。
出所:ウェッジ作成
 このうち、中国にとって、沿岸国を刺激せず、迂回せずに太平洋に出られるのは③の沖縄本島と宮古島の間を抜けて行くルートである。そして、そのルートの入り口近くに尖閣諸島があるのだ。つまり、中国が沖縄県の一部の領有を主張する背景には太平洋進出の拠点を確保しようとする軍事的思惑があることは間違いない。


「太平洋の要石」と呼ばれた沖縄

 それでは、東アジアの中で沖縄はどのような位置にあるのだろうか。
 沖縄の那覇から台北までの距離は620キロ、台湾海峡まで750キロと、沖縄本島は日本本土よりはるかに台湾に近い。また、北京まで1860キロ、中国海軍の北海艦隊の司令部がある青島まで1300キロ、中国の特別行政区である香港まで1430キロである。
 一方、朝鮮半島までの距離は、北朝鮮のピョンヤンまで1440キロ、韓国のソウルまで1260キロの距離にある。
 つまり、沖縄は、日本の安全保障上の脅威になるそれぞれの地域とほぼ等距離の位置にあり、台湾海峡に非常に近いことが指摘できる。将来、危機が予想される地域に対して、近過ぎず遠過ぎず、ほどよい距離に沖縄は位置しており、そこに緊急展開部隊である海兵隊を配備していれば、有事の際、迅速に危機に対処することが可能になるのである。太平洋戦争の際、沖縄が「太平洋の要石(かなめいし)」と呼ばれたのはこのためである。
 また、沖縄の位置を地球規模で眺めてみよう。世界のいくつかの場所を中心に半径1万キロの円を描いてみる。地球は球体なので、平面の地図に同心円を描くと、波打つように表される部分がその範囲となる。すると、1カ所だけ、世界中のほとんどの地域をすっぽりと覆ってしまう都市がある。それはロンドンであり、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸の全域と南米の北半分がその範囲に収まる。かつての大航海時代、英国が7つの海を支配できたのは、英国が世界各地へアクセスしやすい場所に位置していたことと無関係ではない。
 そして、ロンドンの次に、同じ同心円で世界の主要な地域を覆うことができる場所は、実は沖縄である。那覇を中心とする半径1万キロの範囲には、ユーラシア大陸のほぼ全域、オセアニア、アフリカの東半分、北米の西半分が含まれ、これほど世界各地へのアクセスが容易な地域は太平洋には他にない。


出所:ウェッジ作成

 一方、戦略拠点として知られる、インド洋のディエゴ・ガルシアは、確かにユーラシア大陸のほぼ全域とオセアニアを完全にカバーするが、北米、南米は範囲に含まれない。つまり、アジアと欧州、中東、アフリカをにらむ戦略拠点であることが容易に理解できる。

朝鮮戦争を招いたアチソンライン

 それでは沖縄は地政学的に見た場合、日本の安全保障上、どのような意味を持っているのだろうか。
 米国が第二次大戦後、太平洋西部に配置した防衛線は、かつて「アチソンライン」と呼ばれた。アチソンラインはハリー・トルーマン大統領のもと、国務長官に就任したディーン・アチソンが共産主義を封じ込めるために考案したもので、アリューシャン列島から宗谷海峡、日本海を経て、対馬海峡から台湾東部、フィリピンからグアムにいたる海上に設定された。アチソン国務長官は、この防衛線を「不後退防衛線」と呼び、もし、共産主義勢力がこのラインを越えて東に進出すれば、米国は軍事力でこれを阻止すると表明した。当時はランドパワーのソビエトが海洋進出を推し進めようとしていた時期であり、これを阻止するための米国の地政戦略がアチソンラインであった。
 ただ、このアチソンラインには重大な欠陥があった。朝鮮半島の韓国の防衛や台湾の防衛が明確にされておらず、むしろこれらの地域を避けるように東側に防衛線が設定されていたため、誤ったメッセージを発信してしまった。北朝鮮が、このアチソンラインの意味を読み誤り、米国が朝鮮半島に介入しないと解釈したことが朝鮮戦争の引き金をひくことになったというのが定説である。
 このように、はなはだ評判の悪い防衛線ではあったが、現代でも米国は海軍の艦艇をこのアチソンラインに沿った海域に定期的に展開させており、海上の防衛線と言う意味では、アチソンラインはいまだに米国の安全保障戦略の中に息づいていると言ってよい。
 ただ、現代では、韓国と台湾はいずれも米国の防衛の対象とされているから、現代の「新アチソンライン」は、アリューシャン列島から宗谷海峡、朝鮮半島の中央を突き抜けて、東シナ海から台湾海峡を通り、南シナ海へ抜けるルートであると解釈すべきだろう。実際、米国の海軍艦艇は、現代でも、この線の東側で活動するのが一般的であり、西側に進出することはほとんどない。
日米と中国の利害ぶつかる海域

ウェッジ作成

 一方、これに対抗して中国が1990年代に設置した防衛線が、第一列島線と第二列島線である。第一列島線は、九州を起点として南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至る防衛線であり、中国は有事の際、第一列島線より西側は中国が支配することを狙っているといわれている。一方、第二列島線は、伊豆諸島から小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアに至る防衛線であり、中国は有事の際、第二列島線より西側に、米国の空母攻撃部隊を接近させない方針だといわれている。
 つまり、米国の防衛線、新アチソンラインよりはるか東側に中国は二重の防衛線を設置していることになる。この米国の新アチソンラインと中国の2つの列島線に挟まれた海域こそ、日米と中国の利害が真っ向から衝突する海域ということになる。
 そして、この海域には、日本の生命線であるシーレーンが集中している。シーレーンは中東方面から物資を日本に輸送する船が航行する海上交通路であり、日本の輸入する原油の90パーセント近くが、中東からシーレーンを通って運ばれてきている。
 シーレーンは、インドネシア周辺のマラッカ海峡から南シナ海を経由して、バシー海峡から太平洋に入り、南西諸島の東側に至り、日本本土に達するルートか、もしくは、インドネシアのロンボク海峡から、フィリピンの東側の太平洋を北上して、南西諸島に通じる遠回りのルートの2つがあるが、いずれも南西諸島の東沖で合流し、日本本土へ達する。つまり、南西諸島の東側の海域は、日本のシーレーンが集中する海域であり、日本の死活的利益がここにある。
 そして、まさにその海域で米国の防衛線と中国の防衛線が向かい合っているのである。米国の新アチソンラインは南西諸島のすぐ西側を台湾海峡に向かって南下し、これに対する中国の第一列島線は、まさに南西諸島そのものに設置されている。
 南西諸島は、日本の九州から台湾にかけて連なるおよそ1200キロに及ぶ長大な島嶼群だが、そのほぼ中央に沖縄本島が位置し、そこに米軍基地が集中しているのである。つまり、日本の生命線の中心に米軍は駐留していることになる。
 このように、地政学的に見た場合、沖縄を中心とした南西諸島周辺は、日本にとってシーレーンが集中する戦略的要衝であると同時に、米国と日本という太平洋の二大海洋国家・シーパワーと、中国という新興の内陸国家・ランドパワーのせめぎ合いの場であり、その中心に位置する沖縄がいかに日本や米国にとって重要な戦略拠点であるかはこれ以上の論を俟(ま)たないであろう。
 そして、その戦略的価値は将来、沖縄の米軍基地が大幅に縮小されることはあっても、ほとんど変わることはないだろう。大陸と海を結ぶ玄関口に沖縄があるからである。

『戦略の地政学~ランドパワーVSシーパワー』秋元千明氏著 (定価¥1600+税)
第1章 地図から見える世界
第2章 地政学の誕生
第3章 新たなグレートゲーム
第4章 米露の地政戦略
第5章 膨張する中国
第6章 舵を失った日本
第7章 戦略と沖縄
第8章 日本の針路
巻末対談 英国・エクセター大学歴史学教授ジェレミー・ブラック博士に聞く

 学校で教えてくれない地政学

②地政学的リスクのシナリオ分析~シリア、北朝鮮、日本

2017.4.15(土) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49748
 不確実性下の意思決定においては、将来生起するシナリオを複数想定するシナリオ分析が標準的なモデルだ。地政学的リスクが高い現下の状況では、投資の意思決定において特に重要だろう。
 風雲急を告げる地政学的リスクについて、一般的な情報を前提に、シナリオ分析の概要を示しておきたい。
(1)シリア
元々トランプ政権は、オバマ前大統領時代のシリア政策とは一線を画し、IS打倒を優先してアサド政権の存続を容認する意向を示していた。にもかかわらず4月4日にアサド政権は、化学兵器で反体制派を攻撃する暴挙に出た。
 現時点では本当にアサド政権がこの暴挙に出たのかどうか判然としない。いずれにせよ考えられるのは、米国の北朝鮮攻撃が近いと見込んだロシアかイランあたりの勢力が背景となり、米国は中東と朝鮮半島の2面での戦争遂行が無理と見込んだ上での暴挙、と見るのが自然だろう。
しかし、これはトランプ政権にとって渡りに船のタイミングだった。内政に行き詰れば外に敵を作って叩くのは政治の常道だ。トランプ政権は、オバマケアの改正法案が撤回に追い込まれ、最高裁判事人事である種の強行採決を行ったため、経済関係の法案を実現する目途が立たなくなりつつあった。まさにそのタイミングで降って湧いたのがシリアでの化学兵器を使った反体制派向けの攻撃だった。
 トランプ大統領が2日後に実施したミサイル駆逐艦から5分間でトマホーク59発という限定的攻撃は極めて高く評価され、支持率は反転して上昇した。奇禍として利用したと言っても良いだろう。
 問題はこの後だ。対アサド政権、対IS、対クルド、更には対イラン政策やイスラエルのアメリカ大使館のエルサレムへの移転問題など多くの中東関連の政策が煮詰まらない中、和平交渉を開始しなければならない。しかも、まだ国務省の高官人事が承認されていないどころか指名さえされていない。また、駐日大使を含め多くの駐外国大使が空席のままだ。もっと言えば、対ロシア政策も流動的だ。連邦議会は4月 24 日頃まで休会に入っている。この状態でもし朝鮮半島で有事が発生すると、元々の中東と朝鮮半島の2面での戦争遂行は無理と見込んだ勢力が蠢き始める可能性もある。ただ、ロシアにはその余裕は無いだろう。いずれにせよ、後述する朝鮮半島でのシナリオ次第では、事態はどの方向にも大きく動く可能性がある。
 ただ現実的には、外交交渉の矢面に立つ国務省や駐外国大使が不在の状況で事を大きく動かすのは無理がある。アサド政権への攻撃が5分間と極めて限定的だったことの意味を勘案すれば、時間稼ぎ以外の選択肢は限られると見るのが合理的だろう。
 これは、混乱するシリアの内政事情が諸外国に拡散しないという意味では既に出来上がっていた封じ込め戦略を継承するシナリオだ。米国の国益に結び付かない事には関与しない「米国第一」シナリオと言い換えてもよいだろう。世界経済への影響では原油価格が重要だ。言うまでもなくそのシナリオは政治シナリオに依存する。
(2)朝鮮半島
 米国の国是は自国の防衛だ。その意味で北朝鮮が国際社会を無視して進めた大陸弾道弾(ICBM)や核開発は、トランプ政権にとって超えさせてはならない一線(レッドライン)に近づきつつある。 報道によると4/6-7の米中首脳会談では、北朝鮮の非核化、それが無理なら北朝鮮の体制転覆に向けた斬首計画、が議題となった。これから中国による制裁強化など軍事衝突回避に向けた動きが加速すると見込まれるが、その動きが実を結ぶか結ばないか、両方のシナリオを想定する必要がある。
 北朝鮮では4月下旬にかけて、15日の金日成生誕105周年の祭日、25日の北朝鮮軍創設85周年、など国威発揚の記念日が控えている。一方、米国は、南太平洋からは4月8日にビンラディンを殺害した特殊部隊を載せた原子力空母カール・ビンソン(乗組員約5000人、艦載機FA18などが約90機)が駆逐艦や巡洋艦を伴い、また米国からは331日にサンディエゴを出港した2隻のミサイル誘導(イージスシステム)駆逐艦が、北朝鮮近海に向かっており、4月下旬には到着する見通しだ。
 現時点ではまだ威嚇行動の範囲にとどまってはいる。しかし、もしレッドラインを超えたら、米国は軍事攻撃を含めあらゆる選択肢を排除しないと表明している。軍事行動の場合、米国は全面的な戦争ではなく、特殊部隊による「斬首作戦」として独裁者一人を殺害する方針を示している。2013年のパキスタンでのアルカイダの首謀ビンラディン殺害と同じ手口だ。
 金正恩は近親者を含む相当数の側近を処刑しており、人心は既に離反している可能性が高い。独裁者一人の斬首計画が成功すれば、北朝鮮軍が後継者を立てて戦闘行為を継続する可能性は低いとみなしているのだろう。但し、意に反してもし戦闘が長引けば、難民流出、暴発、などリスクの次元は変わる可能性はある。
 レッドラインを越えなくても、かつて北朝鮮は38度線近辺での地雷や離島へのミサイル発射などを行った実績がある。こうしたマイナーな威嚇行為なら、これまでと同様に米軍が出撃する程のことではないと見て良いだろう。むしろ逆に中国や韓国が仲裁に入ることで、北朝鮮の仲介役が処刑されて閉ざされた交渉窓口が再開されるなど副次的効果が期待できる可能性はある。
(3)日本
北朝鮮は攻撃のターゲットは日本の在日米軍だと公言している。もし斬首計画の前、あるいはその後の戦闘が長引けば、2月の日米首脳会談でトランプ大統領が「The USA stands behind Japan(米国は日本とともにある)」と発言した日米安保の集団的自衛権が試される局面を想定しておく必要があるだろう。
 軍事衝突となれば難民についても相当数が日本に流れ着く可能性が高い。また、最近は自公連立政権の運営がスムーズでない場面が目立つが、日本の政界再編にまで発展する可能性さえあるだろう。
 安倍総理は2017年4月27日に訪露して日露首脳会談を実施する予定だ。主たる議題は昨年12月の山口での安倍プーチン会談で方向づけしたサハリンの共同経済開発の詳細のはずだった。しかし、往々にして政治関係で波風が立てば経済関係も上手くいかなくなる。今回は難しい日露首脳会談になるリスクが高い。
 2017年418日からは初の日米経済対話が開始される。日本は米国から輸入拡大を迫られるか可能性が高いと見られているが、高高度ミサイル防衛システム、イージズ艦など防衛関連なら国民の支持を得やすいと見る向きは多い。
 最後となるが、意思決定は執行されてこそ初めて意味を持つ。執行に向けコンティンジェンシー計画を再確認する作業は、フィデューシャリー・デューティーとして当然の責務だろう。
(*)本記事は「りそな銀行 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~」より転載したものです。
(*)投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。本記事の情報に基づく損害について株式会社JBpressは一切の責任を負いません。


③なぜ「接続性」の地政学が重要なのか?

中西 享 (経済ジャーナリスト)
パラグ・カンナ インド出身の新進の研究者。1977年生まれ。米国ジョージタウン大学で博士号を取得。ブルッキング研究所などを経て、現在はCNNグローバル・コントリビューター、シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員。今年1月に原書房から『接続性の地政学「『接続性』の地政学 グローバリズムの先にある世界」』(上下2巻)を刊行した

「地図に描かれている国境線はあまり意味がなくなり、輸送、エネルギー、通信のインフラネットワークがこれからの世界秩序を考えるキーワードになる」
 インド出身のパラグ・カンナ・シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員は日本記者クラブで講演、「従来の国境線を土台にした地政学は再考すべきで、複雑化する世界情勢を理解するためには『接続性』(Connectography)をベースにした新しい解釈が必要になり、インフラによる都市間の『接続性』が新しい国際秩序を作る」と指摘した。

間違った地図
 人類は6万年の歴史で、輸送、エネルギー、通信の3分野のインフラを構築してきた。特に冷戦終了後の25年間に、インフラの「接続性」の量が拡大し、あらゆる国境を圧倒するボリュームになっている。このため、これまでは自然環境を表した地図、政治状況を示した地図だったが、これからはインフラの機能を示した地図が最も重要になる。
 しかし、この機能を表した地図はオフィスや学校の教室には掲げられていない。このことが今世紀、大きな心理的、メンタル面で大きな間違いを生んでいると言いたい。私はこの誤った世界の見方を変えたい、革命を起こしたいと思う。最近は世界の動きを「接続性」でとらえようとする機運が出てきている。
 島国である日本にとって「接続性」は重要な意味がある。これからの「パワー」は、日本がその他の社会とどの程度「接続性」を持つかを地図の上に表し、定量化することが必要になる。
国境を超えたメガシティ
 国境を超えた「接続性」がいかに重要かという事例を2つ挙げる。一つは、マレーシア、シンガポール、インドネシアの3か国で、もう一つは中国南部の広州から香港までの珠江デルタ地帯だ。2つの共通点は、インフラが国境を再定義し、2から3の当事者がインフラを通して経済統合で合意したことだ。マレーシアの中で最も急成長しているのがシンガポールに近い南部地域で、インドネシアと一緒に経済特区などができ、電機、造船、繊維、不動産などが伸びている。珠江デルタ地帯には、英国が香港を中国に返還された1977年以降、中国が相当程度の投資を行った結果、この地域はいまでは東京を上回るほどの世界で最大規模のメガシティになっている。予測では、珠江デルタ地帯は20年か25年までには経済規模は25兆㌦になり、インドより大きな規模になる。
 世界の中では、4050の都市が最も重要になり、「都市列島」ができてきている。世界の人口は頭打ちになりつつあり、100億人を超えることはないだろう。この中で、人口は大きな都市に集中するようになる。日本の企業がインフラに技術を輸出する場合は、こうした都市に向けられるべきだ。
「接続性」強化が重要
 
 チリで20173月に行われたTPP(環太平洋連携協定)加盟国の会合には、TPPを提唱した米国は来なかったが、中国が参加した。貿易関係は地政学的には歴史に基づいたものだが、いまでは変化してきている。かつては国境をめぐる戦争が起きていたが、いまや「接続性」、マーケットアクセスをめぐる戦いが起きている。中国はいまや世界の120か国の最大の貿易相手国になりつつある。パキスタンや東アフリカの国が重要な貿易相手国になり、同盟関係を強め軍事関係を強めてもサプライズではない。
 グローバリゼーションは弱まることはなく、今後、強まるだろう。
 20世紀は欧州と米国の関係が大きかったが、21世紀になってからは欧州とアジアの関係が欧米の関係を凌駕してきている。欧州と中国、インド、日本、東南アジアの貿易量は年間15兆ドルにもなっている。欧州とアジアとの関係ではインフラ整備ができておらず、だからこそ、中国の習近平国家主席が広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出した。3週間前に北京で開催された「一帯一路」サミットは、地政学的にも大きな意味がある。ユーラシア大陸にある国は、これにより戦略的目的、野心が変わってくる。
 「一帯一路」構想のプロジェクトは実現には収益性などで懸念があるが、最終的には実現されるだろう。日本がアジア諸国に影響力を行使したいのであれば、相手国との間の「接続性」を強めなければ影響力を行使できない。
新たなグローバルシステム
 東南アジアのインフラをめぐって世界的に競争になっているが、最終的には力の源泉は軍事力ではなく、エンジニアリングの力による。欧州には世界のトップ25のエンジニアリング・建設会社があるが、米国には3つしかない。このため、欧州はアジアのインフラ整備に力を入れようとしている。
 地政学の土台は、領土を支配する大きさに規定されていたが、新しい考え方を取り入れなければならない。今の時代の「力」は、「接続性」の密度と価値で測るべきだ。イデオロギーや歴史、文化のつながりではなくサプライチェーンに関する相互補完性で考えなければならない。
 米国と欧州は西欧文明による文化を共有しているが、いまや欧州はアジアとの「接続性」を強めようとしており、根本的に欧州の戦略は変わってきている。このように「接続性」をめぐる競争は、新たなグローバルシステムを誕生させて、いまよりも良いものになる。「接続性」が強じんになれば、多様なオプションが生まれる。
 その最たる事例が石油だ。イラン、イラクなど中東で不安定リスクはあるが、石油価格は安くなっている。その理由は、石油需給を調整させる道筋があるからだ。昨年は米国の石油の最大の消費国が中国だった。5年前には中東の石油を巡って戦争がおきるかもしれないとささやかれていたが、いまや両国は石油の売買をしている。「接続性」には矛盾がある。場合によっては戦うこともあるが、米中のように長期的には石油価格を安定化させる面もある。
中国の情報量の伸びは相乗的
 中国ではフェースブック(FB)、イーベイ、アマゾンなど欧米の製品を使いたい意欲をそぐことができるが、国内ではこれらが使えなくても、これよりもっとベターなアリババ、ウィーチャットが通信手段として使われている。覚えておいてほしいのは、情報のオープン度合い、開放度合いは、ニューヨークタイムズやFBを読んでいる人の数だけでは測れないことだ。データの流れを調べるには、どの程度の情報交換がさまざまなサービスを通じて行われているかを調べなければならない。世界と中国をつなぐ情報の「接続性」は、FBがあるなしにかかわらず、相乗的に伸びている。

ブレジンスキーの地政学 その①



2017年8月24日木曜日

IOTを攻撃するマルウェア「Mirai」についての覚書

世間を騒がせているIoT向けウイルス「Mirai」とは?
その仕組みや大規模流行した理由、対策などを紹介する

20170123 17:55  http://blogos.com/article/206969/

IOTとは何か?》
(『IOTとは何か~技術革新から社会現象へ~』坂村健著 KADOKAWA株式会社 2016年3月発行 より)

 IOTInternet of Things)は、オープンなインフラ技術になることを目指している。IOTは、言葉通りにとれば「モノのインターネット」。「インターネット」という言葉が入っているが、これは単にモノをインターネットで繋ぐという意味ではない。
 IOTはむしろ「インターネットのように」会社や組織やビルや住宅や所有者の枠を超えてモノが繋がれる、オープンなインフラをめざす言葉と捉えるべきだ。
 そして、今のインターネットが、主にウェブやメールなど人間のコミュニケーションを助けるものであるのに対して、コンピュータの組み込まれたモノ同士がオープンに連携できるネットワークであり、その連携により社会や生活を支援するものがIOTである。

坂村健氏記念講演会

《サイバー攻撃を可視化できる技術リンク》

 2016年後半から猛威を振るい始めたIoTInternet of Things)機器をターゲットにしたウイルス(マルウェア)「Mirai(ミライ)」。最近ではニュースでもちらほらと聞くようになったと感じる人もいるのではないでしょうか。
 本記事では、今世間を騒がせているウイルスのMiraiについて、その仕組みや拡大した理由などを詳しく紹介していきたいと思います。
■かつてない大規模DDoS攻撃で発覚

 2015年、2016年にセキュリティージャーナリストのBrian Krebs(ブライアン・クレブス)氏や仏・ホスティングサービス会社のOVHDNSサーバープロバイダーのDynを標的としたかつてないほどの大規模なDDoS攻撃が発生しました。
 その攻撃に使われたのが、Miraiと呼ばれるIoT向けウイルスでした。
IoT向けウイルス「Mirai」とは?

 MiraiIoTデバイス向けのウイルスで、感染したデバイス同士で攻撃用のネットワークである「ボットネット」を構築します。
 通常、大規模なサービスやシステムに攻撃する際、攻撃用の機器が1台しかなければビクともしませんが、攻撃用の機器が多数になるとどうでしょうか。
 まさに「塵も積もれば山となる」で大量の機器から一斉に攻撃がしかけられると大規模なサービスやシステムであってもひとたまりもありません。
Miraiが大規模流行した理由

 20161001日に「Hack Forums」にanna-senpaiと名乗るユーザーが、Miraiのソースコードをアップしたことで、爆発的に広まったと推測されています。

もともと、Mirai自体は20168月末頃にセキュリティー関係サイト「Malware Must Die!」で取り上げられており、国外では話題になっていました。
 しかし、その頃はまだソースコード自体が公開されていなかったため、ここまで大規模な攻撃に発展することはありませんでした。
 しかし、Hack Forumsでソースコードが公開されたことにより、他の攻撃者も手軽に利用できるようになり、結果、大規模な攻撃に発展したのです。
Miraiの感染の仕組みは……

Miraiはネットワークに接続されているIoT機器を片っ端からスキャン(探)し、telnetとよばれる機器同士で通信を行うプロトコル(仕組み)で感染させるターゲットの機器(被感染端末)にログインして、Miraiを感染させます。
 telnetで被感染端末にログインするにはIDとパスワードが必要ですが、大多数のIoT機器には、メーカーごとに共通の管理者IDとパスワードがはじめから設定されています。
 みなさんが家で利用する無線LANルーターも初期設定を行うための、ログインIDとパスワードが説明書に書かれていたなんて経験ありますよね。

 Miraiの開発者は、このメーカーが初期出荷時に設定する管理者IDとパスワードをリストアップし、Miraiへ組み込んでいます。
 そして、被感染端末へこのリストに載っているIDとパスワードを使ってしらみつぶしにログインしようと試みます。
 被感染端末を所有している人が、この管理者IDとパスワードを初期設定時から変更していなければ、Miraiが不正ログインを試行し、感染してしまうのです。
■気がつけばあなたも攻撃者に荷担している

 さてお気づきの方もいるかも知れませんが、Miraiがもしあなたが所有しているIoT機器へ感染するとどうなるでしょうか。
 攻撃者は、あなたが所有しているデバイスを使用して、個人や企業が運営しているサービスやシステムへ攻撃し始めます。
 そうです、あなたも知らないうちに攻撃者の一員に組み込まれてしまうのです!
 Miraiは幸い、ストレージの上で動作するのではなく、メモリー上で動作しますので、IoT機器の電源を切って、再度立ち上げればMiraiIoT機器から取り除くことができます。しかし、対策をしなければまたすぐにMiraiに感染してしまうのです。
■企業とユーザー双方で対策を行う必要がある

 IoT機器を製造している企業ももちろん対策を行う必要がありますが、どうしても利便性などを考えると、企業だけではどうしても対策ができません。
 であれば、IoTデバイスを利用するユーザーもセキュリティー意識を高めて、対策を取る必要があります。
 今回のMiraiの件であれば、不用意にIoT機器をインターネットに接続しない、管理者IDとパスワードを変更する、安易なパスワードは設定しない、セキュリティー対策機器を導入するなどが挙げられます。
 例えば、セキュリティー対策機器では、トレンドマイクロが昨年125日にスマート家電をはじめとするIoT機器向け「ウイルスバスター for Home Network」を発売しています。
■まとめ

これから先IoTデバイスはどんどんと普及していき、日常生活とは切っても切り離せないような物になることが容易に予測できます。
 利便性が向上する一方で、犯罪に利用されてしまう危険性も格段に向上してしまいます。利便性をただ享受するだけではなく、きちんと意識してセキュリティ対策を行っていきたいところです。


今問い直されるべき日米関係、日本国は「軍事大国」をめざせ!

口先だけの日米同盟強化、北朝鮮と中国は意に介さず

日本に対する軍事的脅威は高まる一方

北村淳                        
日米安全保障協議委員会(2プラス2)の会合に臨むため米首都ワシントンを訪れアーリントン国立墓地を訪問した河野太郎外相(左)と小野寺五典防衛相(2017816日撮影)。(c)AFP/MANDEL NGANAFPBB News

 平成29817日、日米外務・防衛トップによる日米安全保障協議委員会(いわゆる「2プラス2」)の共同発表において、2015年版「日米防衛協力のための指針」を着実に実施していくこと、ならびに日米同盟のさらなる強化を推進することが再確認された。
「日米同盟の強化」とは?
 今回の会合のみならず、日本政府高官などがアメリカ政府高官や軍当局者たちと会合すると、常套句のように「日米同盟の強化」が強調される。少なくとも安倍政権が誕生して国防力の強化を口にするようになって以来、「日米同盟の強化」は日米共通の基本方針として何度も繰り返し打ち出されてきた。
「日米同盟の強化」の重要な目的、とりわけ日本にとって最も重要な目的は、「日本に対する軍事的脅威に対する抑止力を強化すること」、すなわち「抑止効果の強化」にあるとされている。
 もちろん日米同盟が軍事同盟である以上、「日米同盟の強化」とは「日米同盟から生み出される戦力がトータルで強化されること」を意味している。すなわち日米同盟が強化されれば、自衛隊と日本周辺に展開する米軍の戦力がトータルで強化され、その結果として日本に対する軍事的脅威は抑止される、ということになる。
強化されていない抑止効果
 だが、数年前からまるで念仏を唱えるように「日米同盟の強化」が唱えられてきたものの、1年前、2年前、3年前・・・に比べて具体的にどの程度、日米同盟は強化されてきたのであろうか?
「日米同盟の強化」の目的とされている「抑止効果」という観点から判断するならば、「抑止力など強化されていない」ということになる。なぜならば、北朝鮮軍や中国軍による日本に対する直接的・間接的軍事的脅威は、1年前、2年前、3年前・・・に比べて抑止されるどころか、ますます強化されつつあるからだ。
 北朝鮮の日本攻撃用弾道ミサイル戦力が“日米同盟の強化に恐れをなして”弱体化される兆候は全くない。それどころか、対日攻撃用弾道ミサイルの精度は上がり、対日攻撃用の潜水艦発射型弾道ミサイルやミサイル潜水艦まで誕生してしまった。
 それだけではない。核弾頭やそれを搭載してグアムやハワイそれにアメリカ本土まで攻撃可能とみられるICBMまで開発してしまったのだ。過去数年にわたる「日米同盟の強化」が、北朝鮮の対日軍事的脅威に対して抑止効果を生み出しているとは、到底考えることはできない。
 中国の対日軍事的脅威に対してもしかり。中国人民解放軍は北朝鮮とは比べものにならないほど多種多様の対日攻撃用長射程ミサイルを大量に保有しており、核弾頭を用いずとも、日本全土を灰燼に帰する準備が整っている。ところが、日米同盟が強化されているはずの過去数年にわたって、それらの日本攻撃用長射程ミサイル戦力は弱体化されるどころか、ますます強化され続けている。日米両政府が唱えている「日米同盟の強化」が、人民解放軍の対日ミサイル脅威に対して抑止効果を発揮しているとは、やはりみなすことはできない。
 日本の安全保障に重大な脅威となる東シナ海や南シナ海に対する中国の軍事的進出状況も、過去数年間でますます強化されている。
 東シナ海では、日本の領海や接続水域への接近・侵入事案が多発し続けている。日本の領空に接近する恐れがある中国軍用機に対する航空自衛隊のスクランブル件数もうなぎ上りの状態だ。南シナ海では、本コラムでも繰り返し取り上げているように、南沙諸島に人工島を建設し軍事基地化も猛スピードで完成しつつある。そのため、南シナ海の軍事的優勢は、中国側の手に転がり込みつつあるのが実情である。
 このように、日米同盟が強化されつつあったはずの過去数年間で、東シナ海や南シナ海への中国軍の活動は抑止されるどころか飛躍的に強化されてしまった。
「自衛隊の打撃力」構築が鍵
 もちろん、日本周辺に展開するアメリカ軍が戦力を縮小してしまったというわけではない。2015年版「日米防衛協力のための指針」が公表された際の2プラス2共同発表や、両国首脳や国防当局などが事あるごとに確認し合ってきたように、アメリカ軍が日本周辺に最新鋭兵器を含む強力な戦力を展開させ続けていることは事実である。
 ということは、これまでの日米同盟の戦力構成、すなわち「自衛隊の防御能力」プラス「アメリカ軍の打撃能力および防御能力」(しばしば「日本が盾、アメリカが矛」という表現がなされるが、アメリカ軍自身も強力な防御能力を保持していることは言うまでもない)では、もはや中国軍や北朝鮮軍の対日軍事的脅威を威嚇することはできないということを意味している。
 したがって、日米同盟の戦力をトータルで強化するには、これまで実施されることがなかった「自衛隊の打撃能力」を構築し、日米同盟の戦力構成を、「自衛隊の防御能力および打撃能力」プラス「アメリカ軍の打撃能力および防御能力」へと転換しなければならい。
 もっとも、このような趣旨の同盟強化は、すでに2015年版日米防衛協力のための指針」に明記されている。だからこそ今回の2プラス2共同発表でも、あえて2015年版「日米防衛協力のための指針」の実施が強調されたものと思われる。

 しかしながら、日本の国防・外務当局側には、依然として「日米同盟の強化」を「アメリカ側が喜ぶような施策を実施すること」と履き違えている感が否めない。すなわち、日本防衛の優先順位にかかわらず、高額兵器をアメリカから購入するといった事例が目立つ。日本政府は、日本が「日米同盟を強化させる」ために必要なのは、「自衛隊に打撃能力を付加すること」との認識を明確に持ち、アメリカ側から注文される前になけなしの防衛費(もちろん防衛費総額の倍増は急務なのだが)を有効に活用していく責務がある。

《維新嵐》日米同盟、つまり第二次大戦後の日本のアメリカによる「占領統治」という名の下における実質上の「保護国化」による日米関係は、日本の軍事力を「戦勝国」でありながら恐れたアメリカが日本の軍事力を恐れて再軍備を認めなかったところからスタートした関係ですね。
日米戦争で日本軍の力、日本人の精神性に恐怖したアメリカ軍は再軍備を否定するとともに天皇との信頼関係とともにあった日本人の精神性を破壊し、アメリカの脅威に二度とならないようにすることが狙いであったといえるでしょう。
 そうであるなら軍事的に我が国が現在、国際的にみて非常識な法的な縛りにあえいで、パリ不戦条約で認められている自衛戦争さえも国民的なコンセンサスにおいて肯定されない国になっていること自体が、「日米同盟の弊害」であり、「日米同盟の実態」といえます。
 ソビエト連邦の脅威に対抗していた冷戦時代であれば、主人のアメリカ、従者の日本という日米同盟で関係は機能していました。しかしソ連は崩壊し、新たに共産中国の脅威が顕在化してきた現在、北朝鮮の脅威も新たになってきた現在、従来の日米関係では、戦略的に対応できなくても不思議ではありません。
 核兵器保有を我が国に認める考えには同意できませんが、軍事国家としての日本国を再興する課題をアメリカは容認すべき時がきているといえるのではないでしょうか?
 軍事経済大国としての我が国と「対等の」日米関係を構築し、民主国家ロシアと「相互防衛援助協定」を結んで、日米露の3国の同盟関係で新しい北東アジアの基軸とすべきです。(あくまで私論です。)

新たな軍事兵器、戦略兵器として考えられるサイバー攻撃。
我が国は、核兵器保有などという戦略爆撃論という過去の戦略論を後追いすべきなのでしょうか?
核エネルギーは、これからの時代、人類の生き抜く手段として再定義されるべきです。軍事的な運用手段である核兵器、生活エネルギーの運用としての原子力発電所は、従来の運用方法は見直され、廃止されこともためらうべきでないと思います。AIの軍事的活用は今後進展し、無人兵器の誕生は時間の問題でしょうし、本来SIGINTの応用であったサイバー攻撃は、今後、いや現在も軍事兵器として活用され、その幅は拡大しているように思います。「人が人を殺す」戦争の形は急速に、静かに変革していっているのではないでしょうか?

【相次ぐ米軍艦の衝突事故】サイバー攻撃が原因との声も
AFPBB
AFP=時事】今週シンガポール沖で死者を伴う衝突事故が起きるなど、米軍艦が絡む事故がアジア海域で相次ぐ中、一連の事故の原因について、米海軍はサイバー攻撃の可能性を考慮せざるを得なくなっている。
 米海軍のセキュリティーシステムを考えれば、そうした衝突事故を仕組むことなどあり得そうもないと考える専門家がいる一方、最近の事故の原因を人為的ミスや偶然で片付けるのは説明として不十分だと主張する専門家もいる。
 シンガポールの港に向かっていたミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン(USS John S. McCain)」は21日朝、タンカーと衝突。船体に大きな穴が開き、乗組員10人が行方不明となり、5人が負傷した。

© AFPBB News 提供 シンガポールのチャンギ海軍基地のドックに入った、衝突事故による穴が開いたままの駆逐艦「ジョンSマケイン」

 米海軍は2017年8月22日、捜索に当たっていたダイバーが艦内の浸水した区画で複数の兵士の遺体を発見したと明らかにしている。

 米海軍では2か月前の20176月にも、静岡県・伊豆半島沖の通航量が多い海域を航行していたイージス駆逐艦「フィッツジェラルド(USS Fitzgerald)」がフィリピン船籍の貨物船と衝突し、米艦側の乗組員7人が死亡する事故が発生。複数の将校らが処分を受けた。

 この2件以外にも、今年に入ってあまり知られていない事故が2件起きている。1月にはイージス巡洋艦「アンティータム(USS Antietam)」が神奈川県横須賀市沖で座礁。5月にはミサイル巡洋艦「レイク・シャンプレイン (USS Lake Champlain)」が韓国漁船と衝突した。いずれの事故でも負傷者はいなかった。

 一連の事故についてイスラエルを拠点とする国際サイバーセキュリティー企業「ボティーロ(Votiro)」のイタイ・グリック(Itay Glick)最高経営責任者(CEO)は、米軍艦のGPS(全地球測位システム)がハッカーによって改ざんされ、現在位置の特定を誤った可能性があるとの見方を示した。
 イスラエルの情報機関のためにサイバーセキュリティーの仕事に取り組んだことがあるというグリック氏は、最も疑わしいのは中国と北朝鮮であろうと語った。
 また、グリック氏は今年6月に黒海(Black Sea)で起きたGPSへの大規模な妨害とみられる出来事を指摘し、そのような干渉は可能であろうと説明。船舶の装置上に不正確な位置が表示されるのを狙う「スプーフィング(なりすまし)」と呼ばれる干渉によってGPSの信号が妨害され、報道によると約20隻が被害を受けたという。
 米国を拠点とするサイバーセキュリティー企業「Wapack Labs」のジェフリー・スタッツマン(Jeffery Stutzman)氏はAFPに対し、シンガポール沖の事故原因がサイバー攻撃だった可能性は「十分にあり得る」と語った。【翻訳編集】AFPBB News

【米駆逐艦衝突】事故直前に操舵不能に? 米CNN報道

【ワシントン=黒瀬悦成】米CNNテレビは20178月22日、シンガポール東方沖の南シナ海で起きたイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」とタンカーの衝突事故について、マケインの操舵システムの異常が衝突につながった可能性があると伝えた。
 米海軍当局者がCNNに語ったところでは、マケインは操舵機能が衝突の直前に失われ、事故後に回復した形跡がある。マケインには予備の操艦システムが搭載されているが、同システムは使われていなかった。
 米海軍のリチャードソン作戦部長は21日、記者団に対し、イージス艦がサイバー攻撃を受けたことを示す証拠は現段階で見当たらないと説明した上で「調査では全ての可能性について探る」と述べた。
 ホワイトハウスは22日、事故に関し声明を発表し、犠牲者の家族や友人に「哀悼の意」を表明した。

《維新嵐》サイバー攻撃(標的型ウイルス攻撃?)であれば、「誰が」がわからないステルス攻撃です。限りなくその臭いはするが、よくわからない、真相は闇の中、ただ攻撃手法は調査で後日判明する、そんな戦争形態に変化しているのが現代国際社会といえますね。